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異能な僕らの青春期  作者: 戌叉
一章
22/68

21 本音

「お、美味しかったです」

「そう、それはよかったわ。残さず食べてね」



拷問だ。不味いとしっかり聞いたうえで無理矢理美味しいと言わせる。ここでまた不味いと言えば次は何をされるかわからない。しかし、その逆を選んでも結果は変わらないときた。



瑞己は震える手をオムライスに向ける。しかし、そこから手が動かない。どうしてもこれを口に入れることに抵抗がある。体が拒絶反応を起こしている。何とか逃げる方法はないだろうか。



「鈴ちゃん、悪いけどそのオムライスは確かに美味しくなかったよ。あんまりその子をいじめてやらないでおくれ」



ここでおばちゃんの助け船がようやく来てくれた。



「だって……」

「お前さんもこの子の気持ちも考えてやんな。確かに旨い、不味いと言えば不味いよ。けどね、鈴ちゃんはあんたに食べてほしくて作ったんだよ。その気持ちを蔑ろにするのかい? 味はどうであれ本音は口に出さないと伝わらないよ。わかったかい?二人とも」

「「……はい」」



鈴には苦手意識がある。それに第一印象は最悪。それでも、真っ直ぐな性格は嫌いじゃない。そんな彼女が何のためかはわからないが、少なくとも瑞己に食べてもらいたくて作ってくれたのは事実。自分の保身のためとった行動が鈴の気持ちを傷つけていたと痛感させられた。



(これは、俺が悪いな)



覚悟は決めた。震えるスプーンを無理矢理口に運ぶ。



(あぁーーーー!)



休まずに次々と不味いオムライスを飲み込む。困惑する鈴。やれやれとおばちゃんは満足そうにそれを眺めている。



そして、最後の一口。ごくんっ!



「ご、ご馳走さまでした」

「……何で」



最早、唇の感覚はない。何かを失ったかもしれない。



「不味い」

「え?」

「不味い、ちょーーーーまずい!」

(言った、言ってやったぞ)



これまでの鬱憤も含めて言い放つ。



「お、美味しくないなら食べなきゃいいじゃない!」

「あーー不味い。こんな不味いの食ったことない」



裏切られたような顔で鈴は瑞己の胸ぐらを掴む。今にも噛みつきそうな勢いだ。隙間から見える八重歯に噛み千切られたらさぞ痛いだろう。



けれど、般若も驚きそうなその形相は長くは続かなかった。瑞己の胸ぐらは掴んだまま、目に涙を浮かべ始めた。



「頑張って作ったのに、料理なんてしたことないのに」

「なら、次は美味しく作ってくれ」

「……え?」



鈴の望む返事ではないが、言わなければ伝わらない。手料理を作ってくれた彼女に男として言うべきことを言う番だ。



「次はちゃんと作ってくれよ、デスソースと隠し味抜きで。それと、手料理自体は嬉しかった」



本音は伝えたが、やはり多少は照れるものがある。



鈴は自分よりも自信に満ちて堂々としている、そう思っていた。でも、今の彼女を見ると瑞己は過大評価だったと気がついた。目の前にいる女の子は野獣でも天才でもない。苦手なことに挑戦して、失敗して、涙を流す普通の女の子だと。



「鈴でいいわよ」

「あー、うん。わかった」


何かを求めるようにジト目になる鈴。



「……鈴」

「うん!」



名前呼びを許可してくれたと言うことは少しは許してくれたのだろうか。瑞己を掴む手を離してくれた。鈴に笑顔が戻る。



「さて、仲直りもすんだね。鈴ちゃん、週に一度、時間があれば料理を教えてあげるよ。どうする?」

「うん、お願い」



料理の練習日程を決めてからおばちゃんは瑞己にはお仕置きと言い、頭に拳骨を喰らわせて帰って行った。結構痛かった。あの人はまだまだ長生きしそうだ。



「「…………」」

(気まずいな)



鈴と二人きりだ。高等部の生徒が使う広い食堂に二人だけと言うのも事が済んでしまったら居心地はあまり良くない。



ちらちらこっちを見る鈴。何だか妙に緊張する。



(……帰るか)



荷物は教室に置きっぱなしだ。少し億劫ではあるが携帯やら財布の貴重品がそこにある。取りに行かないわけにもいくまい。



「じゃぁ、また明日」

「待って」



早々に帰りたい瑞己を鈴が引き止める。まだ何かあるのだろうか。



「?」

「……次は何が食べたい?」



次の献立を聞かれた。気が早いなと瑞己は思ったがこちらの好みに合わせてくれるならありがたい。



何がいいだろうか。今日のオムライスを見たところ焼き加減に問題はなく、余計な味付け以外がなければ只の見た目の悪いオムライスになっていたと思う。となれば、シンプルな味付けで料理の技術があまり高くないものがいいだろう。



「カレーで」



これなら切る、焼く、煮るだけで失敗はしないだろう。



「わかった。次は美味しいって言わせるから、覚悟しなさい」

「ああ、そうだな」



鈴はビシッと瑞己に指を差す。これは覚悟しないといけないかもしれないな。今までのような鈴に対する苦手意識はなくなり、瑞己は次の機会に期待をする。



「それじゃ、また明日」



そう言って鈴は走って帰って行った。瑞己も食べ終わった皿を返却用のカウンターに下げてから鈴の後を歩きながら追いかける。



(その前にトイレに行こう)



ずっと我慢していたが、そろそろ限界が来た。瑞己は近くのトイレによってから教室に戻った。






教室に戻り、荷物を持って玄関に向かう。鈴とのわだかまりも解消されて、意気揚々と下駄箱を開ける。



「ん、写真? これは…………なっ!?」



そこには一枚の写真が置いてあった。忘れもしない。鈴に突然、体を密着させられた瞬間を捉えた写真だった。しかも、丁度互いに顔が重なっているように写っていた。これはまるで、



(……キスしてるみたいじゃないか!)



急いでポケットにしまって、誰にも見られていないか周りを警戒する。鈴のオムライスを食べていたおかげで帰宅時間とずれたため近くに人はいない。



「ふぅ、あれ?まだある」



写真に気を取られて気づかなかった。下駄箱には手紙も入っていた。嫌な予感しかしないが、見ないわけにもいかない。



こう言う時の手紙は、だいたいお決まりの流れになると容易に想像がつく。



その手紙にはこう書かれていた。



~この写真を学園中にばらまかれたくなければ建設中の建物に来い~



宛名はなし。ほら、脅迫状だ。

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