1 異能学園
紅く染まった視界と頬から伝わる冷たい地面の感触。
薄れていく意識の中、自分がこれからどうなるのかなんてわかりきっている。人間、その時が来たら乱心して発狂でもするのかと思っていた。
答えは意外にも冷静で「ああ、そうなのか」と、なんだか笑いたくなる変な気分だった。それとも、こんな有り様にした彼らのせいで気が狂ったのだろうか。
体から少しずつ力が抜けていくと、なんだか無性に眠くなってきた。こんなところで寝たら風邪でも引いてしまう。わかっていても重くなる瞼を止めることは叶わない。
(疲れたな………少しだけ、ほんのちょっとだけ休もう)
そうして彼は血溜まりでほんのり温かくなった床に意識を沈めていった。
「アハハハッ」
気を失う直前に小さな笑い声が聞こえたような気がしたけれど、それがいったい何だったのかはわからない。でも、何だか懐かしいような気がした。
それはきっと幻聴だろう。ここには彼しかいないのだから。
▽▽▽▽▽
「いってきます」
覇気のない様子で溜め息をつきながら瑞己は部屋を出た。二階建ての下宿に一人暮らしを始めてからもう一ヶ月がたち、新生活にもようやく慣れた。
「早いもんだなぁ」
高校入学・一人暮らし、あるようでなかなかないこの状況は普通であれば新しい出会いや偶然のハプニングに期待を膨らませるのではないだろうか。だが、瑞己の置かれている立場を考えるとあまり喜んではいられない。
「今日は実技あるのか……学園行きたくないなぁ」
きっと今朝の憂鬱な気分はこのせいだろう。
瑞希の通う学校、学校としての名前はないが公表されている正式名称は国立特殊能力者保護管理施設と言う。しかし、別称として世間に認知されている[異能学園]というのがしっくりきている。それに正式名所は舌を噛みそうなくらい長い。
異能学園は2027年に設立された小中高一貫教育。
最初の能力者が発見されてから、わずか半年で能力者の数が約三百人にも増えた。しかも、殆どが十五歳に満たない若者だったことで政府が急遽、保護という名目で建てた。しかし、その裏には異能を持つ少年・少女を監視・研究するためだと言われている。
「なんか、都市伝説みたいだな」
今年で設立二十年を迎える学園には全国から集められた約千二百人の学生が通っている。主に能力が発現した者、もしくはその適正があるものがここに入学する事になる。
能力の発現条件や適齢期はいまだ不明な為、基本的には自己申告をしてここに来る者が異能者になる。そして両親、もしくは兄弟に能力が発現している者が適正者にあたる。
「兄ちゃんは元気にやってるかな」
瑞希は適正者だ。ここに通う理由は瑞己の兄にある。今年から高等部三年になる東雲永遠に能力が発現したのは二年前。瑞己が中学生になった直後に異能が開花した。それから二年間はこの学園で過ごして来たのだから、瑞己の心配は杞憂だ。
「いいよな、異能持ちは。学園の中に寮があって」
学園では異能者限定で全寮制。適正者には自宅、もしくは下宿からの登下校になっている。これは監視と保護、そしてトラブルの未然防止のためだ。能力者には基本的には二人で一部屋で個室シャワー、トイレ完備。朝夕の食事付きで大浴場まである。
そして、高等部卒業後は異能に見合った職業もしくは自衛隊への入隊が確約されている。優遇されていると言っても過言ではないほどの待遇だ。
「ずるいよなぁー」
それ故に、学園では異能者というのは一つの格付けのようなものになっていた。異能を持ち合わせていない人にとっては、あまり居心地のいい場所ではない。そんな適正者と言う劣等生のレッテルを張られてもなぜ学園に通うのか。
本当なら適正者は強制ではないため異能学園にいく必要はない。一般家庭なら親が異能者だろうが一般校に通わせるだろう。しかし、それはあくまでも一般的な家庭や家系の話だ。瑞己にはそれが許されない理由がある。
それは世界で初めて異能を発現させたのが東雲家の大黒柱、東雲真を父に持って持ってしまったからだ。最初に異能を開花させたことで世界の常識を覆したのだ。
「将来は婿養子になって、名字を貰おう」
そんな切っても切れない血縁のせいで瑞己は朝から溜め息をつき、重い足を動かしている。
学園は一クラス三十人。その約九割が異能者になる。残り一割のメンバー、つまり適正者である瑞己にとっては普段から格下のように見られる為に行くようなものだった。彼らに悪気はないのだろうが無意識に向けられるからこそ、尚更たちが悪い。
そんな日常がまた始まると思うと、更に憂鬱になり溜め息が出てしまう。
初小説・初投稿です。
まず、この作品を読んでみようと思った読者の方、ありがとうございます。
第一話は説明ばかりでつまらないかもしれませんが、次話からもお付き合い頂ければ幸いです。
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