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異能な僕らの青春期  作者: 戌叉
一章
18/68

17 特訓の成果?

太陽と夏目がどうやって瑞己をAPC部に入部させるか作戦を考えている間、瑞己は生徒指導の先生に反省文を提出してぶらぶら歩いていた。



(さて、用事も済んだことだし。少し歩こうかな)



特に宛もなく廊下を進んでいると何やら外から音が聞こえてくる。足を止めて窓に近づくが、見渡す限り近くには人の姿が見当たらない。



(気のせいかな?)



窓を開けて耳を澄ましてみるが、それでも聞こえてくるのは微風が枝木を揺らすような自然を感じる心地の良い音だけだ。やはり、気のせいだろうか。



「ひゃっ!」



少しその余韻に浸っていると真下の方から女性の声が聞こえてきた。



声のする方を向くと見覚えのある女子がしゃがんだ状態で壁に寄りかかっていた。緊張と驚きを含んだ目で瑞己を見上げていた。



「えーと、雛水さんは何してるんだ?」



涼子は見られてしまった事に驚いたのだろうか、口をパクパクさせながら慌てている。



「えっと、あの、その……すいません」

「別に怒ってはいないんだが」



謝って欲しかったわけではないのだが、臆病な彼女に対しての接し方がまだわからない。瑞己はとりあえず涼子から喋り出すまで待つことにした。



「………………あの、実はこの子を見つけたんです」



そう言いながら瑞己からは見えない何かを持ち上げる涼子は瑞己に背を向けたまま立ち上がる。そのままちらりと瑞己を見る。



「あの……驚かないでくださいね」



振り返ると涼子の手に抱かれているものが露になった。


全体的に白っぽい毛に黒の斑点、細く長い尻尾に小さくピンとした耳、そして最も特徴的だったのが黄金色と薄水色のオッドアイ。



涼子が抱いているのは猫であった。それもまだ小さい子猫だ。



「子猫と遊んでたのか?」

「はい。遊んでいたと言うよりこの子が近づいてきたので少し牛乳を分けたら離れなくなってしまって」



よく見れば猫が涼子の胸に顔を擦り付けている。マーキングでもしているのだろうか。猫に吊られて瑞己はそれを見つめるがすぐに視線を戻す。



「そうだったのか。ところで、さっきのビックリしたような声はなんだったんだ?」

「あっ、あれは、その、ちょっと猫ちゃんに驚かされて」



何故かもじもじと赤面しながら猫と瑞己を交互に見る。猫に怪我をさせられたのだろうか。



「まさか引っ掻かれたのか?」

「いえ! 違います!」



途端にぐわっと顔を寄せて否定する涼子に驚いて思わずひゃっと言いそうになる瑞己。



「あ、すみません。えっと、猫ちゃんの手が少しあたっだけです」

「どこに?」



と、聞かれた涼子は猫の前足を優しく握って自分のある位置に当てる。



「……あー、すまん」



そこは涼子の胸であった。いろいろ察した瑞己は無神経な質問をしてしまったと謝る。



「いえ、大丈夫です……」



いたたまれない雰囲気が漂う中、子猫がみゃーと鳴きながら当てられていた前足を胸にぐいっと押し込んだ。すると、どうだろうか。彼女の臆病な態度とは真逆に、隠しきれないその主張はまるで水風船のような弾力で子猫の足を跳ね返す。



「ひゃっ!」



最初に聞いた声と同じ。



(そういうことか!)

「あっ、やっ、ダメッ!」



涼子の懇願は届くはずもなく、子猫は楽しそうに何度も繰り返す。



瑞己はすぐに顔を背けたがしっかり目に焼き付けた後なので色々と手遅れだった。それをわかっている涼子は、また見られたと口をパクパクさせて羞恥で顔を染める。


「み、み、み、」

「み?」



右手は子猫を抱えたまま、左手を大きく振りかぶる涼子。



「見ないでくださいっ!」

「ちょっ! 待っ!」



バチーーン!!



強烈なビンタが瑞己を襲う。女の子とは思えない衝撃で廊下に倒れた。



「ま、またか」

「あっ! ご、ごめんなさーい!」



その台詞を最後に涼子は泣きながら走り去って行った。



泣きたいのはこっちだと言ってやりたいが本人がいないので溜め息をつくしかない。一度ならず二度までも瑞己に手を出した彼女は本当に臆病なのだろうかと疑いたくなる。



「おー、どうした?」



なんだか聞き覚えのある声がしてそちらを向くと、へらへらしている担任の忠志が立っていた。



「どうもこうもありません。どうせ見てたんでしょう?」

「そりゃーバッチリ。特訓の成果、でてるでしょ?」



この男は何をいっているんだ。今しがた叩かれた瑞己を見て成果はどうかなんて質問に呆れてしまう。



「叩かれているんですけど?」

「そうだな、頬に跡がついてるしね」

「だったら、」

「気絶、してないだろ?」



気絶するしないの問題ではないと思うが、瑞己は渋々頷く。



「涼子は無意識で能力が発動するんだ。その加減の調整ときたら。まぁー、大変だったんだぞ」



大変、大変と言いながら忠志は自分の肩を揉む。胡散臭いと思いながら瑞己は説明を求める。



「人は目で見て脳で判断し体を動かす。それは、能力者が能力を使う時でも変わらない。が、判断より先に体が動くことがあるだろう?まぁ、いわゆる反射ってやつだ」



瑞己は言っている意味が理解できない。いきなり体の仕組みを説明されたところでそれが何の関係があるのだろうか。



「つまり、彼女の能力は反射によるものだと?」

「ざんねーん、不正解」



両手でバツマークを作る忠志に一瞬、殺意が湧いた。忠志はおしいなと首を振り、人差し指で瑞己の額をトンっと押す。



「涼子の能力は自分の意図したタイミングで能力が発動しないんだ」

「はい?」



また訳のわからない事を言っていると忠志の話に瑞己は追い付いていない。それを見て忠志がちょっとごめんねと言って瑞己の胸に手を添えてそのまま勢いよく押された。



「うわっ!」



その瞬間、体勢を立て直すため反射的に足を動かそうとするが全く動かない。



(あれ、ヤバっ!)

「っ!、いきなり何ですか!?」



そのままドンと尻餅をついた瑞己は押した張本人を睨み付ける。相変わらずへらへらしている忠志は瑞己に手を差し伸べる。



「今、わざと足を動かなくしたんだ。瑞己は転ばないように咄嗟に足を下げようとしたみたいだけど、動かせずに転んだだろ?」



やっぱりさっきのは忠志が何かしたようだ。恐らく彼の能力だろう。



「ええ、足が全く動かなかったです。でも、それと彼女の事と何が関係しているんですか?」

「涼子は能力を自分の意思で動かせないんだ。いつ、どのタイミングで能力が発動するのかがわからない。さっき瑞己は倒れないために足を動かそうとしたけど、逆に考えずにただ立っているときに足が勝手に動いたら」

(ああ、なるほど)



漸く合点がいった。そしてこれでやっと話の続きができる。



「それで、特訓の成果と言うのは?」

「まぁ、ここからは個人情報になるから詳しくは言えないが、涼子の発動する条件みたいなものはわかった。」



涼子とのやり取りを思い出す。一度目はゴムボール、二度目は素手。しかし、これだけでは共通点がわからない。



「それさえわかれば後は簡単だ。発動させて自覚の繰り返し、それを何度もやって無意識で能力を制限できるまでやっただけさ。お陰で今回は平手の後がつくだけですんでるだろ?そうじゃなきゃ、また保健室行きだ」

「それはそうですけど。会うたびに紅葉をつけられるのは勘弁して欲しいです」

「確かに改善の余地はまだあるが、涼子なりの努力の結果だ。それに男だろ。それくらい我慢するんだな」



と忠志は手を振って鼻歌を歌いながら行ってしまった。



確かに、気絶させるほどの威力が結構痛い程度ですんでいるのだから進歩していると言える。



臆病で人一倍優しい彼女が頑張って成長しているのだ。それに特訓の付随効果なのか瑞己との会話は以前よりは流暢にできていた。責めるばかりでは可哀相だ。ここは特訓の成果に免じて許すことにした。



「でも、やっぱり痛いな」

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