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異能な僕らの青春期  作者: 戌叉
一章
15/68

14 それぞれの夜

結局、鈴が何のために勝負を仕掛けてきたのかわからずじまい。それに加えて、諦めない宣言をされてしまった。



なんて面倒臭いんだろう。



携帯で時間を確認すると、もうすぐ十九時になるところだ。



今日はもう寝よう。明日は早く起きるだろうけど、その時はその時だと、明日の自分が何とかするだろう。



電気を消して瑞己は目を閉じ、少し早い眠りにつくことにした。






▽▽▽▽▽

同時刻、異能学園の建設中現場にて二人の男子が歩いている。



「ここなら、声や音が響いても誰も近づいてこない。それに龍悟にとって相性のいい場所じゃないかな」



颯が剥き出しの鉄柱を手の甲でコンッと軽く叩きながら言う。



「ああ、申し分ないね。ここであいつを泣かせてやる」



ポケットに手を入れたまま話す龍悟は、昼間散々バカにした一人の女子を思い出す。その女子が泣いて助けを求める姿を想像すると、にやけ面が止まらない。



「あとはどうやってここに呼び寄せるかなんだけど。例の写真、あれに写っていたもう一人の男を餌にしよう」



携帯で昼に偶然撮った写真を出して男の顔を確認する。不細工でも特別端正な顔でもない。何処にでもいるような普通の男だ。



「明日が楽しみだぜ!」



そう言って二人は去って行く。



二人が建物から出ていき、完全に人の気配も物音さえも聞こえなくなった後。



「あいつら本当にバカだな」



なにもないところから突如として現れた男が悪巧みの現場を目の当たりにしていた。



その男は考える素振りをすると、なにかを思いついたのかにやっと口角を上げる。その直後、また姿が見えなくなり消えてしまった。






▽▽▽▽▽

場所は変わり、女子寮の一室へ。



「鈴、どうしたの?帰ってきてから様子が変よ」



高校に上がってから鈴の友達になった羽嶋美音(はしま みお)がルームメイトでもある鈴に問いかける。



「え? ……そう?」



鈴の部屋、そこには鈴を含めていつもの三人が集まっていた。鈴、美音、そして三人目が小町春(こまち はる)



「そうだよ、りっちゃん! 不機嫌なのかご機嫌なのかわかんない顔してるよ」



二人は、鈴の一人百面相を見ながら苦笑いを浮かべている。



眉間に皺を寄せているのに口元はにやけている顔をしていれば、誰でも気になるというものだ。



「何でもないわ」

「いや、何でもない顔じゃないよそれ」

「そうね、悔しさ半分、嬉しさ半分って顔してるわよ」



ポーカーフェイスが下手な鈴を二人が挟むように座っている。



「無理には聞かないけどさ、その皺を寄せるのやめなよ」



鈴の眉間に春が指を当てて解すように動かしている。



「私は寧ろ、何があったのか聞きたいのだけれど?」



そう言って美音が鈴をじぃーっと見つめる。


高校からとはいえ、学園生活のほとんどを鈴はこの二人と過ごしてきた。まだまだお互いの事を深くは理解していないけれど、美音も春も年頃の女の子、口では言わないが恋話には興味深々なのだ。好奇心旺盛な二人から鈴は逃げるようにベットに飛び込む。



「教えない!」



放課後にクラスの男子を手に入れるために勝負を仕掛けて、その上負けたなんて恥ずかしくて言いたくはなかった。他にも目当ての男子に擽られたり、股がったなんて後から思い出せば顔が茹で上がりそうになる。



「仕方ないはね、鈴が言いたくなるのを待つしかないわ……」

「そうだね、うちら"友達"だもんね……」



そう言いつつうつ伏せになっている鈴に気づかれないように近づけて行く二人。言葉と行動が合っていない。目を爛々とさせ、二人でタイミングを合わせて鈴に飛び掛かる。



「へ?…ちょっと!……やめっ!あははははっ」



春が鈴をひっくり返して美音が横から鈴のお腹を擽る。鈴は抵抗しようにも春に腕を押さえられ足をばたつかせることしかできないでいる。しかも、少し前に瑞己に同じことをされている為、余計に敏感になっていた。



「ひっ、卑怯よ!」

「さぁ、そろそろ言いたくなってきたんじゃないかしら」

「ほらほら、観念しなってー」

「嫌よ! 絶対嫌!」



なかなかにしぶとい。二人掛かりで仕掛けているが、鈴も負けじと体を左右に大きく揺らす。



「ここまでやっても言いたくならないのね」



じゃあ、仕方がないわと美音は鈴のシャツを捲って腹を出す。手を触れるか触れないかギリギリの位置で止めて鈴を見る。



「今から五秒だけ数えてあげる。言わなかったら鈴が笑い崩れるまで続けるわ。大丈夫、安心して。私こういうの得意なの」



鈴は美音を睨んで口をきゅっと閉じる。言わずとも断固とした態度で思いを語る。



「……一……二……三……四……五。そう、覚悟しなさい」



そうして、美音が容赦ない指使いを披露してから十分後………



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……言う、言うから……もうやめてぇ」



女の子同士でなければ到底許されない行為に息も絶え絶えになり、口からはだらし無く涎がはみ出ている。



火照った体でぐったりしている鈴は、観念して今日の出来事を説明する。



「つまり、りっちゃんふられたの!?」

「なっ! ちがうから! そんなんじゃないから!」

「そうなの? どう聞いてもふられたようにしか聞こえないわよ」



鈴が必死な否定をしても軽く流されてしまい、二人には照れ隠しにしか見えていない。



美音と春も否定する友達を可愛いと思い、恋する友人のために人肌脱いでやろうと鈴の本音を勘違いしたまま異性へのアプローチ方法講座が始まった。



「うちはねぇ、気になる男子にはお弁当がいいと思う! まずは、胃袋を掴まなきゃ!」



うんうんと頷く凜。



「餌付けもいいけど、やっぱり弱味を握るのが一番手っ取り早いわ。そして私から逃げられないようにしっかり首輪をしなくちゃね」



一体どこから出したのか、大型犬用の首輪を取り出す美音。



「でたぁー、みーちゃんのドS。流石にそれは無いんじゃないの?」



それを見て春がひいている。鈴は意外と興味津々に首輪を見つめる。



「いいわね、それ!」



鈴が何かを閃いたように指を鳴らす。二人の意見を聞いてどうするのかというと、



「両方やるわよ!」



ということになった。



こうして、それぞれの夜が過ぎて行った。

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