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異能な僕らの青春期  作者: 戌叉
一章
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9 心臓に悪い事

「まったく、これはいったいどういうことだ?」



後ろから女性の声がする。



瑞己は声のする方を向こうとするが体が動かない。動くな、と聞こえた瞬間から意識はあっても体の自由を奪われたような感覚を味わっていた。



後ろから誰かが近づいてくる。動くことができない生徒達の隙間を通ってその女性は教室に入って来た。



「男子三人が喧嘩してるって言うから止めに来たんだがな。何で男子が女子に殴りかかってんだ?」



鈴と今まさに殴ろうとしていた男子の前で二人を交互に見てから新島の方を向く。



「それに新島、頭から血が出てるじゃないか」



新島の顔を中腰で確認する。



瑞己からは彼女の顔は見えないが後頭部で止めたポニーテールでパンツタイプのスーツにシャツを着てその上にジャージーを羽織っている。あと、何故か竹刀を持っている。



「取り敢えず、状況説明からしてもらおうか」



そう言いながら殴りかかる男子の拳に手を添えて指を鳴らす。次の瞬間、止まっていた時間が動き出したかのように体の自由が戻った。



「いってぇな!離せよっ!」



彼女は男子生徒の拳を受け止め、背中に回して関節を決める。手慣れた動きだ。



「まずは自己紹介からだ。私は1ーA担任、藤堂暁(とうどう あきら)だ」

「知らねぇーよ! いいから早く離せ……あぁー! いってぇー! ……わかった! 言う、言えばいいいんだろ」



言うことを聞かない男子に、更に強く腕を押さえ付けて強制的にしゃべらせている。



「1ーB 神島龍悟(かみしま りょうご)だ! ほらっ、言ったんだからさっさと離せよっ!」



解放された龍悟は痺れる腕の感触を確かめ、暁を睨み付けるように見る。



「そっちのお前とそこの女子、お前達は?」

「……尾木颯(おぎ はやて)

「1ーC 日向鈴です」



その後、暁は事の成り行きを三人、主に鈴から聞き始める。



「なぁ、あの先生、藤堂って言ったよな。もしかして知り合い?」



瑞己は太陽と同姓の暁について尋ねる。



「……うん、俺の姉さんなんだ」



苦笑いで太陽は答える。



太陽の説明では十歳差の姉弟だと言う。この学園には姉が能力者で尚且つ教職と言うこともあり、太陽の入学はかなり前から決まっていたらしい。



「見ての通り、うちの姉さん怒るとかなり怖いよ」



苦笑いしながら自分の姉に目を向ける。それにつられて瑞己も見ると竹刀で肩叩きながら腰に手を当てて話を聞いている。



凛々しいその姿はまさにスパルタ教師を絵に描いたようだ。



「なるほど、状況はよくわかった。まず、龍悟、颯、お前ら二人が兼也に謝れ」

「はん!嫌だね。何で俺が格下に頭を下げなきゃいけないんだよ」

「俺もイヤっすね。謝罪とか恥ずかしいし」



訳のわからない事を言う二人を見ていた瑞己達は呆れる。鈴なんかは龍悟に嫌悪の眼差しを向けてる。



「自分の能力に溺れて自尊心が抑えられない奴の典型だな」

「本当、見ているこっちが馬鹿みたい」



意外と息の合う暁と鈴。口を揃えて心底幻滅している。



「はぁー、もういい。お前ら早く教室に戻れ、担任には私から報告するからな。それと、兼也は保健室に行ってこい」

「ちっ!どけよっ!」



龍悟が舌打ちしながら教室を出ていく。その際、近くにいた生徒を突き飛ばして去って行った。



瑞己は起き上がり、ズボンについた埃を払う。



暁は鈴と廊下で見ていた野次馬にも教室に戻るように促していると、太陽がまたねと教室に戻って行く。



瑞己も教室に戻ろうとするとふと鈴と目が合う。次の瞬間、いつもの睨むような目付きに戻る。何を思ったのだろうか、そのまま鈴は瑞己に近づいてくる。



嫌な予感がする。逃げようとしたがそれぞれの教室に戻ろうとする生徒によって退路は阻まれていた。



「あんたも見てたのね」



手を伸ばせば届きそうな位置で止まる。身長差があるため、鈴は瑞己を見上げる。



「…まぁ」

「神島って奴のことどう思った?」



こうやって正面を向き、鈴をしっかりと見るのは初めてだ。



意外と華奢なことにきづいた。細い肩に非力そうな腕、しかし、年相応の女性らしい曲線は異性として意識せざるをえない。



「ど、どうって別に何とも。強いて言うなら自分のことを過大評価しすぎているみたいだったなって……」



鈴が一歩前に出る。瑞己が一歩後ろに下がる。



「ふーん。で、ただ見てたわけね」

「いやまぁ、殴られるのは嫌だし」



少しずつ距離を縮めてくる鈴に対して瑞己はそれに比例して後ろに下がるが、少しずつ壁に追い込まれていく。



そして、ついに逃げ道を塞がれた瑞己を鈴は下から覗きに込むように顔を見つめる。



「男のくせに根性ないわね」

 ダンッ!

「!?」



瑞己を逃がさないように両手を壁につける。



「………!!」



そこから更に追い討ちするように鈴が体を密着させてきた。



なんなんだよと思いながらも下から覗いてくる鈴を払いのけることができない。瑞己はなすがままだった。



華奢だがしっかりとした膨らみを制服越しに感じ、少しの微笑みを浮かべ、頬を染める彼女。同級生とは思えない魅力を感じた。高まる脈動は彼女にも聞こえているのだろうか。



そこから少し沈黙が続いた。鈴が瑞己をじっと見つめる。



仄かに香る女性特有の甘い香り。



自分か彼女かわからないが、心臓の音だけが頭に響く。



どのくらい沈黙が続いたかはわからないが、満足したのか鈴は密着させていた体を離す。



「決めたわ、あんたにする」



と言うと、鈴は瑞己から離れていつもの腕組ポーズになる。



「今日の夕方、教室に来なさい」



それだけ言うと鈴は振り返り教室に戻っていった。



瑞己は壁を背にへたり込む。思春期の男子には刺激が強すぎた。



唯一、近くに誰もいないことだけが救いだった。



「……なんだったんだよ」



いまだに心臓の音は鳴り止まない。暫くは動けそうもなかった。



「……心臓に悪いな」



鈴に対して苛立ちが込み上げる。けれど、あの甘い香をまた感じたいと思う葛藤がその感情を掻き乱す。



・・・・・



その頃、1ーBでは、



「くそっ!どいつもこいつも俺をなめやがって」



龍悟は騒ぎを聞き付けたクラスメイト達からは白い目で見られていた。それが更に龍悟の怒りを増長させる。



「能力さえ使えたらあんな小細工なんて俺には効きやしねぇんだ」

その苛立ちは机へと叩きつけられる。

「でも、学園内で能力を使ったら厳罰になる」



それを宥めるように颯は言う。



「そもそもあの女、あいつが邪魔しなければ…」



龍悟は横槍を入れた女子を思い出す。



「あの妙に目つきの鋭い奴な。それならさっき面白いのを見たぞ」

そう言って颯は携帯を見せる。

「へぇー、なるほどな」

「そう言えば、敷地内にまだ建設中の建物があったな」



龍悟は下卑た顔で颯を見る。颯も言葉の意味を理解してにやける。



携帯には、とある男女が密着している写真が写っていた。

瑞己と鈴のシーンはいかがだったでしょうか?違和感なく書けたつもりですが。


執筆してから自分で読み返すとなんだか恥ずかしくなりました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 本気で感謝……! この後の展開が気になりすぎて夜しか寝られなさそう…… ……1-bのやつ邪魔したらどうしてくれようか……
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