プロローグ
「お前は何なんだよ」
片手を無くし、自尊心を奪われた男が恐怖に怯えながら彼に問う。
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「君は何なの?」
銃口を突き付けながら、女は彼に問う。
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「ねぇ、貴方は何?」
姉を殺され、家族から見放された女の子が彼に問う。
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「君は誰だ?」
失いたくなくて、手放したくなくて、本心を隠して、我慢をして、事実から目を背け続けた男が彼に問う。
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「君は……自分を知っているかね?」
白い髭を蓄え、落ち着いた物腰で何もかもを知っているような口振り。愛娘を忘れられない哀れな老人が彼に問う。
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『君は僕の親友だ』
頭の中で何度も聞く台詞。その言葉を聞くと安心する。自分を疑わなくてすむ。化物かもしれないと考えなくてすむ。
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「僕の弟はお前に奪われたんだ」
慕っていた兄が彼に剣を向ける。憎しみと怒りを込めた瞳に映るのは弟の姿をした略奪者。
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「私の息子を……返せ」
漆黒の軍服を身に纏い、誰よりもその力を正しく使うと誓った男は、妻のため、息子達のために彼を裁くと決意した。
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「お願い、逃げないで」
心から惹かれる人に誓った、もう逃げないと。立ち向かうと。しかし、彼は怖くなった。もし嫌われたら、避けられたら、自分が化物だと知られたら、何もかも信じることができない。だから、彼は彼女から逃げた。
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『君は人間だよ』
「……違う」
『僕を信じて』
何を聞いても返ってくるのはそればかり。
「もう、やめてくれ」
『二人でいれば大丈夫』
「もう駄目だ」
『僕がついてる』
「うるさい」
脳が侵食されていくような感覚。都合が悪いことは何もかも忘れてしまいそうな、甘く、心地よい囁き。
『君はなにも悪くない』
「…………」
少しずつ、少しずつ、ゆっくりと彼の心から罪悪感が削られていく。全てを忘れてなかったことにしたい。そんな子供のような願いに答えると約束した。
身勝手な約束をしておきながら、それでも彼は自分が何者かを知りたい。それがどんなものだったとしても。
「誰か、教えてくれ」
彼は酷く震えた声で呟く。
「俺は……誰なんだ?」