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第8話:洗礼

 五歳になり、とうとう洗礼の日が来た。

 当然、実力が露見しないように、俺はすでに万全の準備を整えた。


 夜が明けると日差しが部屋の中に入ってきて眩しい。


 もう朝なのか。まだ寝続けたいが、今日は洗礼の日なので早く起きなければならない。


 目を開けて起きようとするが、綾可が俺に抱きついているせいで動けない。


「起きて、綾可」

「あと十分寝かせてください……」


 綾可はさらに俺をきつく抱きしめてきた。


 顔に綾可の豊満な胸に当たったため、一瞬で俺は赤面した。


「あぁもう、いいから早く起きろ!」


 力を入れて綾可を押しのけて、やっと彼女の腕の中から抜け出した。

 やばいと思っても少し動揺した。


 俺は起きて、綾可も起きた。


「おはようございます、ご主人様」


 と、眠い目を擦りながら挨拶する綾可。


「おはよう、綾可」


 お互いに挨拶した。


 俺の前にパジャマ姿の綾可。でも、彼女は肌の露出度が高いパジャマを着ているから、少し目のやり場に困ってしまう。


 この時―――とんとんとん。


「シルイド様、もう朝です、起きてください」


 と、メイドたちは部屋のドアをノックしてきた。


 綾可に目配せをすると、彼女はわかったとばかりに小さな光点になり、俺の身体に隠れた。


「俺はもう起きた、入って!」

「それでは失礼します」


 俺はベッドから立ち上がった。


 二人のメイドは部屋に入ると、俺にお辞儀をした。


 彼女たちは父さんに手配されて俺の日常生活を世話する使用人だ。二人とも立ち居振る舞いが落ち着いている。


「私たちはシルイド様のお着替えを手伝わせていただきます」

「わかった。それじゃ頼む」

「かしこまりました」


 鏡の前に行って立つと、メイドたちも近づいてきて俺が着ているパジャマのボタンを外し始めた。


 初めて彼女たちに着替えを手伝ってもらった時は恥ずかしく感じたけど、今はもう慣れた。


 普段は私服への着替えを手伝ってくれるが、今日は礼服への着替えを手伝ってくれた。

 この礼服は父さんが専門の仕立屋を招き、俺のために作らせたものだ。こんな高貴な服はきっと高いだろう。


「シルイド様、着替えは終わりました」


 間もなく着替えが終わった。


 初めて礼服を着るせいか、少し違和感を覚えたけど、この服がゆったりしていて着心地がよいと思った。


『ご主人様の礼服姿はかっこいいです!』


 いきなり綾可に褒められて頬を赤く染めた。


 着替えが終わると、洗面所に行って歯磨きと顔洗いをした。そのあとは朝食のために食堂へ向かった。


 自分の席につき、メイドたちは俺の後ろに控えた。


 食卓の上に多くの料理が並べられた。ステーキとかコーンスープなど、いずれも豪華で美味しそうだ。


 にわかに、食堂のドアが開いてクライードとクルヘームが入ってきた。


「おはようございます、クライード兄さん、クルヘーム兄さん」

「……っ」

「……っ」


 クライードとクルヘームに挨拶したが、彼たちはいつもどおりに俺を無視して自分の席につく。

 しかし、クライードとクルヘームを見ると、まったく元気がない様子だ。二人とも目の下にクマが出来てずっとあくびをしている。


 すると、父さん母さんも入ってきた。


「おはようございます、父様、母様」

「おはようございます、父上、母上」

「おはようございます、父さん、母さん」

「おはよう、クライード、クルヘーム、シルイド」

「おはよう、クラ、クル、シル」


 お互いに挨拶して、父さんも母さんも自分の席についた。


 皆は目を閉じて合掌しながら『いただきます』と言って食事を始めた。


「五歳おめでとう、シルイド」

「誕生日おめでとう、シル」

「ありがとうございます、父さん、母さん」

「あっという間にシルはもう五歳になった……。時間が経つのは本当に早いわね」


 母さんは感嘆した。


「シルに適した魔法がなんであるか楽しみだわ」

「うむ、シルイドは生まれながらに賢い子なので、きっと魔法の適性があるはずだ」

「……っ」


 突然に殺気を感じた。


「誕生日おめでとう、シルイド……」

「誕生日おめでとう、シルイド……」


 クライードとクルヘームは口をそろえて、俺を睨みながら言った。

 でも、彼たちの目つきは不安に満ちているようだ。


「ありがとうございます、クライード兄さん、クルヘーム兄さん」


 冷静を保って微笑みながら礼を言った。


 俺がこの世界に転生してきた目的は邪神を倒すためだ。爵位継承なんて興味がない。



 ❖❖❖



 朝メシを食べ終わった後、馬車に乗って教会に行く。


 馬車の中には俺のほかに、父さんと母さんだけでなく、クライードとクルヘームもいる。

 それに周囲も数十人の騎士が馬に乗って護衛している。


 しかし、教会に向かう道路は凸凹だらけだ。馬車がゴトゴトと不規則に揺れるので、俺は馬車酔いになってしまった。

 馬車に揺られながら窓の外をぼんやりと眺める。でも景色など、まったく目に入ってこない。


 はぁ……気持ち悪い……。


 胃の中のものが渦巻き、胸のあたりが熱く焼けて吐き気がせり上がってきて、不快感に襲われた。


 馬車酔いするなんて思わなかった。

 そのために、【超回復】を発動して体調を回復させた。


 馬車に三十分ぐらい乗り、やっと教会に着いた。


 ドアを開けて馬車から降りた。目の前に建つ教会は規模が大きく見えた。


 教会の階段を上がって中に入ると、受付に向かう。


「ミラリア教会へようこそ」

「私はラインケル・ウィーロス・ファレンシアだ。今日はうちの息子が五歳になったので洗礼を受けに来た」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 シスターは礼儀正しく頭を下げてその場を離れた。


 でも、間もなくシスターが戻った。


「お待たせしました。司祭様は儀式の準備ができました。こちらへどうぞ、領主様」


 シスターはまた一礼して俺たちを案内した。


 奥に進むと、両開きの門扉がある。シスターはその門扉を開けて入った。


 ここは祭壇の部屋だ。


 床に巨大な魔法陣があり、壁に創世の神 フロドースの像もある。祭壇の前に司祭が立って俺たちを待っている。


「お久しぶりでございます、ラインケル辺境伯様。本日はシルイド様の洗礼儀式ですよね」

「ええ、頼むぞ」

「それでは、これよりシルイド.ウィーロス様の五歳洗礼儀式を開始いたします。シルイド様、祭壇の真ん中にお進みください」

「シル、緊張しないで、あなたはきっと大丈夫だ」


 いや、俺は全然緊張していないけど。


「はい」


 祭壇の真ん中に来て、神像に片足で跪いて手を合わせた。


「この世界を見守る創世の神 フロドースよ、その祝福の光を持ってシルイド.ウィーロスに道を示したまえ」


 司祭は詠唱を始め、魔法陣が光を放った。


 今だ。【鑑定隠蔽】発動!


「無よ、すべてを見抜いてくれ、【鑑定】!」


 司祭は杖を俺の額にかざすと、光が全身を包み込んだ。

 にわかにその瞬間、視界は真っ白に染まった。

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