3話 魔女の気持ち
家に着いてから30分後に親が帰ってきた。間に合ってよかった。私の家のルールで、外出する場合は必ず親に事前に告げなければいけないのだ。それなら言っておけばよかっただけじゃないか、と思われるかもしれないが、エーティの存在は親に知られていない方が都合がいい。
夕食を済ませた後、部屋で勉強をしていたらエーティが帰ってきた。
瑛美梨「お帰りなさい。見つかったの?」
エーティは首を横に振った。彼女によるともうあの森の入り口付近にはいないらしい。森を出たのか、さらに奥に進んだのか、そこまではエーティでもわからないらしい。
瑛美梨「明日私学校あるんだけど、エーティは明日も捜索するの?」
エーティ「もちろんよ」
瑛美梨「夜ご飯はもう食べた?お風呂とかどうするの?」
エーティ「夜ご飯は大丈夫。お腹空いてないから、あと3日くらいは何も食べないかしら。お風呂も今日はいいわ。シャワー浴びたい時は瑛美梨の家族が家にいない時に少し借りたいわ。」
瑛美梨「分かった。私はもう寝るね、おやすみ」
エーティ「おやすみ、瑛美梨」
瑛美梨寝ちゃったわ。少し雨が降り始めたから捜索にも行けない…。部屋の外にも出るわけにいかないし、何しようかしら。寝る……?あまり眠くないけど。私たち魔女は生物学上は人間だけど、魔法を微量しか使わないと、体力が減らなくて、食欲も睡眠欲もわかなくなる。瑛美梨はこんな変わった魔女でもすぐに受け入れてくれて、本当に優しいわ。4人揃ったらこれからどうしよう…。村に帰ってもまた魔女狩りに捕まるだけ。でも瑛美梨なしで日本で暮らして行くのも大変。家もお金もないわ。それに、お父さんに教えてもらった知識も全てが正しいわけではなさそうだし…。
エーティが色々頭の中で考えているうちに、太陽が上り、瑛美梨の目覚まし時計が鳴った。
エーティ「おはよう瑛美梨」
瑛美梨「おはよう」
「ご飯食べてくるわね」
数分して瑛美梨は戻ってきた
瑛美梨「行ってきます」
エーティ「行ってらっしゃい。」
日本の子どもは大変ね。こんなに忙しい朝をほぼ毎日送るなんて。瑛美梨は確か中学1年生って言っていたかしら。私はもう16歳だけど、こんな忙しい生活できたもんじゃないわ。でも、私も早いうちに支度して捜索を始めないと。
今日は私が倒れていた場所から、魔法でシグナルを送ってみる。360°、できる限り広範囲に向けて電波みたいなのを放つ。もし魔を感知したら感覚でわかる。
その時、私が出した電波に何かが反応した。そちらへ向かってみると、ピンクと白を基調とした、フリフリのついた手袋が落ちていた。アルメルの物だわ…!もしかすると近くにいるかもしれない。そう思って、その場所からもう一度電波を放ってみた。
………反応はなかった。
でもこれは大きな進歩だわ。この手袋は持っておこう。
きっとアルメルも私のことを探しているわ。いいえ、アルメルだけじゃない。クラパもエリーも、お互いにお互いを探しているはずよ。
ふと、誰かが後ろから近づいてくる音がした。急いで木の影に隠れて様子を見た。
「これで…これでやっと死ねる……」
この人は何を言っているの…?死ねる……?どういうことよ。そしてその人は近くにあった木の枝に輪っかにした紐を通し、自分自身の首もその輪っかに通した。苦しそうにもがいたあと、ピクリとも動かなくなった。
エーティ「だ、大丈夫ですか……?」
瑛美梨に、魔女の格好で人前に出るなと言われたのも忘れ、その人に近寄って行ってしまった。私がこの人に触れた時、もうすでに脈はなかった。
エーティ「どういうこと、死にたいって。魔女は生きるために、命を守るために、必死に魔女狩りから逃げているのに、死にたいって何よ?!そんなに死にたいなら、死んでった私の友達や家族にその命を交換してやってほしいくらいだわ!」
つい怒りが爆発して、大声で怒鳴ってしまった。
ここは闇に飲まれた深い森
昼間ですら薄暗く
不気味オーラを放つ
ここに入り込むのは魔女と
木々草花と
人間を辞めにきた人間のみ