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魔術について

 

 別荘への滞在はおよそ一週間。


 急ぎの仕事を片付けたレックスに連れられて散歩やお買い物に行ったり。その際レックスはレポートにとりかかるレイナードへふふん顔をしていたし(大人げない)、何なら帰宅後に彼自身も部下から追加の仕事を押し付けられてひぃひぃしてた。


 レイナードに近場のカフェに連れて行って貰ってこの辺りでとれたメープルシロップをたっぷりと使ったパンケーキに舌鼓をうったり。お土産として数本メープルシロップを購入したから屋敷でも朝食にパンケーキを作って貰おうと決めた。


 カントリー調の素朴で可愛らしいワンピースをジャンヌとお揃いで購入したり。普段見掛けない造りの服も沢山あって、ジャンヌとミモザに着せ替え人形の如く着せ替えられた。いつしか店員までもが仲間に加わり、軽いファッションショーが開催された。


 家族の皆が忙しい時は、静かな環境で読書や刺繍に没頭したり、ミモザや護衛騎士と一緒に外に出てウサギやキツネを探したりと充実した毎日を過ごしていた。


 今日は何をしようかしら?

 レティーシアは考える。今日は父も兄も仕事やレポートがあるし、姉は鍛錬をすると言っていた。

 さて、自分は何をするか?

 お勉強は終わっているし、また読書をするか刺繍をするか。それとも魔術の特訓でもしようかしら?


 少し前からレティーシアは魔術の勉強を始めていた。

 自分が何の魔術に秀でているかの適正検査も既に受けたし、家庭教師による座学と実技も。


 結論からいうと、

 レティーシアの魔術の適正は極めて高かった。

 そして一番適正があるのは『光』魔術だ。


 魔術の適正は主に『火』『水』『風』『土』『雷』『闇』『光』などがある。厳密にいえばもっと細かく細分することが出来るのだが、大きく分けるとこうなる。

 そして別にその適正魔術しか使えないわけではなく、単にその分野が一番伸びしろがあるというだけで複数の魔術を使うことも可能だ。

 魔力さえあれば貴族・平民関わらず魔術の行使は可能だが、一般的に貴族層の方が保有魔力が高い傾向にある。


 因みに前世のアラベラの適正は『風』。


 そうはいっても、身体能力のみならず魔術に至っても規格外の実力を持っていたアラベラはありとあらゆる魔術を使えた。使えるように仕込まれたともいえるが。


 魔術は枯渇すると回復した時に容量が増えやすい。

 限界を超える、ということなのかも知れないが。

 だからアラベラの父は幼い頃から何度も倒れる程にアラベラに魔術を行使させた。実際、アラベラは幾度も魔力中毒に陥ったし、だが皮肉にもその度に強くなった。


 勿論、全てはアラベラに才能があったことも大きいだろう。

 アラベラはあらゆる魔術を駆使して常に敵と闘った。実際、その能力は戦場で非常に役にたったし、ドラゴンを対峙した時の氷魔術は水魔術の上級系。敵の弱点となる魔術を行使できるという点ではあらゆる魔術を駆使できるのは大きい。


 (もっと)も、一番頻繁に活用していたのはどの属性にも適さない『身体強化』なのだが。

 今のレティーシアと違って身体能力も高かったアラベラだが、人の身で魔獣と対峙するにはやはり荷が重い。ましてや力があるとはいえ、アラベラは女性。

 中級程度の魔獣ならその剣一本で両断出来たアラベラだが、上級の魔物となると硬い殻に覆われたモノなどもいてそうもいかない。そもそも剣がまともに届かない程の巨体のモノも数多くいる。

 そんな時に大活躍なのが腕力や跳躍力を格段に上げることが出来る身体強化だ。


 脱線したが…。


 今世のレティーシアの適正は『光』。


 光魔術といえば、一番有名なのはやはり治癒だろうか。

 他にも結界を張ったり、マイナーなのだと目くらましだとか。


『闇』と『光』は比較的少ない。

 目くらましだとか、切り傷を治す程度なら適性を持たずとも行える者は結構いる。特に後者は便利なので。怪我の多い騎士を目指すジャンヌも熱心に学んでいた。


 だが、適正としてこの二つを持つ者は若干少ない。

 そしてレティーシアは適正を持った上に、魔力量が多い。勿論、千切れた四肢を再生するだとか国を覆う結界を張るだとかになると聖女レベルでないと無理なのだが、大怪我を癒す程度なら可能。


 つまりプチ聖女状態。


 更にはレティーシアは家庭教師をはじめ、天才児扱いされていた。


 何故なら、魔術の行使はイメージが重要。

 そして前世のアラベラはあらゆる魔術の行使に長けていた。とどのつまりは基礎などとっくに習得済み。なのでその事実を知らない者にとっては通常イメージを掴むのに数カ月かかる子もいる工程を一発で熟す天才児の爆誕であった。


 適度に誤魔化そうにも、レティーシアは壊滅的に嘘が下手。


 出来ないふりをしようとしてもすぐバレる。

 だが前世のことはいえない。

 不本意だが天才児扱いは甘んじて受け入れている。非常に不本意だが(二度目)。


 だが、闘いに特化した魔術でなくて光魔術が適正など、レティーシアとしては嬉しい限りだった。


 何せ理想は、綺麗で可愛く素敵な女の子。

 癒しを司る光魔術など理想的ではないか。


 よし!魔術の特訓をしよう!!


「ねぇ、ミモザ。魔術の練習をしようと思うんだけど……お庭に一緒に来てくれる?」


「畏まりました。念のため護衛を呼びますね。寒いですからすぐに支度をしましょう」


 そしてすぐさま用意されるコートとマフラーに手袋といった防寒具。もこもこレティーシアの完成。


「流石に…怪我をしてる人なんていないわよね?」


 ぽつりと呟けば、


「お望みとあればすぐにでも」


 ミモザの答えにぴっと肩を跳ねさせた。


 すぐにでもって何っ?!

 何をする気なのっ?!


 とれそうな勢いで首を横へ振る。

 ミモザが真顔なのが超恐かった。


 無駄にドキドキさせられた心臓を抑えながらも外に出る。

 共に居る護衛騎士の年若い少年も顔を青くしていた。自身の剣をしっかりと手で押さえている。


 庭に出て、きょろきょろと辺りを見渡す。


 一本のひょろりとした樹の前にしゃがみ込み、手を掲げた。

 レティーシアの背丈ほどもない枝のような幹。そしてその先に僅かについた褐色の葉。まだ成長途中のその樹に手を翳して瞳を閉じる。


 紅葉とは一種の老化反応と栄養失調のようなもの。

 日照時間の低下につれ、光合成を行えなくなる葉が老化反応を起こし、また余分な栄養や水分の消費を防ぐために幹から葉を切り離す。簡単にいってしまえばそれが紅葉と落葉のメカニズム。


 ゆっくりと開いた瞳の先には、緑の葉を取り戻した瑞々しい木肌がそこにあった。


 魔力の無駄使いとかいってはいけない。

 練習は大事だし、実際に人に怪我を負わせるよりはるかによい。


「素晴らしいです!まさに聖女の如く尊いお姿でした」


 謎の大絶賛を貰った。


 余談だが、そんなミモザの適正は『闇』だ。

 見た事ないけど、何かあったら私がお嬢様方を守りますから!と宣言していたし攻撃系なのだろうか…?気になるような知りたくないような…。


 赤々とした落ち葉を一枚手に取る。


 イメージが掴めていて、実際に魔力が行使出来るといえど細かい制御には練習あるのみだし、魔力量を増やすのには使用頻度も重要。流石に前世みたいに倒れるような鍛錬をする気はないけど頑張ろう。


 そしてまた、レティーシアは瞳を閉じた。



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[一言] 聖女と邂逅する日も来そう
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