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勇者と双子

 


 その日、王城の上層部は揺れていた。


 コンフィズリー王国・王城。

 威厳に溢れ洗練された王城の煌びやかな玉座にて王はその報告を聞いていた。


 まるで教会のような造りの玉座の間は荘厳にして神聖。

 床には一面に植物のモザイクが、そして天井には太陽と月が描かれこの空間そのものが全宇宙を表現している。それはこの玉座の間を造り上げたかつての王の強い信仰心の表れだ。


 真紅の絨毯を踏みしめ、王の御前へと進み出た男が跪いて告げる。


「ご報告申し上げます」


 高らかな声がそれを告げる。


太陽紋(スーリヤ)を持つ者が発見されました」


 騒めきが、荘厳なる空間に広がった。


 それは、

 “勇者”の顕現(けんげん)の報告だった___________。




 さて、勇者や聖女の太陽紋(スーリヤ)月紋(チャンドラ)だが、それは生まれおちた時に既に赤子に刻まれていることもあれば、レティーシアの『転生紋』(カルマ)のように何かを切っ掛けとして顕現することもある。


 今回発見されたのはとある農村の少年らしい。


 そして勇者や聖女といえどはじめから桁外れの能力を持つわけではない。

 時にはそういう天才肌の人間も皆無ではないが、多くは修行をつみその才を開かせる。つまりは勇者や聖女といえども何もしないままでは人より強い能力を持つ人間に過ぎない。伝説となるような存在となるにはそれこそ血の滲むような努力が必要だ。


 そしていつの世にも魔王などと呼ばれるお伽噺のような存在が存在するわけではないから、勇者や聖女の役目も様々。


 何にせよ、彼ら彼女らが(あらわ)れるということは人の世になんらかの危機が訪れるということ。

 そしてそれを未然に防ぐために太陽神アポロスや月神ルーナがその身の御力の一部を分け与えられたのが紋章持ちだ。




「聞いたか?勇者の噂」


 ソファに腰かけた少年が目の前の相手へと問いかける。


「当り前よ。私を誰だと思ってんの?」


 ふん、と鼻を鳴らさんばかりに少女が答えた。


「大体、何なのよその態度。もっと王子様らしく優雅に着席できないものなの?だらしない。理想の王子様が泣くわよ?」


「その言葉、そっくりそのままお前に返す。お前が理想のお姫様とか笑わせる」


 ローテーブルをはさみソファに向かい合って座る二人の顔はとても美しく整っていた。毒舌を吐き合うその表情は歪んでなお美しく、そしてとてもよく似通っていた。


 少年の名はランドルフ。

 少女の名はヴィクトリア。


 黄金を溶かしたような見事なブロンド。瞳は澄み切った碧をしており、本人達が語った通り金髪碧眼の理想の王子様・お姫様像そのもの。

 そんな彼らは実際に王子であり姫だった。


 姉・ヴィクトリアがコンフィズリー王国の第一王女。

 弟・ランドルフがコンフィズリー王国の第二王子。


 そしてそんな二人は双子だ。

 双子は貴重な存在。男女の双子なら尚更。

 何故なら世界の創造神であるアポロスとルーナが男女の双子神であるからだ。

 更には王家に生まれた男女の双子。

 二人の存在は王家の中でも広く国民へ知れ渡り、信仰に近い感情を持って尊ばれている。


 その所為もあるのかも知れない。

 常に注目を浴びる彼らは人前で清く正しく振る舞い、それ故に理想の王子様・お姫様の名を冠している。実際の性格は二人とも大分砕けた感じなのだがそれを知るのは親しい一部のみ。


「勇者は近々王城に来るらしいぜ。災害が大した規模じゃなきゃいいけど」


「本当にね。お父様やランスロット兄上もしばらくはお忙しくなるでしょうね。前兆の調査や混乱を避けるための情報の抑え込みも必要でしょうし。勇者はそのままここに住まうことになるのではないかしら?鍛錬は騎士団が担当するだろうし、それに私たちより年下の少年で事故でご両親も亡くされているらしいから」


「情報早くない?」


 つらつらと語るヴィクトリアにランドルフは目を丸くする。

 それにヴィクトリアは自慢げに笑った。


「当然よ。私は情報通なんだから」


 顎をツンと上げたその笑い方は普段の淑やかな微笑みより余程のこと似合っている。ランドルフはそう思った。良い意味ではないが。


 ランドルフはプレイボーイだ。

 (もっと)も、本人にいわせるならばそれは理想の王子様を演じる為に女性に優しく誰にでも紳士的に接しているに過ぎないのだが。

 そんなランドルフは実はあまり女性が好きではない。男色家という意味では勿論ない。ただ双子の姉の裏表を見過ぎているため“淑女”というモノが信じられないだけだ。


 だって“理想のお姫様”と呼ばれる“淑女”が()()、と目の前の半身を見遣る。


「痛ってっ!?」


 顔に扇子が飛んできた。


「何するんだよっ?!」


「失礼なこと考えてたでしょう?雰囲気でわかるのよ!」


 “お淑やか”なんて全てまやかしだ。改めて痛感する。


「歳の近い勇者様が来られるとなるとランス殿下がお喜びになられそうですね」


 微笑んで扇子を回収したのは男装の麗人。その際、ちゃんとランドルフが怪我をしてないかさりげないチェックも欠かさない。


 男装の麗人の名はリオン。ヴィクトリアの側仕えだ。

 ダークグレーの髪は女性にしては珍しいショートで頑張れば襟足が少しだけ結べる程度。中性的な顔立ちにオリーブグリーンのアーモンドアイが印象的だ。何より目を引くのはその恰好、纏っている服のデザインは男性ものだ。華奢な躰にぴったりとフィットしていることからも男性ものを着まわしているわけではなく特注で作らせたものなのは一目瞭然。


 普通なら側仕えは主人の会話に割り込んだりしないが、これは主人の命令なので問題ない。

 曰く、堅苦しいのは嫌いだから公式の場以外では友人として接して。断ろうとも聞き入れる主ではなかった。


 そしてもう一人、この部屋にいる人物。

 先程から微笑みを浮かべてやりとりを眺めているいかにも人畜無害そうな温和な少年の名はシオン。ランドルフの側仕えで中性的な容姿にダークグレーの髪とオリーブグリーンの瞳。

 名前と色彩でお気づきの方もいるかも知れないがシオンはリオンの双子の兄だ。


「あーあいつは喜びそうだな。なんせお子様だしな」


 くつくつとランドルフは笑う。

 馬鹿にしたような言葉だが、その声に悪感情はない。


 以前、レイナードがレティーシアのダンスの相手にも挙げたランスはコンフィズリー王国の第三王子。5歳年下の弟はランドルフにとって可愛い存在だ。そしてヴィクトリアにとっても。

 容姿はランドルフやヴィクトリアと同じ金髪碧眼。もっというなら長男であるランスロット含めて兄妹全員金髪碧眼だ。

 王位を継ぐランスロットは威厳のある顔立ち、双子は美しいよりの顔立ちで、ランスは男の子らしい顔立ちだ。今はまだ幼さに可愛らしさが目立つが将来男前になること間違いなし。


 そんな第三王子・ランスは…。


「あの子の英雄好きは相当だものね」


「王子でさえなかったら世界中を冒険してまわる!とでも言ってたんじゃないか」


 英雄譚に憧れる典型的な男の子だった。


 ロマン大好き!冒険大好き!

 恰好いいものに憧れる正義感の強い子だ。

 王家という本来ならドロドロしたところで育ちながら素直で真っすぐな性格は家族に愛されている。両親や長男は普段から腹黒タヌキな重鎮たちとの遣り取りに疲れてるし、双子は自分達の裏表の激しさを自覚してるから尚更にその素直さは好ましい。


 因みに、ランスの側仕えはシオンとリオンの兄であるノアだ。

 素直さは利点だが、逆に貴族に利用されかねない諸刃の剣でもある。なので年長でしっかり者のノアがついている。


「勇者ってどんな奴だろうな?」


「さぁ、やっぱり見るからに強そうなのかしら?」


 そんな話をした五日後、勇者は王城へ連れて来られた。




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[一言] 勇者はどんな子かな〜
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