傷弓之子【3】
「やぁ少年、ちょっとお姉さんとお話しない?」
コンビニから家に帰ると見知らぬ女が家の前に立っていた。
今どきはやらないセミロングのチャイナドレスを身にまとい、薄茶色のケープコートを羽織っていた。
誰だ?警察?
いや違うな。あんなド派手な格好の私服警官がいてたまるか。
.......なんか気持ち悪いな。
僕はそう思い目を開いた。
「!」
女には傷がなっかた。いや、あるにはあるが最低限の頭、首、胸にしかなっかた。それにあの小、
危険だ、――そう思った。
気づいたときにはバッグからナイフを取り出し、目の前の女に切りかかっていた。
いけたと思った。
さっきよりもスピードが出て、なぜか体もよく動いた。
ついさっき、20人も殺して感覚もさえていた。
そしてその出来事が僕に自信を持たせた―――持たせてしまった。
「うヴぉふ、!」
が、そんな自信とは裏腹に僕が女に向けたナイフは難なく躱され、そのまま流れるように僕の腹にけりをくらわせた。
僕はそのまま廊下から柵を超えて身をなげだされた。
「っ!」
下を見て絶句した。
落ちる最中、僕を蹴り飛ばした女がフェンスから身を乗り出してこっちを見ていた
僕は痛む腹を抑えながら体をねじったりバク宙したりして空中で体勢を立て直した。バンッ!と音を立てて着地すると共に全身に衝撃がはしる。
僕は物陰に隠れ、
「おえっ、おぇぇ」
吐いた。
蹴られた衝撃と着地をミスした衝撃が合わさって胃を揺らしたのだ。
「っ、はーふー」
僕は息を整えながら逃げるように大通りに向かった。
それにしてもなんだあいつ。あいつの傷、目を凝らさないと見えなかったぞ。小さすぎて色もわからなかった。
それが意味するのはあの女が生き物として限りなく完全で完璧に近いということを何となく感づいた。
大通りに出た。
人通りは少ないが、朝方にしては車が多い。
僕は車が来ないタイミングを見計らって道路を横切った。
あいつが来てないか後ろの様子を確認する。
「………!、ちっ!」
追ってきた。
こっちにも気づいてやがる。
ついさっき俺を蹴っ飛ばしたやつが追ってきた。
次々と車が過ぎ去っていく道路を、周囲を確認せずこちらに向かってきた。
僕は諦めず女から逃げた。
突如、バン!と車が何かにあった音がここら一帯にひびきわたった。
音のした方向から少し上空、僕を追っていた女が道路に植えられている木と同じ位の高さまではねられていた。
っしゃ!……と、喜んでいたのも束の間、女は別に轢かれたわけではなかったのだ。
乗用車の質量とスピードを生かし女は僕のわずか後方――10m手前まで迫っていた。
僕は逃げた。腹の痛みなど忘れて。
ん……何だ?……紐?
一目散に逃げていた僕の脇から遥か前方までひも状の何かが伸びていた。
僕はそれを切った。