[童話]流れ星のひみつ
あるところに、お日さまの光がぽかぽかとあたる大きな森がありました。
その森のはじっこに、みどり色の屋根の家がありました。
その家の中で、首もとに白い三日月もようをつけたクマさんがストーブの横で、大きなイスにすわっていました。
そのクマさんにくっついて、まっ白いふわふわな毛並みのネコさんが、ぷうぷうと眠っています。
ときどき、ゴロゴロとのどを鳴らしながらぐるんと寝がえりをします。
クマさんは寒い冬になると、もこもこのふわふわの冬毛になります。
それが気持ちよいので、お腹いっぱいになったネコさんは眠ってしまったようです。
☆ ☆
今夜は、こぐま座の流星群の日です。
お星さまが戻ってきたと、大喜びをしていたネコさんは、蒸しパンのお礼にクマさんをさそいに来たのです。
「クマさん、流れ星を見に行こうにゃ」
けれどクマさんは、困った顔をしてしまいました。
「それは、いますぐ、じゃないよね?」
「夜にならないと、お星さまは見えないにゃあ」
クマさんは、にっこりして言いました。
「じゃあ、あずきかぼちゃと、ゆずシロップのお茶を飲んでからいこうよ」
クマさんはストーブの上で、ことことと鍋で何かを煮こんでいるようです。
「あずきを煮ているから、ちょっとまってて」
クマさんはストーブの横にある大きなイスにすわると、ネコさんをとなりに呼びました。
「はい。ゆずシロップの入ったお茶だよ。
あついから、きをつけてね」
ネコさんは、ねこ舌です。
あついものは苦手なのです。
ネコさんは木のコップをもつと、早くさまそうと息をふきかけます。
ふうふう、ふうふう。
ふうふう。
ふう。
ぺろり。
「あついにゃっ」
ふうふう、ふうふう。
ネコさんが息をふきかけるたびに、甘いゆずのかおりが部屋いっぱいに広がります。
ふうふう、ふうふう。
ことこと、ことこと。
ふうふう、ふうふう。
ことこと。あずきが煮えました。
ふうふう、ふうふう。
クマさんは、かぼちゃを煮はじめます。
くつくつ、くつくつ。
ふうふう、ふうふう。
くつくつ。
ふうふう。
こぽこぽ。
クマさんもゆずシロップ入りのお茶を飲みます。
こくり。
「ネコさん、あたたまるね」
ネコさんがまっ白い耳をぺっしょりとふせながら、おそるおそるお茶を飲みます。
こくり。
あまぁいゆずシロップが、口いっぱいに広がります。
ネコさんは、ほわほわとした気持ちになりました。
「あたたまるにゃあ…」
ネコさんがまっ白い毛並みをもっとふわふわにさせながら、ほわほわとゆずシロップの入ったお茶をまた、ひと口、また、ひと口、こくり、こくり、と飲みます。
ストーブの上にのったお鍋からは、かぼちゃとあずきのあまい匂いがしてきました。
くつくつ。
ことこと。
「はい、できたよ。ネコさん、あずきかぼちゃ。めしあがれ」
クマさんが木で作ったお皿に、みどりの皮のついたきれいな色のかぼちゃをよそいました。
かぼちゃには、あずきがたくさんのっています。
「わあ、お日さまの色と森の色だにゃあ」
ほくほくとしたかぼちゃは、お日さまのようです。
「それじゃあ、あずきは流れ星かなぁ」
クマさんが、もぐもぐとかぼちゃを食べながら言いました。
「森にたくさんふってきたら、こんなふうになるのかなぁ」
クマさんが木で作ったスプーンで、あずきをすくっては、おいしそうにもぐもぐと食べています。
「…クマさん、あつくて食べられないにゃ」
「おかわりを食べてまっているから、ネコさんはゆっくり食べてね」
「…おかわりも、食べたいにゃ」
「じゃあ、もうひとつのお皿によそっておくね。さまして食べよう」
クマさんは、にっこりと言いました。
ネコさんは、小さなあずきをもくもくと食べながら、にっこりとうなずきました。
クマさんも、ネコさんも、お腹いっぱいになるまで、あずきかぼちゃとゆずシロップ入りのお茶を飲みました。
パチパチとストーブの中で薪が音をたてて燃えています。
あたたまった体が、もっとほかほかになってきました。
だんだん、ねむくなってきました。
「…クマさん、夜になったら、流れ星を見にいくんだにゃあ…」
ネコさんは、ふわふわの頭をほこほこのクマさんのおなかにあてると、そのまま眠ってしまいました。
☆ ☆ ☆
ネコさんは、森の外に出ています。
森の外には大きなみずうみがあって、まぁるい夜の空が浮かんでいます。
お月さまがお星さまと話しています。
「わたしが光っていると、流れ星の子たちが見えづらいからね。
ちょっとかくれているよ」
「それじゃあ、森の中にいてはどうでしょう。
森のクマさんがストーブであずきかぼちゃを煮ていましたよ」
「お日さまが一番弱っているときだから、クマさんがつくってくれたんだね。
わたしは森のクマさんからあずきかぼちゃをもらって、早くねむってしまったお日さまのおうちに置いてくるよ」
「お日さまも、すぐに元気になるでしょうね」
お星さまがにっこりと笑いました。
すると、たくさんの流れ星が空の上からふってきました。
流れ星は、
ひゅん、ひゅん、ひゅーん!
と、みずうみに光を落としては、とおくに飛んでいきました。
「お星さま、流れ星はどこに行くにゃ?」
ネコさんがお星さまにたずねました。
お星さまは、手をふってお月さまをみおくってから、ネコさんにこたえました。
「流れ星は、虹のタネなのよ」
ネコさんはびっくりしました。
虹は雨の日に出るから、雨からできているとおもっていました。
「流れ星が落ちたところに、雨がふって、そこから虹の芽がでるの。
でも、いつ虹の芽がでるのかは、だれにもわからないの。
ふしぎでしょ?」
お星さまがにっこりと笑うと、ふたたびたくさんの流れ星が空の上からふってきました。
ひゅん、ひゅん、ひゅーん!
流れ星はとんでいきます。
そして、ある雨の日に、虹の芽をだして、空いっぱいの虹になります。
「流れ星は、光のタネだったんだにゃあ」
ネコさんは、クマさんにもこの流れ星のひみつおしえてあげたいと思いました。
☆
「…クマさん、流れ星は虹のタネだったんだにゃあ…にゃむにゃむ」
クマさんは、のこったあずきで団子のおしるこを作ろうと、鍋でくつくつと煮ていました。
ネコさんはふしぎな寝言を言うなぁ、とおもいました。
☆
クマさんの冬毛はネコさんに寝グセをつけられて、もしゃもしゃになってしまいました。
もしゃもしゃになったところをネコさんが爪をしまった前足で、ちょいちょいとなでながら言いました。
「クマさん、流れ星は虹のタネで、雨がふると芽が出て、虹になるんだにゃあ!」
ふんすふんすと、じまんげにネコさんが言うと、クマさんはこたえました。
「うん、しってる」
「にゃんでですかぁ〜?!」
ネコさんは、びっくりしました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夜になってから、ネコさんはクマさんをつれて森の外にあるみずうみまで行きました。
今夜は 星空の中にある小さなクマさんの星座から、たくさんの流れ星がふってくるのです。
「きれいだね」
「きれいだにゃあ」
マフラーとコートと手ぶくろで、もこもこになったネコさんと、もこもこのポンチョをかぶったクマさんがにっこりと笑いました。
お星さまもにっこり笑って、きらきらと夜空にひかりつづけました。
あ、また流れ星がとんでいきます。
ひゅん、ひゅん、ひゅーん!
お星さまが笑うと、流れ星もうれしくなってとんでいくようです。
こんやは、たくさんの流れ星が見えることでしょうね。
〜おしまい〜
ネコさんとクマさんのお話がもうひとつあります。↓
『[童話]お星さまのひなたぽっこ』
(https://ncode.syosetu.com/n4828hi/)
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