騎士団長に任命されたけど、嫌なのでさっさと辞めたい
ここ、コルネスという国は騎士の国と世界的に名高い。
そのせいか、私も貴族の娘だが当たり前のように騎士になっていた。ちなみに剣の腕は中の中くらい。
「レイル・マダリア、貴方を騎士団長に任命します」
そんな私が突然、これでもかというくらい唐突に騎士団長に任命された。
私はまだ成人したばかりの若輩も若輩。そんな小娘が、三千万もの騎士の頂点へと立ってしまった。
何故だ、何故こうなった?!
っていうか本当になんで私?!
騎士団長には専用の仕事部屋を与えられ、ピカピカの机にフカフカの椅子。しかもイケメン秘書までついているという超特別待遇。今現在私はそんな仕事部屋で、緑茶を啜っている。
むむ、このお茶美味しい……流石騎士団長様だぜ! いい茶飲んでるな!
「って、ちっがーう!」
「……? どうしました? 騎士団長」
テキパキと仕事を熟すイケメン執事、ゼルスさん。金髪の長髪に眼鏡属性、髪は仕事中だからポニーにしてるってなんかエロい。
「ゼルスさん……なんで私、騎士団長なんですか? ただの田舎貴族の娘なのに! 剣だってついこの前持ったばかりなのに!」
「あぁ、そうですね、そろそろ理由をお話ししましょう」
り、理由? ちゃんとした理由があるのか?
私みたいな小娘を、三千万の騎士の頂点に立たせる理由が?!
「騎士団長って……今まで脳筋ばかりだったんですよ……」
……だから?!
だから何?! それ理由になってない!
「それで、なんで私なんですか?!」
「だって騎士団長、先日行われた全国模試で満点だったじゃないですか。もうコレ以上の理由いりますか?」
※まさかの筆記試験でしたーっ!
《それでも納得できないの!》
「いやっ! 模試ですよね?! それは本番に備える練習みたいなもんで……」
「十分ですよ。というか、真面目に何度も筆記試験受ける騎士がどれだけいるか……今更また試験やりますなんて言っても言う事ききませんよ」
ぐっ……たしかにそうかもしれないけども!
っていうかあの筆記試験……バカにしてんのか? ってくらい簡単な問題ばかりだった。この国の歴史や簡単な文章問題、そして小学一年生くらいの算数ばかりで……。
「でもでも! あの試験内容だったら他に満点の人だって……」
「居ませんよ。全国平均、驚きの15点です」
騎士って馬鹿ばかりなの?! 三問正解が平均なの?!
「そんなわけで観念してください。騎士団長に必要なのは……筋肉では無く、頭脳なのです」
「あんな簡単なテストで満点取ったからって……私の頭脳、過大評価しないでください!」
そうだ、あんな問題……普通に日常を過ごしてれば答えれる物ばかり。
私より頭脳明晰な者など探せばいくらでも……
はっ! そうだ! 私には兄が居るじゃないか!
私の兄なら勿論満点取ってる筈! きっと三千万の騎士の回答の中に埋もれてるに違いない!
「ゼルスさん! 私の兄は?! あいつのテストを見せて下さい! まあ尤も、どうせ埋もれてるんでしょうけど……探し出してくれるまで、私騎士団長なんてやりませんから!」
「どうぞ」
え、早っ!
っていうか兄の点数は……2点……
「辛うじて、国王の名前は記入してありました。しかし……」
「な、なんで……国王の名前書くところに自分の名前書いてるの?!」
「その意気込みや良し。という事で二点差し上げました」
※もう処刑でいいですーっ☆
《初仕事!》
騎士団長としての初仕事……それは南の辺境で蛮族が勢力を増しているから、ちょっと誰か行って沈めて来いと命ずる物。騎士を大量に投入して制圧してしまうという手もある。しかしその過程で出る犠牲も大きいだろう。だからと言って少数で行っても全滅するだけだ。
「ゼルスさん……こういう場合、どうすれば?」
「微力ながらアドバイスしましょう。蛮族の要求は己の領土拡大、及びコルネスの貿易拠点の一つである街の譲渡。前者はまだしも、後者は認めるわけにはいきません。下手をすれば外交問題……同盟国に舐められ、最悪戦争にすら発展する事案になる事も……」
じゃあ……手っ取り早くどっか領土あげちゃえば? そのへんの田んぼとか。
「それで納得してくれるなら苦労しませんね。それにそれだと田んぼの持ち主が泣きますよ」
それは……やだな。
うーん、結局どうすれば?
「とりあえずは話し合いの場を設けてみるのはどうでしょう。騎士を誰か派兵して……」
「そんなの、死ねっていってるようなもんじゃ……。はぁ、どっかに気軽に死地に派遣しても心が痛まない奴が居れば……いや、そんなのいるわけ……」
その時、騎士団長室の扉が勢いよく開いた!
入ってきたのは何を隠そう私の兄。
「ごきげんよう妹よ! 元気に騎士団長してるかい!?」
……あ、いた。
※満面の笑みで送り出しました☆
《英雄の凱旋!》
兄を蛮族の元へと送り出して半年。
あれからどうなっただろうか。蛮族に全身の皮剥がされて皮製品にでもされただろうか。
なんでだろう、実の兄なのにちっとも心が痛まない……。まあ、心のどこかで私は思っている。あの兄が死ぬはずが無い。馬鹿だが体だけは丈夫なのだ。家族全員がインフルエンザにかかっても、あの馬鹿だけには何故か感染しなかった。
「騎士団長、朗報ですよ」
騎士団長室で緑茶をすすっている私の元へとゼルスさんが。
むむ、なんだい、イケメン。
「兄上が戻ってまいりました。多少怪我をされているようですが、命には別条はないようです」
「マジっすか。それで蛮族はどうなったんですか?」
「兄上の話だと……やはり最初は戦闘になったようです。しかし蛮族の中にも戦士色が居た様で……一騎打ちを所望してきたと」
まあ、兄は一人で行かせたしな。一人で派兵された騎士に同情したんだろう。
「それで……兄が勝ったの?」
「ええ。一騎打ちをほぼほぼ毎日、一日百人以上相手にしたと……」
いや馬鹿やん。それもうただのリンチ……。
って言うか兄、それで生き残ったのか。
「ねえ、ゼルスさん。私の兄って……結構強い?」
「結構どころじゃないですね。これは勲章物だと思われますが……如何されますか?」
ふむぅ。なら……
「兄に……騎士団長の位を授け……」
「だから……脳筋はお断りです。兄上は典型的な脳筋ですよ」
ぐっ、やっぱりだめか。
「それで勲章ですが……兄上には一騎当千の騎士に送られる紅剣の勲章を授けられては如何でしょう」
「あー、いいよいいよ、どんどん授けちゃって」
「ではそのように……」
※その後……兄を派兵した私の功績になりましたーっ☆
世の中上手くいかない。
あの後私は、適材適所が良く出来ました! と国王から褒めたたえられ、さらに騎士団長としての立場を固めてしまった。もう逃げ場はない。私はこのまま騎士団長として過ごさねばならない。
はぅぅぅぅ、誰か変わってくれ……私なんかがこんな……
「たのもう! 騎士団長殿、御手合せ願いまする!」
「いいよ、じゃあ私に勝ったら騎士団長にしてあげる」
「さようなら!」
まてゴルァ! お前等、もっと志を高く持て!
「諦めてください、騎士団長。さあ、今日も仕事が山積みですよ」
「はぅぅぅぅ、騎士団長なんてこりごりだぁぁあ! 誰か変わってー!」
完