神様チュートリアル
目の前の空間にボード状の映像が現れ、そこに俺の情報が表示されていた。まんまゲームの世界だな。ええと、名前、種族、年齢、レベル、…体力と魔力が500って、多いのか少ないのか。それからスキル?パッシブ…あっ、『名前表示』がオフになってんじゃん。オンにしてみよっと。あ、サワの頭上に(地球神 *******)ってポップアップが出てきた。
「私の名前は、人間には見ることができないんですよ。教えることも神の世界の規則でできません」
ふうむ、そうか。いいや、これまで通りサワで。
スキル欄に『魔法創造』ってあるな。これか、自分で好きな魔法を作れるのって。明日やってみよっと。
それから『召喚(限定)』のスキルも表示されている。たしか、俺の車の中に品物を取り寄せることができるんだったな。これも明日だ。
と、スキル欄にあった表示に目が留まる。
「なぁ、スキルの『神域の時』ってなんだ?」
「はい、それはヒロさんが敵に襲われたりして危機に瀕した時に自動的に発動するスキルです。ふだん意識する必要はありません。その時だけヒロさんの素早さを上げて敵の攻撃を避けたり、敵から逃げたりすることができます」
おお、いいね、それ。正直、いくらゲームのシステム準拠だといえ、実際に人と戦うなんて、平和な日本ではふつう遭遇しない。おやじ狩りにすら遭ったことないのに。切った張ったの荒事は避けたい。危険に遭ったらとっととスキル発動して逃げよっと。 あ、自分の意志で発動はできないのか。使いやすいのか、使いづらいのか、微妙だな。
「ヒロさんは理解が早くて助かります。またなにかお伝えすることがあったら夢の中でお会いしましょう」
そういうとサワの姿は消えた。
あれ、このボード、どうやったら消えるんだ?バツ印とか端っこに無いよ。キャンセルボタンとか…無しか。
結局、あれやこれや試してみて、ようやく30分後にもう一度メニュー、と唱えると消えた。だから、こういう基本的なこと説明してけよ、まったく。そういうとこだぞ、サワ。
翌朝。いい天気だ。俺の朝のルーチンはトイレから始まる。はいトイレ借りますよ~っと。あ、やっぱりドッポン式…。うん、知ってた。尻拭くのは…この葉っぱみたいなヤツか。これは、早々に改善しなくては俺の黄門様から厳しい反応が返ってきそうだ。
ケダサカはすでに起きていた。すまんね、人の家に泊めてもらってグースカ寝てて。村の中央近くにある井戸に案内され、そこで一緒に顔を洗った。井戸にはポンプはおろかつるべもなく、桶にロープがつなげてあるだけだった。ロープと言うより縄だな、縄。車に積みっぱなしだったタオルで顔を拭く。車内の香り、というかおっさん臭がほのかに香り、洗濯したいなぁ、と詮無いことを考える。
ぽつぽつと他の村人も何人か現れ、行商人だ、とケダサカが俺の事を紹介してくれた。うん、ま、最初はそれでいいか。 みんな粗末な服装で、足元はサンダルみたいなヤツだ。冬とかどうすんだろ。俺が首にかけたタオルをチラチラ見ていたのに気づいたが今はスルー。
家に戻る途中、車の中にベビーフードの缶詰があったのを思い出し、朝食にパンちゃん用で出してみた。ほんとドラッグストアって品ぞろえすごいよな。
ケダサカが缶の正確な作りに驚愕していたが、そっちじゃない、中身を見てよ。ピコトさんも、プラスティックのスプーンじゃなくて、中身見てってば。
「これ…旅の間、馬車の中にあったんですよね?…失礼ですけど、あの、悪くなっていないんですか?」
ピコトさんが興味半分、不安半分で聞いてくる。馬車じゃなくて、軽自動車だけどな。
「大丈夫ですよ、缶詰の食品は長い期間品質が保たれます。味に好き嫌いがあるかもしれないので、まずちょびっとだけ食べさせてみていいですか」
スプーンの先っちょに、ほんの少し中身を乗せてパンちゃんの口元に運ぶ。今、気づいたけど、離乳食って生後半年くらいから始めるんだね。パッケージに書いてあった。野菜のおかゆだって。ほんのり色のついた、ぺちゃぺちゃの汁にしか見えない。食べるかな。
はたしてパンちゃん、じっとスプーンを見つめた後、あむ。あむ。
ほう、と驚いたような表情をして食べた。ププ。ちょっとおっさんぽい表情に見えたのがおかしい。すぐにテーブルを手でバンバン叩いて二口めを催促する。気に入ってもらえたようだ。 あんまり急いで食べさせるとゲボするから注意だ。赤ちゃんは次々食べたがるから親としてはうれしくてどうしてもペース抑えられないんだよな。俺の子じゃないけど。