家に招かれた
なぜこんな早く俺が転生者だとわかったのか。
聞くと、俺のような転生者がまれに現れるらしい。この世界に存在しない珍しいものを持っていたり、知識や技術をもっていたりするという。
「でも、異邦人って、あんまり良いイメージ無いんですよね」
村人A、(名前はケダサカと教えてもらった)は、かつての別世界からの転生者について語ってくれたが、それはあんまり気持ちのいいものではなかった。
元の世界の知識や技術をたてに過剰にいばりちらしたり、村人を支配しようとして評判がよくなかったらしい。上から目線で入っちゃったんだろうな。なにやってんだよ。優位に立てるとわかって気が大きくなったんだろう。 自分で努力して得た力じゃないのにな。
結果、過去の転生者はある者はつまはじきにされ、やがて一人寂しく人生を終え、またある者は恨みをもったこの世界の住人から殺されたりした、らしい。らしい、というのは、この村に転生者が最後にやってきたのは数十年前のことだそうで、当時を覚えている人はほとんどいないそうだ。
おお怖っ。俺はその轍を踏まないようにしよう。早くからこんな情報に触れることができてよかったな。
「ケダサカ、俺がその…異邦人ってことはあまり他の人に言わないで欲しいんだが」
「大丈夫ですよ、私がわざわざそのことを他人に言うことはありません。ですが、注意しないと持ち物や言動からすぐに感づく者は感づきますよ」
なるほど、もっともだ。だが俺の場合は明らかにオーパーツな自動車があるから、どう取り繕っても一発でバレてしまう。それならいっそ、人畜無害な異邦人ですよ、と最初から売り込む方が理に適ってる、かな。
「ケダサカ、俺の本業は行商人ではなく、クルマ、ええと、俺が乗ってきたあの乗り物、で品物を運ぶ運送業なんだ」
「うんそうぎょう、ですか?」
…この世界では運送業の概念もまだ無いのか。
「自分の物を運ぶんじゃなくて、他の人から預かった荷物を運ぶのが仕事なんだ」
「ああ、なるほど。冒険者が手紙や財宝を貴族の方から預かって運ぶようなものですね、わかります」
微妙に違う気がしないでもないが、冒険者ってのがいるんだな、この世界。
大筋は合っているのであえて訂正しない。認可取ってないから信書の配達はできないんだよ、なんて言ってもわからないだろう。いや、そもそも日本じゃないから、日本の法律関係なくないか?あれ、いいのか?
「うん、だいたい合ってるな。それで、俺はお客の荷物を運ぶ途中でたまたまこの世界にやってきたというわけだ。まだ右も左もわからないから、この世界のことを教えてほしい」
「お安い御用ですよ、私にわかることでしたら何でも聞いてください」
おお、頼もしい。異世界生活早々に、頼りになる人物を見つけたな。
今夜寝るところも決まっていないと言う俺に、それならとケダサカが自宅へ招いてくれた。
「あら、お客様?」
堅いリビングの椅子に座っていると、奥から出てきたのはふっくら体系のオバ…奥様、ケダサカの妻だった。
「ピコトといいます。ようこそこんな田舎ですが。異邦人の方でしょう、心細いですよね。ゆっくりしていってください」
!まだなんにもしゃべってないのにバレた!エスパーか!?
「いや、さっき私が奥で話したんです」
そういうオチかよ。まぁ、いいけど。ん?なんか熱い視線を感じる。
ニッコォォォッ!
なんだ、このかわいい生き物は!?
ピコトの腕に抱かれている赤ん坊がこっち見て満面の笑みをしている。アカン、これはやられてしまう。おっさんイチコロだぞ。 まだ1歳くらいかな。
「パンもヒロさんがいい人だってわかってるみたいですね」
パンて…男の子?女の子?あ、男ね、わかってたよ。うん。こっちおいで、おっちゃんが抱っこしてあげよう。あ、それはイヤイヤなのね 。