俺、スキルもらえるってよ
「…という訳で、あなたにはここと違う世界で生まれ変わって頂きたいのです…と言うより、それしか道が残されてないのです。突然のことで、ご納得頂けないのも無理もないのですが、どうか!どうか!」
はぁ、ま、仕方ない、のか?
もともと俺はポジティブな性格で。過ぎたことは仕方ない、って考える方だ。でもこんなこと言うとヨメは怒るだろうな。アンタ、それならしっかりお金もらいなさいよ!弁償よ、弁償!とか言いそうだな。いや、俺死んだからそこはどうしようもないし。
「わかりました。じゃあそっちの方向で」
「えっ!いいんですか?」
いや、そっちから提案してきたんでしょ。てか、もはや提案ですらないか。選択肢無いんだもの。
爽やか青年神様、略してサワガミくんが言うには。
転生先は地球と似ている世界で、あまり科学が発展していない様子。魔法が存在するらしいのでそのせいかな。あらま、それじゃ転生してもすぐに俺死んじゃうかも、って考えてたらサワガミくんから素敵な申し出が。
「こちらの不手際であなたには死んで頂くのですから、できる限りの加護をあなたに与えます。無制限というわけにはいきませんが、ご希望を仰って下さい」
死んで頂く、って考えたらスゴいワードだな。まぁいいや。
じゃあ、まずは新しい世界で言葉が通じるようにしてほしい。そして生きる糧を得るためにそっちの世界でも軽運送業を続けたい!できる?あら、良かった。
ええと、他にないかって?
あ、魔法が存在する世界ってんなら、せっかくだから俺もちょっとぐらい使えるようになるといいなぁ、なんて。んー、これくらいか。
「あなたは欲が無いのですね。というかどこか達観してるような、不思議な方ですね」
うん、変わったヤツってよく言われる、主にヨメから。びっくりするぐらい冷たいトーンで。
ふと目を移すと、サワガミくんの隣にはショボくれたイノシシが。あ、アンタか、ぶつかったの。あんま気にすんなよ、しゃあないよ。俺もちょっとスピード出てたし。これも運命だ。痛かったろ、悪かったな。てか、ケガしてないのか、野生は強いねぇ。
「ではあなたが新しい世界で生きていけるように異世界の理を、この世のものとすり合わせます。イメージして下さい…あぁ、魔法と聞いてゲームのような仕組みを思い浮かべたのですね。私、そちら方面は詳しくないのですが…はい…こんな感じでしょうか」
…なんか悪かったな。こちとら40後半のおっさんだ。小学生の頃はゲームに夢中だったんだ。もっともウチはゲーム機を買ってもらえず、友達の家で遊ぶばっかりだったけどな。セーブデータ上書きして温厚なよしのりくんがマジギレしたのはいい思い出だ。あのころのゲームはシンプルで楽しかったな。
俺は反射神経が良くないと自覚してたのでコマンド方式のRPGばっかりやってた。シューティングも好きだったけどスピードについていけずクリアできないのがストレスだったんだよな。チラつくスプライトの敵弾に当たってやられるとか、納得いかないもん。
その点コマンドRPGなら、地道にレベル上げていけばいつかはクリアできる、って安心感があったからハマってたな、よしのりくん家で。
だから同じRPGでもアクションタイプのヤツは敬遠してた。有名な赤髪のアレとか、緑の帽子被ったコレとか…
などと考えていたらサワガミくんの作業が終わったようだ。
「さて、準備ができました。あなたが異世界に適応しやすいように、現世のゲームのようなシステムを一部取り入れました。私は詳しくないのであなたの頭の中を少し覗かせて頂きましたよ」
え、俺の頭の中見たの?さりげなくエグいこと言ったな。前もって言えよ。ヤバいこと思い浮かべてなくてよかった。
その後サワガミくんとの数度のやり取りを経て、俺のコンプレックスとか細かな要望を調整?してもらって。
「…では、いよいよあなたを新しい世界へお送りします。実り多き人生が訪れますように…」
辺りが真っ白に染まり…気がつくと一面の草原に俺は立っていた。