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おっさんが行く 異世界で軽運送   作者: 仕事の傍ら執筆中
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改善計画

「村長さん、少しお話し聞かせくださいますか」

「あ、ヒロさん、どうしました?」

 昼食の後、俺は再び村長を訪ねた。この村のことを詳しく聞いておきたかったのだ。

 いま困っていることは何か、どうやったら解決できるか、どうなることか幸せか、を考えるのが仕事の進め方だ。勝手に,頼まれてもいない的外れなことをやってもそれはただの自己満足に過ぎない。

「村の改善ですか…訳をお聞きしても?」

「はい。私はこの村でお世話になる以上、村の発展に貢献したいと考えています。ですがそのためには、この村の現状を正しく把握することが不可欠です。私の勝手な考えから噛み合わない提案をしても皆さんには受け入れてもらえません」

 村長はフム、と小さく肯き、

「そういうことであれば、可能な限りお話ししましょう。なにか新しくやる場合には前もって話して頂ければたいていのことは許可できると思います」

「ありがとうございます。ではまず村の皆さんの生活水準を上げる方策を考えます」

 すごいよね、こういう、年下のよそ者にもちゃんと敬意を払って話できる人。俺はなかなかこの境地にはたどり着けないなぁ。

 それからおれは、村の食料事情や衛生、教育、医療、インフラなどのことをかなり突っ込んで村長から教えてもらった。


 話を聞く限り、かなりの分野で改善の余地がありそうだった。

 もちろん俺は専門家ではないからあまりに高度な物は作れない。だが現代物資を召喚するスキルがあるので、専門書や専用工具などを召喚することでかなりいいところまでは漕ぎ着けることができるのではないだろうか。

 それにはもちろん村人たちの協力も必要だが。

 村人の信用を得るには、言葉は悪いが安易な餌付けではなく、一緒になって、目に見える実績を作るほうがいいだろう。ただおいしい思いをしただけでは人は動かないからな。自分達で頑張った成果が目に見えるならば継続して協力してくれると俺はこれまでの経験で知っている。


 まず俺が注目したのは食料だ。まだ村の隅々まで見たわけではないが、殆どの村人が痩せ形だ。ガリガリといってもいいくらい。栄養状態は現代日本と比べるまでもないだろう。あ、ピコトさんが例外なくらい。…あの人なんでふくふくしてんのかな。体質か。 聞けないけど。


 話が逸れた。村長の話によると、村人の主食はパンで、麦や雑穀も食卓に上がるほか、森に入って木の実や果物を採ったり、動物を狩ることでタンパク源としているそうだ。農作物の出来や狩りの成果によって食料バランスが簡単に崩れる様子。特に家畜がいないため、肉類の入手はかなり不安定だな。

 余談だが、日本でも明治文明開化までは肉食があまりなされなかったという話がある。もちろん山間部に住む猟師は鳥や獣を食べていただろうが、いわゆる町人が獣の肉を食べるようになるのはだいぶ後のことだったらしい。畜産の概念も外国からもたらされたので積極的に肉を食う文化は実はけっこう新しいのだ。


 次に公衆衛生だが、比較的キレイな川が村からそう遠くないところにあり、また村の中央には井戸があるので水事情はマシだ。ただし上下水道は整備されていない。糞尿は、村の外れの窪地にときどきまとめて捨てに行くそうだ。 平常時はともかく、大雨の時とか、あんまり考えたくないな。


 それから医療環境。マツサモ村には医者がいないので、行商人から買ってストックしてある薬だけが頼り。重い病気の場合は王都へ行き医者に見せるしかないが、日数がかかりまた費用も高額になることから諦めることも少なくないようだ。


 飢饉や流行病で集落が全滅することも珍しくないこの世界は、なかなかハードモードのようだ。

 どこから手をつけたらいいかわからないくらい問題は山積みだが、こういう場合は問題を整理する。


 足下の、今すぐ対処しないといけないもの。

 そこそこの時間をかけて解決するもの。

 そして長年かけて少しずつ変えていくもの、だ。


 飢えや病気はすぐに手をつけるべきだな。幸い、今年は作物もそこそこ採れたというので、今日・明日、飢え死にすることはない。だが農作物で税金を納めた後は備蓄が寂しくなるので、なにかしら対策を取ろう。

 対策として、

 ・現代から召喚した食料を村人で分ける

 ・召喚したタネや苗を分けて、村の田畑で育てる。土壌を改良して収量を上げる。翌年以降期待できるだろう。肥料も作ろう。畜産もやりたいが、鶏や豚、牛といった家畜が手に入るだろうか。そもそもこの世界にもいるのかな。

 ・果物の樹木を植える。開墾して田畑を広げる。防災も兼ねて水路を整備する。

 よし、まずはこの分野から実行に移そう。


 ケダサカに経緯を説明し、各家に同行を求めると快く応じてくれた。聞くと、これまで自分なりにいろいろ工夫してきたみたいだが、収穫量の安定は難しかったようだ。

 今年はもう麦の刈り入れが済んでしまっている。今年の納税が終わった後でどれだけ備蓄が残るか、がカギだ。

 大家族は余裕なさそうだな。子供にひもじい思いをさせてはいけない。冬の間、備蓄が少なくなったらなんとかするので安心するように伝えた。

 肉類は、秋の間に獲物をたくさん狩っておき、干し肉や薫製にして保存するというが、それだけだと辛いだろう。畜産が軌道に乗るまでは俺が召喚した肉で凌いでもらうか。

 冬の間に土壌改良だな。森から腐葉土も調達するが、場合によっては現代から召喚した肥料を投入だ。事前によく勉強しておこう。

 状態のいい畑には冬野菜を植えて。冬の間にビタミン不足にならないようにね。ナベ文化なんか持ち込んだら楽しいかも。

 おっと、そうこうしていたら夕方になってしまった。ケダサカと別れ、ボロ新居へ。夕飯は豚骨ラーメン。いかん、カップ麺が二食続いてしまった。自炊するか別の物を明日召喚しようかな。ま、今日のところは仕方ない。

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