おっさん死んじゃった
初めての小説になります。
異世界なのにどこかしみったれた主人公。
ああもう、とつっこんでくれることを
期待しています。
「え…こんな狭い道行くの?ホント?合ってんの?」
カーナビの画面をチラ見しつつ、思わず独り言を言ってしまった。
俺の名前は松崎博明。フリーの軽貨物ドライバーだ。
といっても愛車は軽トラじゃなくて軽バンだ。荷室にはドラッグストアに納める各種食品、生活用品が満載されている。
現在俺は、宮崎県の某市街地を目指して絶賛山越え中…なのだが、古いカーナビ君が良い仕事をしてくれず迷走中。馴染みのない狭い道路から入った、さらに狭い山道を走らされている。
見通しが悪く地味にストレスなルートが続く。フリーの仕事を始めて一年、ようやく軌道に乗ってきた。もう少し儲かったら新しいナビに替えよう。
今日はスポットで請けた仕事で、このルートは初めて走る。知らない土地ではヘタに自分で判断するよりは素直にカーナビに従って走るのが鉄則、なのだが。
「さすがに、この道は、おっ、違う、だろっ、と」
忙しくハンドルを切りつつもスピードダウンは最小限に。
安物のカーナビあるあるなのだが、およそ走行に適しているとは思えないルートを案内することがある。車幅ギリギリの狭い道とか、私道で通り抜けできないところとか。
今回もその口か、と内心舌打ちしながらも、他に迂回路も見つからず我慢して狭い道をひた走る。
この微妙な県道?市道?に入り込み、既にそこそこの距離を進んでいる。こうなるとUターンのきっかけも無くしてしまい、引き返した方がいいか、いやいや、もう少しで抜けるはず、といった心理もあいまって次第に焦りも出てくる。
いやまぁ、この積荷は明日の朝までに市街地の某ドラッグストアに届ければいいから本当は急ぐ必要もないんだけどね。
時刻は午後四時。夏の終わり、空が暗くなる前にこの狭い道を抜けたい気持ちもあり、ややスピードがノッてた自覚はある。
えてしてこんな時にアクシデントは起きるもの。
路面に枯草が積もったタイトなコーナーを抜け、やっと視界が開ける、アクセル踏むぜ、と思ったその瞬間、目の前にデカいイノシシが!いや道の真ん中で止まってるって!避けろよ!
(あ、これダメなやつ)
不思議とこういう時って、視界がスローモーションで流れて、ああ、やっぱぶつかるの避けられないな、なんて頭の何処で冷静に考えたりするものだ。走馬灯ってやつだな。
(これイノシシの大人、いや成体、って言うのか。ハンドルは、間に合わない、バンパーの右端のとこにヒットする!保険は…入ってる、いや、ケチって車両保険は入ってなかったんだった。じゃあ修理代は自腹か。待て待てそんなことよりも、衝突エネルギーが大きければ大破するぞ。知り合いは山道でイノシシとぶつかってラジエターまでイカれて立ち往生したとか。こないだサーモスタット交換したばっかりなのに。こんなよく知らない山越えの道で走行不能になったら、てか携帯の電波届くかな。もうすぐ暗くなるから野宿は嫌ぁ…って、もうぶつかるッ!!)
コンマ何秒でよくこれだけ考えられた…な…。
そこで記憶がぷっつりと途絶えた。