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1.王子に婚約解消されたらドラゴンがやってきた

見切り発車で始めます。

たぶん長編にはなりません。


ラストまで毎日7時更新です。

 常々、私の婚約者は考えの足りない人だと思っていた。


「ユリアナ、貴様との婚約は解消する! 聖女であるという理由だけで、平民の貴様が私の婚約者になるというのが、そもそも間違いだったのだ」


 芝居がかった仕草で頭を抱えているのは、この国アルトハイデン王国の王子アレクサンデル様だ。金髪碧眼の絵にかいたような王子様なのだが、少し頭の中身が残念な方である。そして私の婚約者だ。


 私ははあとため息を吐く。これで何度目の婚約解消宣言になるのか?


 この残念王子は事あるごとに難癖をつけては、婚約解消を申し渡してくる。その度に国王陛下や重臣たちが私に謝罪しているのをご存知ないのだ。


「はあ。承知いたしました。婚約解消はお受けいたします」

「そうか。受けてくれるか? ついでに貴様は国外追放だ」


 これもお決まり文句だ。今回の理由はアレクサンデル様の隣にいる令嬢を虐げたとかだろう。


「国外追放ですね。今日中に荷物をまとめて出ていきます」

「物分かりがよくて助かる。そして、ヘレーナに謝罪をするのだ」


 隣の令嬢はヘレーナという名なのか。全然知らなかった。ヘレーナ様はアレクサンデル様の腕にしがみついて、蜂蜜色のくるくる巻き毛を振り乱す。


「聖女であるユリアナ様が意地悪な方とは存じませんでした。わたくしの髪を掴んだり、足を引っかけたりなさるなんて聖女のなさることではありませんわ!」


 ヘレーナ様は手で顔を覆い、わっと泣き出す。アレクサンデル様はそんな彼女を抱きしめる。人前で何をしているのだろう。


「ああ、ヘレーナ。辛かったな。ユリアナは国外追放となる。もうこれで虐められることはないぞ」


 普通そんな理由で国外追放になったりはしないのだが、本当に残念王子だ。


「さあ、ユリアナ。ヘレーナに謝罪をするのだ」


 アレクサンデル様は私をきっと睨むと、ヘレーナ様への謝罪を強要する。


 虐めた覚えはない。そもそもヘレーナ様は自分で木に髪をひっかけたり、勝手に転んでいたのだ。私はたまたま現場を目撃しただけに過ぎない。


 とはいえ、謝罪しないと面倒なことになるだろう。


 幸い私は平民なので貴族のような矜持は持ち合わせていない。頭を下げるくらいどうということはないのだ。理不尽だとは思うけど……。


「ヘレーナ様、申し訳ございませんでした。私は今から荷物をまとめてこの国を出ていきます」


 頭だけ下げて視線を上に向けると、ヘレーナ様が指の隙間から私の顔を見ている。緑の瞳は弧を描いてちらりと見える口の端は上がっていた。


 あ。嘘泣きだ。可憐な見かけに反して、性格は良くないと見た。


 アレクサンデル様は私の代わりに彼女を婚約者にするのかもしれないが、苦労するだろうな。


「ユリアナとの婚約は解消された。代わりにヘレーナをわたしの婚約者とする!」


 やっぱりか。


 もうアレクサンデル様とは婚約者でも何でもないのだ。彼がどうなろうと知ったことではない。


 末永くお幸せに!



 私は自分の住処である神殿の部屋に戻り、荷物をまとめる。


 部屋を出たところで神殿の祭司長に会う。まだ三十代前半の祭司長は私の師匠だ。


「ユリアナ、今度こそ出ていくのか?」

「はい、師匠。もうあのバカ王子には愛想が尽きました。神殿の抜け道を使っても構いませんか?」


 そのうち国王陛下を始め、重臣や神殿の長たちが私を引き止めにやってくる。今回は本当に国を出るつもりなので鉢合わせしたくない。


「良かろう。しかし行くあてはあるのか?」


 両親は昨年の流行り病で亡くなってしまった。家はすでに他人の手に渡っているので、帰る場所はない。


「自由気ままに旅をします。子供の頃から神殿で育ったので、旅をしてみたいと思っていたのです」


 私の家は王都でカフェを営んでいた。父母は優しく七歳まで幸せに育ったのだが、ある日神殿から迎えがやってきたのだ。


 神殿の使者は『貴女が聖女だという神託を受けました。どうかこの国をお導きください』とか何とか言っていた。随分と物好きな神様もいたものだと子供心に思ったものだ。


 アルトハイデン王国の聖女の位は高い。貴族より上なのだ。たとえ平民出身だとしても関係ない。おかげでアレクサンデル様の婚約者にされてしまった。


 神殿の暮らしは退屈なものだった。聖女の仕事は毎日朝と夜に神様へ祈りを捧げる。年の初めに豊穣を祈る祭事に出席する。この程度だ。


 あまりにも退屈だったので、祭司長から護身術や武術を学んだ。祭司長はいろいろなことを私に教えてくれた。だから師匠と呼んでいるのだ。


「旅か。それも良いな。もし気が向いたら世界樹を探しにいくと良い」

「世界樹ですか?」


 世界のどこかにあると伝えらている神秘に満ちた樹木。一説ではこの世界は世界樹の上にあると言われている。


「しかし、ユリアナがいなくなるとこの国は大変になるだろうな。私も身の振り方を考えなければならない」

「大袈裟です。私がいなくなっても、この国はどうにもなりませんよ」


 ふいに神殿の入り口から複数の足音が聞こえてくる。大方、いつもの顔触れが私を引き止めに来たといったところだろう。


「客人が来たようだ。私が適当に時間を稼ぐ。ユリアナは抜け道へ急げ」

「ありがとうございます! 師匠、お達者で!」

「気をつけていくがよい。ユリアナ、元気でな」


 師匠は微笑むと手を振ってくれた。


 アレクサンデル様はどうでもいいが、師匠と分かれるのは寂しい。一度だけ師匠の方へ振り返り、深く礼をした。



 神殿の抜け道は師匠と私しか知らない。子供の頃、探検に出て偶然見つけたのだ。師匠に抜け道のことを話したところ、二人だけの秘密ということになった。


 地下にある抜け道は暗い。だが、何度も通っているので問題ない。


 時々、この抜け道から師匠と神殿を抜け出し、王都で買い食いをして息抜きをしていたのだ。


 やがて光が射す場所に辿り着く。出口だ。


 出口は今は使われていない水道橋跡地につながっているのだ。


「そうだ。近くに両親の墓があるから、寄っていこう」



 小高い丘には平民の共同墓地がある。両親はここに眠っているのだ。両親の墓からは西の山脈が見渡せる。


「父さん、母さん。私は今日この国を出ます。ほとぼりが冷めたらまたお墓参りに来るね」


 さて、旅に出ようと腰を上げた瞬間、羽音がする。風が急に吹き、目を開けていられないほどだ。私は堪らず目を瞑る。


「何事!?」


 地響きがしたのでそっと目を開けると、苔が生えている岩のような模様をした生き物が私の目の前にいた。


 よく観察してみると、ドラゴンのようだ。


「おまえ、アルトハイデンの聖女か?」


 声は明らかにドラゴンから聞こえる。ドラゴンを見るのは初めてではないが、しゃべるドラゴンは見たことがない。


「そうだけど。貴方ドラゴンよね? 私を食べる気なの?」

「人間は食べない。俺はユグドラシル・ドラゴン・ジュニアだ。我が主がおまえを呼んでいる。俺と一緒に来い」


 ユグドラシル・ドラゴン・ジュニア? そんな竜種は聞いたことがない。私が知らない竜の種族かもしれない。


「じゃあ、ユグドラシル・ドラゴン・ジュニア。主とは誰?」

「ジュニアでいい。主は世界樹だ」


 え? 世界樹が主? このジュニアと名乗るドラゴンの?

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)


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― 新着の感想 ―
[一言] ふむふむ。ドラゴンが既に世界樹の臣下なのね。
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