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19万6883次元の記憶

「コラぁ~! オレをチラ見してすぐ閉めんな~!」


「ごめんごめん」


「なんて失礼なやっちゃ」


「いや~、雰囲気違うし、急だったからびっくりしてさ。

ごめんね、愛理栖」


「は? 愛理栖ってだれや?」


「へ?

あんた……、愛理栖じゃないの?」


奇抜で珍しい空色の髪、お洒落で異国風な服装。

そして、一番印象に残っている見た人を吸い込むような栗色の瞳。

その、どう見ても外見が愛理栖にしか見えない自称オレと名乗る少女はキッパリと否定した。


「そっか……」


「おい! なんだよ、その……、

人違いだから、もうあなたには全然興味ありません。早くどこかに消えちゃってください。

って遠回しに言ってるようなその冷たい目は!」


「まあまあ、二人とも落ち着きなって。

その人は真智の知り合いか?」


「それがさ~、違うみたい。

愛理栖のこと、たしか そらにも話したことあったよね?」


「そやな。確か、あたいが真智達と仲良くなる前に

部活の部長さんだった人やろ?」


「そうそう。四葉ちゃんは一緒にいたよね?」


「覚えてるよ~。確か、愛理栖ちゃんが急に外国に行くことになって、部員みんなでタイムカプセルを埋めに長野県に旅行に行ったよね~?」


「ふ〜ん。

でも一つ聞いていいか?」


「いいけど、何?」 


「お前達はどうして タイムカプセルを埋める為に

わざわざ長野県まで行ったのさ?」


「それは、愛理栖 の目的が "宇宙の夜明け"を探すことだったみたいで、あたしにも詳しいことはわからないけど、X座標とY座標の交点が長野県にあったらしくって……」



「ちょっとちょっと、あんたらー!

オレを無視すんな!」


「あー、君もいたんだよね。ごめんね~。

ところでさ、君は見た感じ女の子みたいだけど、

どうして男の子みたいな話し方してるの?」


「ハ!? オレは男だ!

それに、普通は最初にオレの名前を聞くもんじゃないのかよ?」


「ごめんごめん。

君の名前教えて?」


「オレは グリトラハン」


「難しい名前だね? 外国の人?」


「わからん。オレは研究所に預けられた10歳以前の記憶が無いんだ」


「とりあえず、グリ……なんだっけ?

その名前は呼びにくいから、

これから君のことは"グリ"って呼ぶね」


「なんだよその幼くて弱そうな名前は!」


「え〜!

あたしは可愛いと思うんだけどなぁ」


「ふん。オレは急いでるからまあ、

この際呼び方は好きにすればいい」


「ありがとう〜グリ♪

ねえ、ちょっとその髪触らせて」


「何だよ、猫みたいにオレに近寄って来んなよ。

シッ、シッ!

うっとうしい、離れろよ」 


「いいじゃ〜ん、いいじゃ〜ん♪」


「真智は君が昔の親友にそっくりだから興味があるってよ」


「ウ、ウゼエ」


「ねえ〜。ところで君はどうしてわざわざ女の子みたいな格好してるの~?」

 それはみんなにとって核心をつく質問だった。


「四葉ちゃんそれよ!

実はあたしもそれが気になってて、

後で聞こうと思ってたんだ」


「あたいも。

で、グリだっけ?

それはどうしてなんだ?」


「え~と……、それは」

グリはどもりながら言葉を探す。


「それは?」!」!」

みんかグリの応えをただじっと待つ。

 

 三人の異性に一斉に注目された為、

恥ずかしくなら挙動不審にシドロモドロするグリ。

 そんな彼の泳いだにみんなが注目しないはずは無い。


「オレが……さ、

実験のモルモット だからなんだ」




「え、 何?

もう一回言ってもらっていい?」


「だから、俺はモルモットなんだよ」


「あの……、

モルモットってどういう事?」

 グリのその予想の斜め上な答えにみんなは唖然としていた。



「オレにはさ……、ハッキリとした昔の思い出がキレイさっぱり残って無いんだ。

気が付いた時にはオレはこんな姿だった。

長野の紡績工場の敷地内でどしゃ降りの雨の中、オレは意識を失い倒れていたらしい。

それからオレは清都の研究施設に入れられたんだ」


「じゃあ、君のグリトラハンって言うその名前はどこから?」


「オレの脳内の海馬に、長い記号や数字で書かれた血液型と生年月日 と一緒にグリトラハンってメソポタミアの楔形文字で名前かが記されたカーボンナノチューブの分子があるのを

研究所の研究者がみつけたんだ」


「それってすごくない? でも、どうしてモルモットにされていたの?」


「それは……、内容が難しくってオレにも上手く説明できん」



「その説明、うちがしよう」


「先生?」」」

そう言って現れたのは他でもない

谷先生その人だ。

 

 そして、先生は言葉を続けた。

「カーボンナノチューブに記されたこいつの血液型データが通常有り得なくってな、

遺伝子情報自体ありえないんや。

それに、そいつの生年月日に複素数がぎょうさん含まれとったことついても理由がわからん。

うちは算術を使いこいつの生年月日をうちらが使う西暦と比べてみたんやが、乗数が超越数になってもうて先がわからないんや」


「だいたいどれくらいなんですか?」


「まあ待ちや真智。話は最後まで聞け」


「はい」


「こいつの脳内のカーボンナノチューブを含めて

記憶喪失の症状は全て、

たった一つの素粒子が命令を出して生み出しているんや」


「たった一つの素粒子?」


「実証は難しいが、たぶん情報を書き込まれた光子やないかとうちは思う」


「そんなこと可能なんですか?」


「それはうちにもわからん。ただな、

脳の構造を作るのに重要な役目を担っているACP2という分子がごく短期間で大量に生み出されているんや。

この事実からすると、この予想はあながち間違ってないと思う」


「先生、もう一つ聞いてもいいですか?」

 真智は今自分が一番知りたい部分を思い切って谷先生に聞いてみた。


「ええけど、聞きたい事ってなんや?」


「愛理栖は……、愛理栖自身は無事なんでしょうか?」


「生きていると思う。あのの体は別のところにあるしな」


「別のところってどういうことですか?」


「少女としての体は影、姿形や大きさはうちにも真智も見えんけど、この宇宙全体に広がる数えきれん光は全てあの娘の庭なんや」


「じゃあ、今愛理栖の意識はどこにいるんですか?」


「それはうちにもわからん。この少年が記憶を思い出したら聞いてみるしかなさそうやな」


「ねえ、グリ? 何か覚えている事は無い?」


「1966884」

真智がそう尋ねると、グリはまるで九九を口ずさんむように、暗記したのであろう7桁の数字をぽつりと呟いた。



「1966884やて?」

谷先生の瞳孔は開き、そしてグリに唾がかかりそうな至近距離まで詰め寄っていた。


「谷先生、どうしてそんなに驚いてるんですか?」


「偶然かもしれんがももしかすると、楕円モジュラー関数のフーリエ展開に関係してるかも……」


「難しくて何言ってるか解りませんよ。

あたし達にも解るように教えてください」


「真智はまだ知らんやろな、大学以上で習う理数系科目の中で出てくる数字なんや」


「え〜と、専門用語の部分はあたしイマイチわかりませんが、

つまり、谷先生はグリがそんな難しい知識を知っていたことに驚いたって事ですか?」


「確かにそれも一理あるな。

でもな、うちにはそれよりもっと引っ掛かることが他にあるんや」


「引っ掛かかることってなんですか?」


「さっきも言うたけど、グリの遺伝子情報は存在せんのや。

 これはうちの推測やけど、それは分子配列とかそんな生やさしいレベルやない。

グリの遺伝情報はうちらの世界の元素とは関係無いものに作用してるかもしれん」


「谷先生〜?

グリさんの生まれた世界を私達がイメージすることはできますか〜?」

 四葉ちゃんの踏み込んだ質問にみんな興味をもった。


「う~ん、イメージは難しいな。

例えばやけど、うちら宇宙全体の生物と、愛理栖の違いが誤差の範囲って思える程大きくて遠い存在や」


「それは〜、私達の生きる次元よりも大きな存在ですか〜?」


「四葉ようわかったな。

幾何学や群論などの計算に関わってくる実体の無い理論上の次元なんやけどな、

うちはグリが《《19万6883次元》》から来た可能性があると思うんや」


「谷先生、調子に乗りすぎですよ〜(ᵔᴥᵔ)

それってまるで、日本の国民的バトル漫画のアメリカ同人誌で主人公の戦闘力を上限突破させ過ぎて、インフレを通り越していろいろな肝心な部分がぶっ壊れてしまい、

最後の方になるとどういう訳か、

太っていて不細工な狼男みたいになっちゃってるよ、オイ!!

みたいな、

もう収集つかなくなって、

『あのさぁー、オレ今思ったんだけどさー、

自分が面白ければさぁー、ぶっちゃけ

後の細けーことなんかどうでも よくね??』

って、自分で勝手に自己完結して開き直っちゃったみたいな言いかたですよね、それ!?」ʅ(◞‿◟)ʃ


「まあまあ真智、お前はとりあえず《《もちつけ》》!

うちは調子に乗ってなんかないで。

れっきとした数学上の概念や」


「先生、そんなウソくさい次元言われても、

あたし達には全然イメージできませんよー!」

真智は谷先生に抗議した。


「そもそも、そんな高い次元は実際には実体として存在しない〜、でしたよね〜?」


「四葉いいとこつくな。

うちらがある方法を除いては絶対に行くことの出来ない幻のの世界や。

まあ、おとぎ話の世界、ゲームの世界、夢の世界、死後の世界と同じやな」


「そのある方法ってなんですか?」


「つまりな、少年が足跡をつけたうちらの世界の光子を手がかりに、

数学と仮想現実、つまりVRを使うんや!」


——————————————————————

【登場人物】

真智まち

•四葉

そら

•谷先生

•グリ

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