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1-8 接敵

 お母さんから聞いた話では、そいつらエロマンガ商会も初めは無料で物品を配って人を集めていたのだそうです。


 しかし、次第に高額で素晴らしい商品を出してくるようになり、それらはもちろん有料です。


 そして借金を払えない人達はあれこれと無理を聞かなくてはならない事になったと。


 それらは多分、『ボッタクリ』の詐欺商品ですわね。たいした事もないような商品を売りつけて法外に高額な値をつけ、無知な村人からむしり取っているのでしょう。


 この王都の近辺の村で、そのような狼藉を行っているとは、きっと何かの企てなのでしょう。


 これは今のうちに潰しておかねば、またあの女の高笑いが王都に響いてしまうやもしれません。


 そのような事態は絶対に認められません。それくらいなら、今すぐ王都へ取って返し、あの女の首をねじ切って!


 などという訳にはいかないのですから、今こうしているのですが。ええい、口惜しい。


 二人には、続いて果実のジュースやデザートなどを振る舞い、先ほどの失態はなかった事にしてあります。とりあえず、彼らの村まで行ってみなければなりません。


「私の家は早くに夫を亡くし、女手一つでこの子を育てています。元々借金があったのですが、あの商会のせいでまた借金を増やしてしまい、今はこうやって担ぎ屋をしています。


 まだ小さいこの子を放ってはおけないので一緒に連れてきているのですが、満足に御飯も食べさせてあげられていないので、先ほどのような事に」


 おのれ、エロマンガめ。この私のみならず、我が国の民をこのように苦しめるとは。ヤバイですね、この状況は。


 これは案外と詐欺商売が国内に広まっているのかもしれません。早めに手を打っておくことにしますか。とにかく村へ行って実態を見させていただく事とします。


 私はバニラに歌を催促し、それを聞いて楽しそうにはしゃいでいたアニーも、藁のベッドの上でロバの足音と車輪の紡ぐ振動に瞼の緞帳を委ねたようです。


 同じく、荷物を担ぎながら小さな子供を連れて歩き疲れただろうお母さんも、静かな寝息を立てていきました。


 静かなリズムで進む馬車ならぬロバ車は、一刻も経つと次の村までやってきました。私はお母さんを揺り動かしました。


「ナージャさん、ナージャさん、起きてください。この村でいいのでしょうか」

 彼女は寝ぼけ眼で起き上がると、ふらふらと荷馬車から降りました。


「ええ、そうです。よかった、無事に帰ってこれましたわ。一時はどうなる事かと。あなたのお蔭ですわ、ありがとうございました」


「家まで送りますよ。ナージャさん、ふらふらではないですか」


「え、ええ。ここのところ、ずっと織物などをしておりまして寝不足なのです。


 結局それでは間に合わないので、担ぎ屋を始めたのですが、それだと小さな子供連れではきつかったようです。これから本当にどうしてよいものやら」


 まったくエロマンガめ。いや、こういう書き方をすると、まるでエロ漫画家まんがかのようです。


 まあ、やっている事はあの無用に大きな胸であの阿呆の馬鹿王太子を誘惑しているのですからエロいのには違いありませんが。


 とにかく、ナージャさんの家まで向かうと、途中で少しいけすかない顔をした男と出会いました。


 一目みて嫌なものを感じてしまうような男です。もしや、こいつが例の。そしてシナモンが仰け反るような格好をしてこちらへ身を寄せると、私に小声で囁きます。


「こいつ、多分裏稼業の人間だね。あの帯の締め方、靴の履き方、荷物の括り方。全部いつ荒事になってもいいような、一般的じゃないやり方、あり方だ。こいつどうする、真理姉」


「そうね。まあ様子をみましょ」

 まあ、いきなりぶちのめすのもなんです。


 私は舌なめずりをしながら、そいつの出方を待っていました。私は、あのにっくきアリエッタの女郎をぶちのめすわけにはいかないのです。


 ならば、エロマンガ家の関係者がその肩代わりをするのが筋というものです。私の中で超獣マリーが目覚めていくのが感じられるかのようです。


 いや、別に超獣マリーという別人格が私の中にいるわけではなく、私の中の野生というか荒ぶる神と言うか、単にそういうものに過ぎない訳なのですが。目覚めよ、我が魔性の魂。


「お、あんたは商売に出かけていたナージャじゃないか。荷馬車で御帰還とは結構な身分だな」


 なんという言い草でしょう。ナージャさんは、こいつに脅されているのでしょうかね。


「い、いえ、そんな。途中で親切な方に乗せていただいただけで」


「その荷馬車ももらおうじゃないか。ついでに、その別嬪さんと可愛い坊やもな」


 私はまたも、ニコニコしながらそいつの話を聞いていました。別に別嬪さんだと言われたからではありません。


 だって、これから起こる楽しい事に思いを馳せたのなら誰だって楽しくなるでしょう。


 口元がつい、公爵令嬢に相応しくないほどにだらしなく緩んでしまうのを止められません。うへへへへ。


 周りには何事と訝しんで集まって来た村の人達がいますが、あまり関係ありません。


 だって、ここは王都でもないただの小さな村で、悪人にあっさりと騙されちゃう善良な村人と敵国の男爵家に雇われた犯罪組織の人間っぽい奴しかいないのでありますから。


 また、私は公爵家令嬢なのですから、ここでは一番身分の高い人間なのです。


「なんという事を。この方は何も関係ないのですわ」

「いいえ、大有りですとも!」


 荷馬車の上で立ち上がり、異議申し立てをする私。そんな私の強い語気に驚いたナージャさん。


 そして訝し気にこちらを、目を細めて見上げる小悪党。それから、そいつに尋ねてみた。


「お前はエロマンガ家ゆかりの者なの?」

「だったら、どうした」


 いかにも不遜そうな表情で言い放つそいつに向けて、格好良く片手を腰に当てたポーズを取り、奴を指差して映画かアニメのように啖呵を切った。


「この私こそが、お前らが陥れたマリー・ミルフィーユ・エクレーアだ。わざわざこの村まで来てやったぞ。どうかブラッディ・マリーと呼んでいただこうか!」


「な、なにい!」

 それは驚くでしょうね。


 今絶賛エロマンガ家が陥れようとしているこの私が、突然エロマンガ家が行っている悪事の真ん前に舞い降りたのですから。


 このような雑魚に魔法など不要。荷馬車から目にも止まらない速さで飛び降りて一瞬のうちに懐に潜り込み、掌底で思いっきり顎をかちあげ、奴を蒼穹へと打ち上げました。


 女の細腕と侮るなかれ。魔道具でブーストされたパワーは技と相まって、圧倒的な威力を持って悪を撃ったのです。もちろん、私が大変に清々しい表情であったのは言うまでもありませんが。


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