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1-6 行きつけの宿

「久しぶりだね、おばちゃんの宿」

 激しく同意しつつ、ベッドの上にうつぶせにダイビングする私。


「まあねー、あーこの庶民派ベッドが落ち着くわ。こう言っちゃあなんだけど、今もって自分のベッドが高級過ぎて馴染めない」


「もう転生して十五年も経つんでしょ。いい加減慣れなよ。そのうちに王妃様になるのを目指してるんでしょ。そっちのベッドはもっと高級なんじゃないの」


「そうなんだけどさ。ああ、今日の荷馬車の藁のベッドも素敵だったなー」

「この贅沢者」


 そう言って彼にとってはかなり大きめの枕を投げつけてくる美少年。この子も、もうちょっと口の利き方が良かったら大変に映える子なのですがね。


 生前の友人でBLマニアの子になど、とても見せられませぬ。大興奮で抱え込んで、そのまま持って帰ろうとするのに違いありません。


 私が後ろ頭をはたいてやる羽目になりまする。人気BLキャラの抱き枕ではないのですからね。


 そして、ふっと想像してしまいました。


 もし転生前の生前にこの子と地球で会ったとして、並みの女子高生がこのような美少年を自室に連れ込み、そしてこうして一緒にベッドの上にいるのを母親に見つかってしまったような事態を。


 いやあ、言い訳が苦し過ぎる。さすがに日本のロリコン魔法使いどもとは違って、一一〇番に通報はされないと思うのですがね。


「それは、ないないないから」

「何が」

「いいの!」


 そしてベッドから降りた私に彼も付き合う。今から御飯に行くのですから。育ち盛りなので、彼も御飯はいっぱい食べます。


 ついでに明日の足の確保について聞いておこうかと。軽く軋む階段を二人して競争で駆け下りていく。


 このような真似も王宮や公爵家ではなかなかにやりづらいので、村でのお楽しみにしております。


 おばちゃん謹製のシチュー、何というか日本のそれっぽい感じのレシピを渡しておいたもので、一言で言うとお袋の味ですね。いやあ、うちで母がよく作ってくれていた懐かしい味で涙が出ますわ。


「僕、このおばちゃんのシチュー大好きなんだよね」


 まあ、この子も市井のわんぱく坊主だった子ですから。親もなく、子供達だけで、かっぱらいに空き巣に詐欺などやりたい放題にしていましたからね。


 一応、残りのお仲間のホームレスの子供達は、面倒を見るように王国管轄の収容施設にぶちこんでおいたのですが、大人しくしていないのに決まっています。


 何度か見に行ったのですが、行くたびに手酷い悪戯をされますので、あれこれ仕置きをしておきました。


 まあ元気があって大変よろしい。これが私と彼らのスキンシップというか、それなりのコミュニケーションなのです。


「ふう、これも久しぶりだわ~。また当分お預けになるんだけどね」

「おや、そうなのかい?」


「ああ、ちょっと家出してきました。よんどころない事情でしてね。まあ、そのうちに帰る予定なのですが、ちょっとあれこれとやる事があるのです」


「そうかい、じゃあ頑張りな。あんたらなら何の心配もないだろうさ」


 ふふ、この村でも結構やらかしてしまいましたからね。私達の蛮勇伝はここでも音に聞こえているのです。


 まあ軽く、ほんのマッハ5くらいの伝搬速度で。子供の、しかも公爵家の子供のやる事なので大目に見られていましたけど。


 でも、その狼藉がこの村の危機を救った事もあるのです。そのあたりの武勇伝はまたの機会にでも。


「ね、おばちゃん。ここで馬車とか手に入らないかなあ」

 ここは比較的に大きな村なので、その辺は大いに期待しているのですが。


「馬車ねえ。それも荷馬車くらいしかないだろうし、しかも誰かがついていってあげるのは無理だと思うけど」


 所詮、村は村でした。これが日本なら、東京都から一歩出たら、いきなり牛や馬しかいない昔の田園風景みたいな。


 いくら東京が、昔はショーウインドウ都市と呼ばれていたからって、それはないと思うのですが。まあここは異世界ですので。


「うーん、じゃあそれで聞いてみてください。歩きで旅をする気がなくて。それくらいなら家に帰りますわ」


「マリーは根性ないなあ」

「いいの、あんただって紫外線シールドの魔法がなかったら出てこないくせに」


「しょうがないでしょ、あんたよりも色白なんだからさ」


 そんな私たちの姉弟のようなやり取りを聞いて、微笑ましそうにするおばちゃん。他の料理の配膳をしながら、こう言ってくれた。


「じゃあ、馬車の件は後で聞いておくよ。朝になったら声をかけるから」

「お願いー」


 ああ、これが元の世界であったならレンタカーでも借りるのですが、免許も持っていなかったので運転はできませんね。


 これがアメリカなら免許が取れる歳なのに。相方は小学生相当なので、そっちもアウトです。


 馬は乗れるのですが、あれも結構疲れますので。


 お腹いっぱいになってしまったので、二人ともそのままベッドでぐうぐう寝てしまいました。ここでは少々お行儀悪くても何も言われませんし。


 翌朝、食事を済ませた後で、おばちゃんに声をかけられて行ってみたのですが、そこには。


「オバーカ、オバーカ、オバーカ」と人を小馬鹿にしたような声で鳴く生き物がいました。


「おばちゃん、これ馬車でなくてロバ車!」


 近所の動物園で、本当にこういう鳴き声をするロバがいました。なんでロバって、啼く前にあんなに溜めが長いんでしょうね。


「ごめんよ、馬が手に入らなくてね。まあ、ロバなら馬よりも丈夫で旅には向いているかもねえ」


「そうですか、まあ歩きよりマシですので、この子でいいです」


 シナモンはもう夢中でそいつの首っ玉に齧りついています。王宮はケダモノ禁止でございますので。


 いわゆる動物アレルギー持ちが多いらしくて。この子は街では野良猫や野良犬を子分にして走り回っていた悪ガキでございましたので、動物は大好きっ子なのです。


 私は、おばちゃんが用意してくれた馬車の代金を持ち主に払って、おばちゃんにも相応の礼金を渡して、出発する事にしました。


 ついでに頼んでおいたお弁当もあれこれ頂いて。さあ、冒険旅行の始まりです。


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