1-48 エピローグ
「スフレ、スフレ。どこへ行ったのですか。午後のお茶会が始まってしまいますよ~」
だが、どこにも彼の姿が見つからないのです。ああもう、あの唐変木ったら。今日が何の日かわかっているのですか。
「もう、どこに行っちゃったのかしらね」
「さあ、また胸の大きな女と浮気していたりして」
「お馬鹿シナモン。そうそう結婚前に浮気されまくって堪るものですか」
「でもさあ、前に真理姉に教えてもらったマリッジ・ブルー。あれって男の人もかかるんじゃないの? 特に王子様の場合は、真理が手厳しいからさあ」
「う、そういう余計な事は覚えているのね。そんな事はないと思うけどな。あいつもアリエッタで懲りた事だろうし、大体あれは女の子が主にかかる病気なのよ」
「だといいんだけどなあ」
ですが、この子は妙に勘が鋭い子なので、もうちょっと気を配るべきだったかなとか、後で思ってしまったのです。
そして、ちょっとなんとなく気になってしまい、スフレの寝室を開けてみたら、そこには!
「ああ、サキ。僕はもう君の虜さ」
「うふふ、可愛い坊や。もっとあたしに夢中におなり。そうら、おっぱいの時間よ」
そう言って、なんとアリアッタよりも一回り大きな胸をスフレに押し付けている派手な女がいます。
「こらあ、そこ。何をしているのよ」
「あら、婚約者様の御登場ですか。バレてしまっては仕方がない。今日はここまでにしておきましょうか、マイハニー」
「そんな、サキ。僕を置いていかないでおくれ」
「こんのう!」
だが、シナモンが私の服の裾を引きます。
「真理姉、王子様ったら魅了されてる。それに、その女は人間じゃないよ。その金色の瞳、口から覗く牙。こいつは妖魔族だね、能力からして、多分サキュバスじゃないのかな」
う、よく見たらシナモンの言う通りです。
馬鹿スフレは、ぽわわんとした、半ば正気を失ったかのようなだらしない顔付きで、視線は宙を彷徨っていますし、体はふらふらとして足取りも覚束なくて、足を無様に引っかけてベッドに倒れ込んでしまい、座ってしまっています。
「まあ、お利口な坊やだこと。そうよ、あたしはサキュバスの女王サキ。じゃあ、そこの小さな利口で可愛い坊や、またね。あなたも、必ずこのサキの虜にしてあげるわ」
そう言って、そいつは窓から飛び立とうとしています。
「待て、このう」
私はバルバロッサを引き抜いて構えたが、そいつはヒラリっと空を飛び、幻惑の魔法を放ち天空へと消えていった。
こうなっては追うのはもう無理です。私は杖と一緒に取り出したスカイボードを引っ込めました。
「ちいっ、あの泥棒猫めえ」
そして、スフレに電撃の魔法を軽く食らわしてやりました。
「ぶひっ!」
情けない声を上げてベッドに倒れ込み、正気を取り戻したかに見えたスフレ。
なんとか自力で起き上がったのですが、未だに馬鹿のように座り込んで虚空を見つめています。さっきの御胸様の幻影に踊らされているのでしょうか。
「ええい、目を覚ませえ。これから私達二人が王国で正式に主催する、初めてのお茶会なのよ!」
「わ、わかったよ」
そう言って、まだふらつく足取りのスフレから強引に服をひっぺがし、私自ら着替えさせます。こんな事は子供のころ以来ですわ。
ちょっとスフレがこのような状態なので、侍女にも見せたくありませんから。
そして、お茶会をなんとか開いたはいいが、やおらスフレが真面目な顔付きで立ち上がり何か言おうとしています。
私は久しぶりに緊張していましたので、小さく息を吐いてそれを和らげると小声で呟きました。
「やれやれ、このアンポンタンもやっと王太子としての自覚に目覚めたのかしら」
ですが、シナモンが駆け寄って私の耳元で囁きます。
「あ、マリー様、ちょっとまずい。王子様ったら、まだ魅了が解けていないみたい」
「なんですって?」
そして、何事かと注目する茶会の参加者、つまり国家の重要人物達の集まる前で奴はこう言い放ったのです。
「皆さま、僕は彼女マリーとの婚約を破棄いたします。僕には他に愛する人がいるのですから!」
それを聞いて、全員が思わずお茶を噴いてしまいました。もちろん、この私もその中に混ざっております。
シナモンだけは、「ああ、ああ」とでもいう感じに頷きながら砂糖細工がしっかり乗った高級クッキーを平然と齧っております。
王太子とその婚約者が初めて主催する茶会としては、大変に珍しいものになってしまいました。なんて事でしょう。私の癇癪が富士山大噴火ばりに大爆発しました。
「ス・フ・レ~!」
そして、物語は振り出しに戻ってしまったのです。もう、アホですかあああ。




