1-44 審判の時
そして、華やかな舞踏会が進行し、私は壁の花。まるで、家督を継げないために冴えない、もてない貴族の男のようで軽く鬱が入りますね。
何故この私がこのような目に。エロマンガ家の奴らが勝ち誇ったように、ドレスも着ずにこのような場にいるこちらを蔑視しています。非常にムカつきます。
特にアリエッタの、あまりにも露骨な笑みを見て、その場で殴り倒したい衝動にかられたのですが、シナモンが腕を引っ張ります。
「真理姉、抑えて! あとちょいの我慢なんだからさ!」
「ま、まあね」
それから王家の口上が始まりました。自分達の周りを騎士達が取り囲んでいるのを見ても、警護の者と勘違いしてほくそ笑むアリエッタとその従者達。
「これより、王太子の結婚相手を発表する」
静まり返ったホールに、喜びを隠しきれない者、固唾を飲んで見守る者、そして戦闘態勢で緊張する者達などが、まるで神話の中に登場する人物達の彫像のように犇いていた。
「そう、その名は超獣マリー!」
ちょっと、そこの御義父様予定者~!
思いっきり目が笑っていますわよ。それと御義母様予定者も。元々血縁の叔父叔母なので身内乗りで、実に弄りに容赦がございません。
この国家の危機に、あえて楽しむ気満々ですのね。そして、そして、そこの笑い転げている両親と私の従者!
あ、私担当間諜のハトリの奴まで、変装したドレス姿で笑いを堪えています。あいつは後で絶対に締めます。
もっとも奴は、この私の力をもってしても、なかなか捕まえられないので困ったものなのですが。
でも、もちろん笑っていない連中もいたのでした。
「な、な、な、なんですって」
わなわなと全身で震えるアリエッタ。いきなり転げ落ちるかのように、勝利の凱旋者ではなく屈辱の晒し者としてのステージの主役となったのだから無理もないのですが。
「エロマンガ男爵家の者達よ。お前達が我が国にてやってきた悪行は、すべてそこの我が姪にして義娘の王太子妃が暴いてくれた。観念せいっ」
えーい、よく言いますわね、国王陛下。
確かに道々暴いた、アリエッタ一党の悪行の数々はあなた様に送りつけましたけど、あくまでそれはごく一部なのでありまして、その殆どは王国の間諜が元から集めていた情報でしょうに。
ですが、私が魔道具で記録させた映像は水晶から、魔道拡大鏡で立体化されて映し出されていました。
もう連中に言い逃れはできないはず。何が起こったのか把握できずに茫然と立ち尽くす無能な王太子スフレちゃん。
これだから、面がいいだけのボンボンというものは。すっかりと、あの胸に調教、もとい洗脳されていますね。
だが、アリエッタは高笑いを鳴り響かせた。やると思ったわ。いよいよ、私のお腰につけたバルバロッサがデビューすべきシーンなのでしょうか。
王宮が無くなってしまわないとよいのですがね。原形を留めていてくれないと、後で親から申し付けられるだろう修復も困難です。
もしそうなったら、あの魔力ブーストしてくれる蛙さんあたりでも王宮にご招待してやらないといけなくなりそうです。
そして、すべての悪事を白日の元に曝け出されたアリエッタは悪びれる事すらなく、国王陛下の面前にて堂々と言い放った。
「はっ、笑止千万ですわね。この軍事力が貧弱なビスコッティ王国が、我が軍事大国マンジールに対抗できるとでもいうのですか?
穏便な支配を実現してやろうという、宗主国様からの温情を無下になさるとは。この私に指一本でも触れてごらんなさいな。マンジールから今すぐにでも大軍が流れ込んできますわ。
さあ、国王陛下、さっきの発表を撤回し、この私を王太子妃にするのです。その方が、この国にとって身のためですわよ。おーっほっほっほ」
ですが、陛下は私を見ました。知的に輝くグレーの瞳にいっぱいの笑みを乗せて。あら、いいのかしら。
でもバルバロッサの事は実の母親にも内緒だったしなあ。あの人にバレたら一番マズイわけなのでありますが。
まあ、いっか。この機会を、愛杖が華やかにデビューするこの日が来るのを、それはもう一日千秋の想いで待ちに待ち焦がれていたのですから。
「アリエッタ」
そう静かに彼女に語りかける私。
「何よ、マリー。それにその冒険者のような格好は何ですか。一体どこの山猿なの」
「いえいえ、ほんのSランク冒険者でございますのよ」
私が中央に進み出ながら胸元のオリハルコン記章を高く掲げて示すと爆笑が、池を伝う激しい波紋の波のように広間を埋め尽くしていきました。何故!
「僕もなの!」
可愛らしくシナモンが叫んで同じくプレートの記章を掲げると、場内を素晴らしい拍手の渦が広がっていきました。
ええっ、どういう意味? ねえ、それはどういう意味なの⁉ この場にいる奴らは後で必ず締めよう。そう心に誓い、私は腰の鞘から必殺の杖を抜きました。
そこまでは散々爆笑していたくせに、途端に慌てだすうちの母親。見る人が見れば、この杖の威力は丸わかりですからね。
ふふ、親に見つかったら取り上げられそうな危険な玩具は収納に隠し持つに限りますわ。
エロマンガ家の人間は、躊躇なく進みくる私からアリエッタを守ろうとしたが、我が王国の精鋭騎士団に制止されます。だが、それを振り払ってアリエッタの周囲を固めました。
「ふふ、よけいな邪魔者が煩いですわね」
私は軽く口笛を吹きました。
もちろん、魔力を乗せて放つ魔法口笛なのですが。すると、王宮の広い大理石の廊下をドタドタと駆けてくるものがいました。
いや、どちらかというと、ペタペタという爬虫類的な足音を響かせて。もちろん、喜び勇んで呼び出しに応じているのは、うちのあの子なのですが。
もう躾というか、勝負付けというか、そういうものは王都に戻る道中にて済んでおりますのでね。
何故か、ロバのロシナンテの奴まで一緒に駆けてきます。お前は特に呼んでいません事よ?
ロシナンテは、あれからシナモン専用機として、王宮内でトイレの世話はちゃんとするという条件で飼育が許されています。はっきり言って、ただのもふもふなペットですわね。
まあ緑色の巨大蛙の群れや、うじゃうじゃ湧いてくる巨大オタマジャクシなんかよりは、一国の王宮で飼うにあたってはマシな生き物なのではないでしょうか。
「キュピーっ」
「マルーク。あなた、そこの雑魚どもと遊んであげてちょうだい」
「キュピピピっ」
彼にじゃれられて、たちまちパニックに陥るアリエアッタの取り巻き達。
「うわー、肉食虹色蜥蜴だあっ」
「喰われる~!」
七色に輝く蜥蜴に遊ばれてしまっている無様な護衛どもを横目で睨み、それでもまだ好戦的な表情を崩さないアリエッタ。
「おのれ、もう少しで王家の連中を押し切れたものを。この貧乳めが」
「大きな御世話よ。でも、どうかしらね。国王陛下は頭のよいお方。お前達の暴虐な振る舞いなど、とっくにお見通しよ。すでに打てるだけの手は打ってあるでしょうに。それに最後に吐いた致命傷なワードで、あなたの刑が決まりましたわ。死刑決定!」
女同士で胸の大小について公衆の面前で非難めいて言及する時は『相手に殺されても構わない時』、つまり純粋な戦闘力で相手を上回っているのを確認する作業がいるのですが、そこに気がついていないのはやはり胸の大きさに起因しているものなのでしょうか。
「胸の大きい女性は頭が悪い」というのは、その方が都合いい男の願望が作り上げた幻想だと思っておりますが、今日だけはその俗説を信じてもいい気分です。




