1-41 出発
「では、ヌーキ男爵、あのババロア商会の姉弟の事は頼みましたよ」
「わかりもうした。この私が彼らの後見人になりましょうぞ。彼らの御両親の件は気の毒ではあったが、私が直接それに関わったわけではないのでな。
彼らも遺恨に思ってそれを嫌がるような事もありますまいて。まあ間接的には責任がないわけではないのだが」
「わかっているわ。その件でのあなたの責任は一切問いませんので」
「では、そういう形で取り計らいましょう」
「ここにいる間に彼らとの顔繋ぎをやってしまいたいわね。いきなり領主様に呼び付けられたら驚くでしょうから」
こうして、ここでのエロマンガ商会の活動は叩き潰し、またエロマンガ商会にも詳しい手駒となってくれる優秀な人物を一人増やしたのです。
そして、騎士団と別れてプリンとプディンの姉弟のところへと戻りました。
「マリーさん、何かバタバタしていたみたいですね」
「あなた達にも少しバタバタしてもらうわよ」
「え、それはどういう事ですか」
「このタ・ヌーキの街にいるエロマンガ商会は叩き潰し、エロマンガ商会と組んでいた領主のヌーキ男爵はこちら側に寝返らせたわ。もう、あなた達のように悲しい思いをする人達もいなくなるでしょう。
それで領主様があなた方の後見人になってくださるそうだから、顔合わせに行くわ。一番い服に着替えてちょうだい」
「ええっ、何ですか、それは。行くって、今から!?」
彼女はひどく驚いた様子であったが、聡明な弟は姉の裾を引いた。
「お姉ちゃん。今はマリーさんのお蔭で商売もできているけれど、自分達の店は惨憺たる有様だよ。二人だけでなんとか軌道に乗せるなんて無理なんだ。
僕ら、まだ子供なんだし信用なんかまるでない。元々零細なお店だったんだから。領主様の後ろ盾は、それだけで信用になるんだ。だからマリーさんがわざわざ頼んでくれたんだから。行かなくちゃ!」
「そうそう、いきなりご領主様と会うなんて嫌でしょ」
「あ、ああ、うん。そうなんだけど。ひゃあ、いい服って言ってもなア」
やれやれ。商人なのだから、いい服の一つくらい持っていないと。まあ、プリンは商売品の服の見立てすらうまくできない人なんだしね。
仕方がないので、私の収納の中から着れそうな物を見繕って進呈しました。プディン君の分はシナモンの服がピッタリでしたので、それで。
プリンのお化粧はシナモンがやってくれます。私がやる気のない時には不精してシナモンにやらせていますので。
地球風の化粧をね。彼は、この世界で唯一の日本風メイキャッパーでもあるのです。
そして男爵の屋敷へ行きましたが、緊張しまくって、しどろもどろな感じのプリンに代わってプディン君がご挨拶です。
「この度は男爵様が我々姉弟の後見人になってくださるとの事で、感謝と感激の念に堪えません。まだまだ若輩者にございますが、一層の精進をしていく所存でありますゆえ、今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」
その年に似合わぬ立派な口上に、男爵も思わず顔を綻ばせ、こちらに目線をくれたので目でこう言っておきました。
『ええ、この子が跡継ぎとして、ババロア商会の責任者を務めます』
彼も、頷いてこう言ってくれた。
「そうか、頑張りなさい。まだ幼い身で大変だろうが、お前が責任者として切り盛りしなさい。姉もたくさん助けてくれるだろうから。何かあれば、いつでも私のところへ来なさい」
「ありがとうございます、ご領主様」
恭しく子供離れした深い礼をするプディンを見て、プリンも慌てて頭を下げています。
それから領主館をお暇して、二人の家へ行き、商売の話を少し詰めた。
「これ、私の顔の利く商会や、生産者なんかのリスト。あと、あれこれ役に立ちそうな関係者のリストを載せておいたわ。何かあったら彼らを頼りなさい。私の名前を出せば話は聞いてくれるはずよ。男爵を通してもいいわよ」
プディン君はじっと、そのノートに書かれている私の名前を見ていました。
「マリー・ミルフィーユ・エクレーア。わあ、凄いな。マリーって、お姫様だったんだね」
「え、ええっ」
ま、まあ冒険者のような格好ばかりしていましたからね。
「まあね」
もしかしたら、この子は賢いので私の二つ名も知っているのではないかと思いましたが、それは知らないというスタンスを貫くようです。
この聡さを見れば、安心して私も旅立てます。ちょっと冷や汗が幾筋か背中を伝っていますがね。シナモン、そこで笑いを噛み殺さないの。
それから私達は彼らと名残りを惜しんでから、再び旅に出る事にしました。お伴はロバのロシナンテと虹色蜥蜴のマルークです。
このクロコダイル野郎を連れていると、あれこれトラブルを起こしそうな気もしますが、シナモンが手放すわけがないですしね。
一応は従魔証もございますので、なんとかなるのではないでしょうか。それでは再び、世直し旅に出発です。




