1-39 エロマンガ商会襲撃
ゴロツキ連中の証言から、この街のエロマンガ家の悪事がSSL2ばりの信頼性を持つ絶対供述書という形で騎士団の手に、そして王国に渡りました。
シナモンったら本当に楽しそうに尋問をやっていましたね。それらを元に、いよいよこの街のエロマンガ商会へと殴り込みです。
彼らと領主との関係を明らかにできる証拠さえあれば、今度は領主を締め上げる事も可能です。作戦決行は今夜、夕闇に紛れて奴らを捕縛します。
全員が黒装束で、何だかスパイ映画の登場人物にでもなったような有様です。かくいう私も一応は、あのハトリがよく着込んでいる、まるで忍者のような真っ黒な、下がズボンタイプのツーピースの格好です。
シナモンが非常に張り切っておりまして、その様子があまりに可愛らしかったので頭の上に可愛く葉っぱを載せてあげました。
「ねえ、これなあに」
「ふふ。今度、日本の昔話に出てくるタヌキさんのお話をしてあげるわ。あのタヌキ領主を片付けてからね」
「ふうん」
シナモンはよくわかっていないようでしたが、少し楽しみにしておく事にしたようです。
タヌキが人に化けるなんて、一体どこから湧いた妄想なのでしょうね。昔の日本人も激しく妄想逞しかったようです。
須佐之男命と八岐大蛇の物語なんて凄いですわよね。魔物を倒すと『ドロップアイテム』として武器そのものが手に入るなんて。そんなうまい話は、この異世界でも無いものを。
素材はドロップというか、魔物の死体から抉り出せるのですけど、それでもシナモンのようにスマートに解体できる魔法が無かったりしたら悲惨な事になります。
特に大きな大きな魔物さんなんかですと更に大変ですねえ。収納もない奴がそのような物に手を出すなよとか思う訳なのですが。
虹色蜥蜴のくせに、マルークはピタっと地面に這い蹲って、まるでカメレオンのように地面の色に同化し完全に気配を殺しています。
やだわ、こいつにそのような特技があっただなんて。まるで天性の殺し屋ですわね。肉食系の生き物なんてそんなものなのかもしれませんが。
狼だって生きる環境に毛色を合わせてますからね。器用な生き物だと、季節毎に毛の色を生え変わらせていたりするのじゃないかしら。
シナモンは同じように、ドヴェルグの親方謹製のカメレオンスーツを身に纏い、マルークの隣に這い蹲っています。
別に彼はそのような真似をしなくても隠密系の魔法で十分過ぎるほど気配を消せるのですが、まあ彼にとっては大切な仲間であるマルークと一緒の御遊びなので仕方がないですわね。
こう見えて、私は男の子という物に対しては非常に理解があるつもりです。きっと、いい母親になれると思うのでありますが、その父親になるだろう人物について思いを巡らすと、微妙に殺意が湧いたりしますね。
アレ、本当にどうしてくれようかしら。土下座の一つや二つくらいでは絶対に許しません事よ。ええ、マジで絶対に許しませんから。
今から三角木馬でも発注しておこうかしらね。ギザギザな波型になっている石版でもよろしくてよ。あの江戸時代に縄で縛った咎人を座らせる奴です。
そんな荒ぶった公爵令嬢の気を静めようと思ったものか、ロシナンテが鼻面を寄せて甘えてきます。はっきり言ってこの子は、ここにいる必要はまったくないのですが。
もちろん、こいつを連れてきたのはシナモンなんですが、なんというか、ささくれ立った気持ちの私に対する従者としての気配りだったのでしょうか。
ロシナンテも、もう執拗に甘えてきます。こいつは……明らかにティムされていますね。迂闊にも今まで気がつきませんでしたが、今日ははっきりとわかります。
こんな物をティムして、シナモンもどうしようというのか。でも、お気に入りの子なんですから仕方がありませんわね。
「わかった、わかった。それ以上やられるとロバ臭くなって、私が敵に感づかれるわ。しょうがないわね。お前も私達の大切な仲間なんだから、マリー一家としての重要な任務を与えます。いいですか?」
そして、私は再び『王様の耳はロバの耳』的な感じに、彼の耳に囁くように指令を伝えました。
すると驚愕し、そして感激し、歓喜した彼は興奮のあまり、私の指令を今すぐ実行しようといたしましたので、止むを得ず両腕で拘束し、ぎりぎりと首を締め付けながら低い声で囁きました。
「いい事、ロシナンテ。ここはお茶目していいシーンじゃないんだから。タイミングが重要なのよ。わかった?」
彼がコクコクと頷くので、解放してやり、更に命じた。
「私が合図したら、『溜め』に入るのよ?」
彼は音を出さないように嘶き、大きく一回頷いた。私は思いっきり、彼の頭をもしゃもしゃして、そして待った。
待ちました。ロシナンテの奴は寝てしまっています。待たせるわねえ、あの連中は。せっかく、ロバに対してまで本来なら不要な作戦を授けたというのに、全部無駄になったではありませんか。
だが、索敵していたシナモンから伝声の魔法が入りました。
「真理姉、連中が見張りも含めて全員眠りこけてるよ。行くなら今」
「じゃあ、行くわね」
私は騎士団に合図を送り、突撃させました。
といっても、特殊部隊が乗り込むような感じにハンドサインで連絡しながら乗り込んでいくのです。
そして、捕縛劇が開始されました。どったんばったんと大捕り物が進められていましたが、やがて静かになり捕縛された連中が次々と姿を現します。
逃げ出した奴もいたのですが、見事に大蜥蜴の前足で踏まれて恐怖に震えています。シナモンは騎士団に先駆けて乗り込み、起きた奴らを昏倒させ、さらに逃げ出した奴をマルークと連携して捕まえます。
すると、私の服の裾を引く者がいます。ようやく起きましたか。では締めとして最後の花を咲かせるといたしましょう。
「じゃあ、やってちょうだい!」
私にそう言われて、彼は思いっきり溜めに入り、それを連呼してくれました。
「オバーカ、オバーカ、オバーカ」
「うわははははは、とうとう捕まえてやったぜ~。エロマンガ家め、ざまあああああ」
ああ、すっとしたー。久しぶりの日本語罵倒コンボでスッキリでしたわ。騎士団は私が何を叫んでいるのかよくわからないし、シナモンは呆れ返っていました。
ロシナンテは、ご褒美として私が手ずから与えたリンゴに夢中です。よくやりました。それでこそ、マリー一家の立派な足の一員であるといえましょう。ぶい!




