1-38 反撃の狼煙
シナモンのスコポラミン魔法を決められて、涎を垂らしながら「ヒヒヒヒ」とか妙な笑いを漏らしている男達。
一見するとまるで廃人手前のヤク中なのでありますが、あれでいて、少し時間を置くと完全に正気に返り、しかも自分が吐いた内容はちゃんと覚えていますからね。
それから全員が真っ青になるという寸法です。本当にえげつない。
その供述を元に、私が絶対供述書を作成いたしますので、その時点でこの連中の判決は下ったも同然です。
騎士団も無条件で引き渡しを受けてくれますし、今回などは【冒険者ギルドからの依頼の書面】なるものも存在していますので完璧です。
二人ともSランクの冒険者ですしね。ああ、あの試験は最初からやり直したいわ。
Sランクよりも手強い魔物ってどこにいるのかしら。少なくとも、戦う前から私にビビって逃げ隠れしない奴が。
彼らを領主配下の衛兵ではなく、王国の騎士団出張所に突き出し、証拠も提出しました。
彼らも事情はわかっているらしくて、私の冒険者証を見て苦笑していました。本来であるならば彼らの仕事ですものね。
自国の公爵令嬢筆頭、しかも王女がいないため王女代わりを務めていたこの私が、Sランク冒険者資格まで持ち出して、騎士団も手を出しにくいような悪党を捕縛してきたのですから。
王国に仕える忠義者を中心に構成された者である彼らは、比較的実利とは距離を取った関係にあり、まあまあ信用できます。
それに私の事を裏切ったらどうなるのか、彼らも知らないわけではありますまい。我が家には『超姫』『超人』『超獣』が揃っておりますゆえ。
あれ、こうして並べてみると、私だけが人ではなく獣のような!? 今日までまったく気がつきませんでした。不覚ですね。どうせなら、もっといい二つ名が欲しい!
さて、悪行の証拠もバッチリと押さえた事ですし、順々に攻めていきましょうかね。もうシナモンがわくわくしたまま待機モードです。
まるでストリートチルドレン時代に戻ってしまったかのような腕白ぶりです。帰ったら少し躾け直した方がいいのかもしれません。
もう大きくなったのですから大丈夫じゃないかと思うのですが。猫の被り方だけなら身を持って十分に教えましたしね。
そして向かう先は『ゴロツキの溜まり場』です。つまり、数々の不審死を引き起こした実行犯の取り押さえです。
私の絶対供述書に基づき、騎士団を王都から呼び寄せました。私は、この国の王女扱いでございますので、騎士団ともそれなりに懇意にしております。
割と一緒に訓練をする形でのコミュニケーションをとる事が多かったのではありますが。それもまたよし。
私って、この国では『最強の軍事力扱い』でもありますので。武門の公爵家なんて、そのようなものです。
という事は、もしマンジール王国が攻めてきたら『やってしまってもいい』という事になるのですかね。あの連中わかっているのかしら。
まあ一人で戦争はできませんが。そのうちに、親方に『超大型の扉』でも作らせて、シナモンに大型魔物をティムさせて、大量に連れてこさせるのも悪くない考えではないかと思いますね。
まさに超獣軍団ですわ。別にこちらからマンジール王国へ攻めてはいけないなどという考えは特にない世界でありますので。
連中の溜まり場は、いかにも場末の酒場といった感じで、夕方で太陽の恵みも乏しくなってきた時間なのですが、灯り一つ点けず、そうであるにも関わらず人の気配は却って多くなっているほどです。
「どうするのー?」
「まあお前の活躍で供述はとったしね、こいつらは全部あげるわ。遊んでよろしい」
「ほんとう~」
銀髪まで輝かんばかりの歓喜をオレンジの瞳に湛える、うちの腕白ちゃん。可愛いったらありゃあしないわ。
「ええ、ご褒美よ。その代わり、ここの建物はなるべく原形を留めておいてちょうだい。後で王国が調査すると思うから。その辺はやり過ぎると、こっちにも火の粉が飛んでくるから注意してちょうだい」
「はーい」
期待していなかった思わぬご褒美がいただけたので超御機嫌な小僧。
いつものやる気がないような半分死んだ返事ではありません。全身に気合が満ちているようです。
「よおし、やるよ、マルーク」
「キュウイ」
そして『子供の御遊び』が始まったのです。まず、霧のように魔力の網のような物を建物に流し込んでいくようです。
どうせ、ただの魔力霧ではなくて、えげつないような魔法の仕込みなのでしょう。魔法天才少年のお手並み拝見といきますか。
たっぷりと該当区画に豪快に魔力を流し込むようにして染み込ませた魔法に向かって、小僧が秒読みしています。
「十、九……」
私もちょっと楽しみです。おや、異変を察知したのでしょうか、中が少し騒がしいようです。
すると、凄い顔中が髭面の少々不潔そうな男が、物凄く体を引き摺るような感じで出てきました。
なんていうのでしょうか。地球の映画に登場してくるような縞々の囚人服を着て、昔の漫画に登場するような鎖で繋いだ大きな鉄の玉を引き摺っているかのような動きです。
「うおおお、貴様ら。一体何をしやがったあ。なんだ、こりゃあ。うお、王国騎士団だと。そんな馬鹿な。アリエッタ様は何をやっているのだ」
あらまあ、あいつめ、そんな工作をやる予定だったの。さてはスフレを当てにしていたのね。残念ながら、あいつにはそんな事はできないのよ。
国王陛下も、とりあえず私が騎士団を掌握していればいいくらいに思っていらっしゃるもの。それにしてもアリエッタの奴、あちこちと繋がっているのねえ。一体、何者なんだろう。
まあ、その辺の話も聞かせてもらいたいものだけれど。この前シナモンが尋問した連中も下っ端で、アリエッタの事を崇拝してはいたけれど、さほど情報は持っていなかったし。まあ、ここの本拠地が割れただけでも大変有意義だったわ。
そして魔法で連中の捕縛に成功したらしい、シナモンのドヤ顔が非常に眩しいわ。
「今日は、どんな魔法にしたの?」
「んー? 前にマリーが言っていた奴だよ。ほら、『G』を捕まえる、べとべとした奴」
あっはっはっは。あれの魔法でしたか。うーん、這い出てきた奴を褒めてやりたいくらいね。普通は無理だと思うのだけれど。
限界いっぱいで扉の中から出てはこれないものだから、入り口で唸っている髭面がいました。
「でも、これだけじゃないんでしょう?」
「うん、あの魔力霧床に降着してから、足元で五十センチくらいまで粘着して、半接着剤になるの。完全に固まらない粘着物質だから力じゃ振り切れないようになっていてさ。そして」
シナモンはある呪文を唱え、中からは凄い数の悲鳴が聞こえてきました。扉口で這い蹲ってしまっていた男も飛び上がらんばかりの反応です。
だが足元を拘束されていて飛び上がれないので、体を引きつらせて仰け反り、そして完全に白目を剝いて口から泡を吹いて失神しました。
「今のってサンダーよね。シナモンにしては珍しく弱い魔法を使ったわね。でも威力は高いわ」
「えへへへー、あれはマリーが言うところの『電気伝導性の高い』魔法物質に魔法錬金したものなのさ。ビリビリビリビリ~」
あらまあ、楽しそうだ事。そして、騎士団が連中を引きずり出しに入ったため、その後のもう一つの楽しみも待っているシナモンなのですからね。




