1-37 狩りの時間
おっさん達が酔いつぶれて、自然消滅的に宴会がお開きになったので、私達は退散する事にしました。
おやおや、冒険者ギルドを出たところで、もうおでましですか。ご精が出ますね、お疲れ様です。
私の可愛い従者など、索敵には大層自信ありなので、うずうずしているご様子で訊いてきます。
「ねえマリー、どうするの?」
「知れた事。放っておきなさい。襲ってきたら倒してもいいわよ。なるべく、うちらの有利な条件にしましょう。ちゃんと商会近辺まで来ていただかないと。途中で実力行使されたなら十分な理由になりますけどね」
お預けを食らってしまったので、早く襲ってこい、早く襲ってこいと一心に念を送っている小僧を尻目に、あっという間にババロア商会まで着いてしまいました。
何しろ、ほんの百メートルくらいの、ほんのご近所さんですので。マルークは冒険者ギルドに置いてきてあります。あんな物がいたら、なかなか襲ってきていただけないではないですか。
魔物の御世話係さんが可愛い子だったので、あいつもデレていたようだし。あの子の餌代は、今回のシナモンの御土産で十分に賄えるようです。
うちの従者は自分のペットの餌代を、ちゃんと自分で稼いでくる偉い子のようでした。魔物の尻尾肉はそのまま食べられそうですしね。
あれはまたそのうちに生えてきますし。ドラゴンの尻尾は大きいので、マルークも食べ甲斐がありそうです。
でかい鰐を一頭養うのに必要なお肉代とか、地球の基準で考えると頭が痛くなりそうですが、まあうちは家も広いし、お金持ちなので大丈夫ですが。
お肉などは入用ならダンジョンで狩ってくればよいのだし。
ハッ、いけない。いつの間にか、アレを王宮で飼う前提で思考が進んでいますね。
どうも、男の子が拾ってくるペットは、お母さん的に受けが悪そうな物が多いので困ります。うちの親の場合はどうなのでしょうかね。
あの人が王宮内の通路で大型肉食蜥蜴を乗り回すような酷い事になっていなければいいのですが。
そんな話が十分ありうるから困るのです。しかも、カップルで乗り回して歳に似合わない甘過ぎるストロベリートークを撒き散らし、王宮内のあちこちで反吐を吐かせるなどという暴挙までありえますのでね。
プリン達が中へ入って落ち着いたので、奴らも全身守備を取っています。さて、いよいよ私も自分の母親の二つ名である『プリティ・マンハンター』を襲名すべく、人狩り稼業に精を出す事といたしましょうか。
シナモンと来た日には、さっきからもう、そわそわしちゃって可愛らしい事。いつもこうだといいのにと思わず思うのでありますが、王宮で毎日人狩りなどさせるわけにはいきませんしね。
「ねえ、マリー。もういいのかな」
「ええ、いいわよ。ただし全員逃がさないように、そっと目立たないように一人ずつね」
「わかったよ。わあ、楽しいなあ」
そして、部屋の中からそっと気配を消して、ドアの開閉音まで魔法で包みとり、彼は消え失せたかのように私にも存在をキャッチできなくなりました。
あれ、体温まで消しているから蛇のようにサーモセンサーを装備した魔物すらやり過ごせるんですよね。
たとえ赤外線センサーを装備した攻撃ヘリが彼を捜しても見つからないですし、その後で通り過ぎた時に追尾性のある誘導フレアの魔法か何かを食らってお終いです。
レーダーを攪乱するチャフや、地球製の防御兵器であるところの対赤外線追尾ミサイル用のフレアを放っても何の役にも立ちません。
ちなみに私は、あの地球製フレアの描く美しい軌跡が結構好きです。この世界のフレアの魔法の炸裂もまた、うっとりするような代物ですがね。
その魔法に金属粉など混ぜて、変則的な花火を打ち上げる研究もしています。これがなかなか難しくて花火の再現は厳しいです。地球の花火職人さん達を尊敬しますわ。
などと益体もない事を考えているうちに、シナモンが奴らを見事に刈り取って帰ってきたようです。
「あら、早かったわね、偉い偉い」
ちゃんと言い付けが守れた子供は、きちんと褒めてやりませんとね。子供は褒めて育てる派なのです。
「えへへー、じゃあお楽しみタイムにいく?」
「もちろんよ」
すると、シナモンは奴らの頬をペシペシと叩きながら言いました。
「やい、てめえら。起きろっ。尋問の時間だぜ」
なかなか厳しい台詞であるのですが、声が可愛らしいので、思わずその可愛らしさに萌えますね。
うちの母を見ていた、ここのおっさん達もそういう気持ちだったのでしょうか。
意識を取り戻して悪態を吐いている、エロマンガ家に雇われたらしいそいつらに名乗りを上げます。
「超獣マリーこと、私の事は知っているわよね。さあいろいろと吐いてもらおうかしら。なるべく手間は省きたいのよ」
えー、今更それはないでしょうという顔でこっちを見ているシナモンを手で制し、そいつらに考えさせます。しかし、考える事すらせずに、奴らは憎々し気に吐き散らしました。
「ほざけ、王太子の手綱一つまともに取れぬ小娘が。この国など、大人しく我らがアリエッタ様に治められばそれでよいのだ」
アリエッタめ、なかなか崇拝されているではないですか。私は驚くと共に、少し疑問に思いました。
何故、あのような小娘がこうも崇拝されているものなのか。何か特別な血筋とかなのでしょうか。あるいは特殊な立ち位置だとか。何かの巫女だとかね。
「シナモン、取り調べを」
「はあーい」
まあいいお返事だこと。その天真爛漫さに、ついつい頬が緩んでしまいますね。もっとも、その尋問はえげつなく、王宮からも仕事を依頼されるほどのものなのですがね。




