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1-29 冒険者ギルド

 その建物は街中の殆ど木でできている建物とは違い、重厚な石造りの建物で、灰色の石材の重みがそのまま威容を誇っているかのような圧力を放ってきています。


「へえ、これが冒険者ギルドか。やっぱり物々しいわね~」


 初めて拝む、その荒ぶった響きの何か。


 何かこう眠れる超獣マリーが、封印しておいた深淵の奥底から猛りながら目覚めようとしているかのような、そのような前兆を感じるような、感じないような。


 あー、すいません、ちょっと年甲斐もなく、わくわくしてしまいました。


 何せ、私の前に座って、虹色に輝く街中では物凄く目立つ大蜥蜴さんの上で大興奮している小学生相応の少年がいたもので。


 前世でも、こういう事はあったのです。小学生の弟の興奮に女子高生が巻き込まれる感覚。ちょと痛いですかね。


 まあ夏休みともなると浮かれてしまう事もあるもので。父兄同伴でないと入れない、テレビ番組のイベント参加の付き添いで、一緒についていってあげただけだったのですが。


 両親がどちらも都合が付かなかったものですから。ところがどっこい、こちらまで結構童心に帰ってしまって、これがまたなかなか楽しくってねえ。


 騒いでいる『大きい子』はわたし一人だったので、係の人や周りのお母さん方に思いっきり笑われてしまいました。ああ、蘇る『生前の』黒歴史。


「ねえ、真理。凄いよ。冒険者ギルドだよ、うひょー、すんげえ」

 もうシナモンったら。これでは私の前世の弟、尾田万里夜を思い出してしまいます。


 読み方は「おだまさや」と読むのですが、友達からは「おだまりよ」と呼ばれてました。


 うちの両親って狙って名前つけてますよね。それが祟って、今のようにおかしな名前の溢れる世界に転生したのではないでしょうか。


 でも弟は、私の場合よりもマシじゃないでしょうか。尾田真理はどう見ても「おだまり」にしか読めないものね。


 あの子も、こういう物は凄くはしゃぐタイプで。一度サファリパークでアムールトラが車に寄ってきた事があって、あの時はもう言葉を離せないくらい大興奮でしたね。


 こっちは生きた心地がしませんでしたが。あの黄色と黒に彩られた、体重百六十キロほどあった大きな猫は、お父さんの車に、しっかりと爪痕をプレゼントしてくれていましたし。


 あの子に本気を出されていたら、あの時に一家そろって転生させられていましたね。あの軽微な被害状況は、どうみてもじゃれていただけとしか思えません。


 でもあれは買ったばかりの新車だったのでお父さんは泣いていたのですが、お父さんが車を直そうとすると、今度は弟が泣いて止めていました。


「こんな素敵な傷跡を消してしまうなんて~」と。


 はっきり言って男の子って馬鹿です。でも今なら、ちょっとだけ彼の気持ちがわかるような気がいたします。


 もし死んだお姉ちゃんが、生まれ変わった先の異世界でこんな楽しい事をしているのを知ったら、あの子はきっと思い切り泣き喚くでしょう。


「お姉ちゃん、ズルーイ」と。


 はっ、その台詞は今生に縁の有った実の弟からも言われていますね。こういうのもカルマというのでしょうか。


 まあ、それはそうとして、いざ冒険者ギルドです。しかし、それにしても入り口が狭い。どうやって従魔証をいただきに参上したらいいのか。


 なのですが、そこで太い声がかかりました。なんといいますか、太いとしか言いようのない声でした。よく見たら、頭がつるつるで、ごつい顔立ちと体を持ったおっさんが横に立っていました。


「お前ら、そんな入り口で何をやっているんだ。そこは人間専用の入り口だ。


 また街中で、馬鹿でかい奴を連れてきおってからに。魔物の通る道は、そこの横手から裏に回るのだ。受付の看板が出ているからな」


「あー、どうしようか」

「じゃあ、僕が先にマルークを連れていくから、事務手続き全般をお願い。後で交代しよう」


「じゃあ、そうするわね」

 私は先にマルークから降り立つと冒険者ギルドへと入館した。


「ふふ。定番の儀式とかあるのかしらね。何人くらいでかかってきていただけるのかしら」


 ほら、よくあるじゃないの。入ってすぐ冒険者志望の余所者とか新人なんかが冒険者に絡まれる奴。


 だけれど中へ入ったら、そこは何というのか、あー何かこうイメージと違うというか、私の期待を裏切るような物でした。


「これはまた」

 何と言ったらいいのだろう。


 そこにいたのはマッチョな冒険者とかではなく、またやさぐれたアウトローのような人々でもなく、なにかこう商業ギルドの雰囲気というか、一番近い雰囲気を表すとしたならば。


『宅急便関係』のイメージ?


 そこで並んでいる人達は、事務と作業と半々といった感じの服装で、ベルトに吊るした革の鞄に突っ込まれた伝票の挟まったボード。


 そういう物を取り出して、真剣な表情で数字や書式を確認している人々が大勢いた。


「あ……れ」

 なんでしょう。気が抜けたというか、状況を把握できていないというのか。


 そんな私に忙しそうにしているギルド職員らしき方が声をかけてくれる。


「あー、あなた。本日の要件は? 早めに窓口が閉まる事もあるから早く並んでください。関係書類は用意してきてくれていますか?」


「あ、いえ、まだです」

「駄目だな。要件は何」

 こ、これは~。


「あのう、従魔登録一匹と冒険者登録二名です。あ、私は成人ですけれど一名はまだ十二歳なのですが」


「あらー、未成年なんですかあ。あなたは成年ですか? その子の保証人になれますか? 万が一の場合には賠償責任が発生する場合もありえますが」


「あ、大丈夫です。私の従者の子なので。うち、公爵家ですので」

「公爵家の女性が冒険者登録を?」


 驚いた職員が思わず、マジマジと私の顔を覗き込んできた。


「え、と。こ、この国のエクレーア公爵家、なのですが何かまずかったでしょうか」

 すると、職員さんは目を丸くして大声で叫んだ。


「おーい、みんな! あの超獣マリーが冒険者登録したいんだってさあ」

「なんだと⁉」


「そうかあ、そいつは面白いなあ」

「おい、試験しろ、試験」

「こりゃあいいや」


 えー、なんなんですの~。試験? あのう、冒険者登録をしていただけるのではなかったのですか?


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