1-27 商談成立
「それで要件の方は?」
「うん。今日は商業ギルドの方で扱って欲しい品物があって」
「ええ、自分の店で扱わないのかい」
「その方がいいってマリーお姉ちゃんが」
彼は私の方を、しばしじっと見つめてから口を開いた。
「この商品はあなたの持ち込んだ案件なのですか?」
「ええ、まずは商品を見ていただきましょうか」
「見させていただきましょう。ああ、私はフルーツ・ゼリーです」
まあ美味しそうな名前ですこと。ゼリーは苗字だったのですね。そして、彼に例の商品を一つ渡しました。
「これは……何です?」
まあ初めて目にする商品でしょうからね。
私は黙って自分が持っている物の封を、やり方がよくわかるように彼に見せながら切りました。そして中身を食べてみせました。
「これは」
「携行食料ですわ。冒険者や商人などを対象としています。この外装は魔法でできており、状態保存の魔法がかけられているため、封を切らない状態であれば大変長い間、日持ちします。
またこちらの外装は魔法でできておりますので、封を切ったら後は時間が立てば分解して消えてなくなりますのでゴミにはなりません」
「なんと」
そして、私は他の種類の味の物を並べていきます。
「定番の味をとりあえず十種類ほど用意してあります。不人気の商品は別の種類に変えてやればいいと思います。定期的に違う味の商品を入れ替えしてもいいですしね」
「あなたは一体何者です。このたいした事のない街の商業ギルドに、このような物をいきなり持ち込まれるとは」
うーん、仕方がないかな。別に隠しているわけでもないし、ちゃんと理由を話しておかないと信用してくれないでしょうから。
「私はマリー・ミルフィーユ・エクレーア」
彼はいかにも合点がいったという感じに頷いてくれました。
ここはまだ王都に近い町ですし、商業系であれば我がエクレーア公爵家が、この手の物を出しているのはよく知っているでしょうから。
「ふむ、それでギルドへの引き取りのお値段は」
「そうね。プディン、いくらで売る? ババロア商会の跡取り息子であるあなたが決めなさい。あなたのお仕事よ」
これには驚いた顔をするゼリー氏。この小さな少年を商会の跡継ぎ扱いかと。普通なら姉を取り引き相手に指名するはずなのですから。
「そうだなあ。卸値は安くしてもらっていますから、この値段でいかがでしょうか」
少年の示した値段を見て再び驚くゼリー氏。
「いくらなんでも安すぎないかね」
「いえ、食べてしまえば無くなってしまう食料ですので、値段は安くしておいて繰り返しご購入していただければよいかと。
最初はよくわからない物を高い値段で買ってはくれないでしょうし。味の種類も多いので、好みの異なる多くの人からのリピートも望めますから。
あまり欲張っても新しい商売はなかなかうまくいきません。うちは姉と二人で食べていければそれでいいですから」
それを聞いて考え込むゼリー氏。それから、私の方へ向き直って問い質します。
「あなたは何故このような価格で彼らと取引を? これで採算が合うのですか?」
「ふっ。だって、この方達はエロマンガ商会の被害者の方なのですから。私の王宮での噂はもうご存知ですよね」
それを聞いてなるほどと合点がいった感じのゼリー氏は重い口調でこう切り出した。
「その子達の御両親もそうですが、この街の多くの商人が酷い目に遭わされています。連中はこの街を商会の拠点にしようと考えているのでしょう。すべての商会を傘下に収めようとして、逆らう者は情け容赦なく片付けてしまいます」
「ここのご領主はなんと?」
「それはまあ、この国の慣習に従いまして……その」
はい、実に歯切れの悪いお答えが返ってきましたね。またですかあ~~。この場で大声出して叫びたい衝動をかろうじて抑えながら、私は立ち上がりました。
「シナモン、次のターゲットが決まったようね。あの連中に、こんな王都の喉笛のようなところに拠点なんか作らせて堪るものですか。
それではゼリーさん。この値段での取引でよろしいのであれば、在庫を置いていきますので倉庫に案内してください。そして彼らにお金を払ってください。
ちなみにこの値段でも採算は合いますよ。機械で大量生産しておりますのでね」
機械で大量生産という意味がよく理解できていないようなゼリー氏。ふふふ、生産ラインという考えがよくわかっておられないようです。
まあそれは別にいいのですがね。とりあえず、この両親をエロマンガ商会に奪われた子供達の方はなんとかなりそうですから。これで私の公爵家の人間としての面目は立ったと見做します。
次は悪徳領主を攻めるお時間なのです。前の代官とは異なり、今回は領主ですから気合を入れていかねばなりません。
階級は男爵で、名前はフル・タ・ヌーキだそうで。もう、名前からしてベッタベタですわね。いっそ狸汁にでもしてしまいましょうか⁉




