1-22 キャラバン隊は行く
今、うちの馬車はプディン君が操縦してくれています。真ん中にはお姉さんが自分の馬車を駆っています。
そして、うちの小坊主はどこにいるかというと、先頭を蜥蜴に跨って大変御機嫌そうにしております。元々野生児でありましたのでねえ。
野生児というよりはストリートチルドレンだったのですが。恥ずかしながら、我が王国でもこういう子をゼロにはできないのであります。
まあ、そのあたりはあれこれありましてね。日本のようなわけにはいきません。そのうちにはなんとかしたいと思っているのですが。
プディン君は蜥蜴を乗り回すシナモンをちょっと羨ましそうにしているようです。まあ男の子なのですからね。
お姉さんの方は目の前を巨大な怪物が歩いていますので、まだちょっとドキドキしているみたいですが。
まあ、日本だって超巨大な七メートルを大幅に越える巨大クロコダイルが街中で自分の軽自動車の前をのしのしと歩いていたらドキドキしますわね。
クロコダイルの尻尾って、まるで怪獣のように、いえ昔の肉食恐竜か何かのように凶悪なデザインですから。
あれであの小坊主め、手綱も無しに初めて乗る乗物で、ちゃんと馬車の巡航速度に合わせて蜥蜴を御しているのですから、実にたいしたものです。
非常に変則的なキャラバン隊なのですが、戦闘力のないお姉さんを真ん中にして守る布陣なので理には適っています。
私だけはサボっていますが、一応は後方警戒の役を寝っ転がったまま拝命しておるところです。臨時の御者には時折おやつなどを与えながら。
前方からは、いつものようにシナモンの歌声が聞こえてきます。
「荒野の街道を僕らはゆくよ。虹色の蜥蜴、緑色の蛙、世界は不思議でいっぱいさ、ララララ」
どうも、この旅ですっかりシナモンの中の野生というか、男の子の部分が目覚めてしまったようです。
うちの超獣マリーは、あの代官のところ以来、どこかに引っ込んでしまっておるようなのですが。
まああれは仕舞っておかないと、新たな同行者となった幼気な蜥蜴さんが怯えてしまいますしね。
今でも素で怯えられているというのに。それもあって私は最後尾で転がっているのです。
街に着くころ、プリンが言ってくれました。
「本日はうちに泊まっていってください。粗末な家ですが、命の恩人には報いたいのです」
「そう、助かるわ。じゃあ、そうさせてもらおうかな」
あの、こまっしゃくれた小生意気なシナモンが、久々の同年代のお友達と出会って、ちょっとばかり年相応にはしゃいでいる雰囲気がありましたので。
はっきりとは表に出さないのですが、そこはかとなくわかるのです。まあそういう訳ですので御世話になる事にしました。
ですが、街の入り口におきまして、ちょっとばかり問題が生じたようです。
「おい、貴様ら。その蜥蜴はなんだ。明らかに肉食魔物ではないか。手綱がつけられているわけでもなし、従魔証が掲げられているわけでもない。そのような物を街に入れられるか!」
おやまあ、町の門番さんったら。実にもっともなご意見でございますわね。
国家に対して責任のある公爵家の人間といたしましては毛一筋も反論の余地がございません。
でもまあ、うちにはそういう物を拾いたがってしょうがない年頃の男の子がいてですね。そいつが大変ご不満な様子なので、私も門番さんに尋ねておきました。
「それで、その従魔証というのは、おいくらで、どこで売っているのですか?」
「馬鹿者、売っているわけがなかろう。冒険者ギルドの管轄だから、そこで登録料を払っていただくのだ」
「そうでしたか」
こう見えて、公爵家の箱入り娘でございますので、そういう市井のルールには疎いですわね。
元々この世界の住人ではなかった奴の魂の持ち主でございますし。そもそも、街道がこんなに危険な場所だなんて思いもしませんでした。
今までも王都周辺限定とはいえ、村まで行くのに結構街道などは通っておったのですが。
もっとも魔物なんかは、業腹な事に今までは私に恐れをなして逃げ隠れしていた可能性は否定できないのですが。
そのような事は、この旅に出るまで迂闊にも考察した事さえございません。思いつきませんよね、普通は。
一度、そのあたりの事情は専門家にお伺いしておいた方がいいのかもしれませんね。
「どうしたものかな~」
ここは公爵家の身分を嵩にきて、居丈高に乗り込むシーンでありましょうか。
あるいは腕ずくで。それをやると家の品格に傷がつきそうなのですが。
そうなると、家に帰還した際のお母様からのお説教が大変厳しいものになる可能性がありますので。あれにはちょっと、うんざりします。
少々のおいたは豪快に笑い飛ばして許してもらえるのですがねえ。本人も、そういうおいたは止まらないタイプの方ですので。
「なんだい、何を揉めているんだい?」
通りがかりの、いかにも『女将さん』然とした方が、声をかけてきます。
「あ、クランベリーさん」
門番どもが敬礼して対応しています。この方は一体。まさか、領主夫人かなにか?
その割には様ではなく「さん付け」なのですが。
「その蜥蜴がどうかしたのかい?」
「ああ、いや。無許可の大型肉食魔物を街に連れこもうとしていたもので」
「はっはっは。そりゃあ、豪儀な事だねえ。おい、坊主」
彼女は『鞍上』のシナモンを見上げながら声をかけました。
「なあにー」
「そいつはティムできているのかい?」
「そうでなかったら、こんな風にはしていられないよ。ねえ、マルーク」
「クエエエ」
可愛らしく鳴いて、そのクランベリーさんとやらに恭しく頭を下げるマルーク。
「はっは。躾は行き届いているじゃないか。通してやんな。だけど、街で暴れさせたりしないようにね。いいかい。そんな真似をしたら、うちの店でスープの具になってもらうよ。そいつ、なかなか美味そうじゃないか」
それを聞いて、マルークは少し身を縮めて震えあがりました。このおばさん、できる!
「はあ、あなたがそう仰るのであれば」
門番はそう言ってくれて、うちの御一行は無事に街に入れたのでした。
早めに、その従魔証というものを入手しなければなりませんね。ついでに、私達の冒険者証もいただきたいところです。それにしても、あのおばさんは何者!?




