1-21 お昼休みの一幕
「私達の家は零細な商人でした。以前は両親がやっていたのですが、二人とも死んでしまって」
何故か少しぎこちない説明のプリン。まあ御両親が亡くなってしまっていたら、そんなものかな。
「街まで帰るの?」
「ええ。でも馬が疲弊してしまって」
「ああ、それなら大丈夫だと思いますよ」
馬達の世話を男の子二人がしていました。
シナモンが疲労回復の魔法をかけているので時間と共にすぐに回復するはずです。
強力な作用で副作用を起こす事なく、漢方のように優しく体を労わるような回復魔法を使っています。
動物には大変に気を使う子なんですよね。それよりも喫緊の課題があります。
「私達も御飯にしませんか? もう、お腹ぺこぺこなの。あと、うちのロバを連れてこないと。うっかりと魔物が出る場所なのを忘れていたわ」
「あ、僕が取ってくるからマルークを見ていて」
私は慌てて、スカイボードを抱えて走って行こうとする小坊主を呼び止めました。
「あー、こらこらティムしたての魔物を放っていかないの。可哀想でしょ。私が行ってくるわ。それに、その子は私を怖がっているみたいだし。その間に御飯の支度をしておいてちょうだい、その人達の分もね」
今もシナモンに置いていかれそうなので、虹色蜥蜴ちゃんときたら、なんとさっきまで獲物として追いかけていたはずの小さなプディン君の背中に、あの図体で必死になって隠れようとしています。
しかも彼を挟んで私と対角線になる角度で。いやあ、参ったなあ。そんなに怖いかしら、私。
まあ『超獣マリー』と呼ばれるほどの人間なのだから仕方がないかもしれませんが、ちょっと傷つくなあ。
私はさっとスカイボードを取り出すと浮かせ、ひょいっと乗ってバランスを取るとロシナンテのいる場所まで一目散に飛びました。
魔法口笛で呼べば来てくれるのですが、途中で魔物に襲われてもなんですし。こんなに時間がかかるのだったら装具を解いてやっておけばよかった。
などと思っていたら、立ったままぐうぐうと食休みで寝ていました。本当にいい根性しています。さっき大きな魔物が通ったのは見ていたはずなのですが。
「起きて、ロシナンテ」
生憎と一向に起きる気配がありません。
もう、しょうがないですわね。私はそっと奴の耳元で秘密の呪文を囁きます。もちろん、「王様の耳はロバの耳~」とかではありません。
「向こうへ着いたら、もう少しご飯をあげるわよ」
その瞬間にパチっと目を開けて、私を置いて一人だけでさっさと行こうとしています。こやつは本当に……。私は馬車に飛び乗り藁の上に寝転がりました。
「急いでちょうだい。私もお腹が空いているの」
「バフウン」
なんか鼻息荒く、いつもに比べれば若干速足で進む馬車。もしかしたら本人は走っているつもりなのかもしれません。
向こうに着くと、この駄ロバめ、さっそく私の服の裾を噛んで必死で引っ張ります。
「はいはい、今あげますから放してちょうだいな」
そういう訳で、私とシナモンのアイテムボックスには、ロバの餌が大量に入っています。
餌と引き換えに釈放された私は、王都の鍛冶屋に頼んで特注で作らせた、釣りなんかに使う小型の折り畳みキャンプ椅子に腰かけました。
「はい、マリー」
こういう感じの時には、ただマリーと呼ばせるようにしています。
ロバ車に乗っている人間がマリー様なんて呼ばせるのは変ですし、真理モードでお話するのもなんですので。
「はい、お昼御飯」
シナモンが出してくれた物は、炙り立ての脂がじゅうじゅういっている骨付きチキンとパン、それにカップスープです。
スープは日本にあるような粉末のものとは違い、不格好な角砂糖のような形の固形タイプです。
フリーズドライ食品のようにスカスカで、すぐお湯に溶けます。チキンは一度調理してあって炙ればすぐ食べられるようにしたものです。
出来合いよりも、できれば少し一手間をかけて美味しく食べたいものです。コンビニのオニギリだって電子レンジで温めれば、多少は美味しいのですから。
コンロは魔法コンロで、キャンプ用のボンベ式ガスコンロのような感じに使える優れものです。
欠点としては竈のように美味しく御飯が作れない事でしょうか。ちなみに我が家(王宮)の厨房は竈を採用しています。緊急で竈が足りないような時は魔法コンロも使うのですが。
「お姉ちゃん。美味しいね、これ」
「そうね」
そりゃあそうでしょう。だってこれ、王宮で調理人に用意させた、文字通り王侯貴族用の食材を使っておりますのでね!
こういう時のために、日頃から調理人に頼んで作らせては仕舞ってあるのです。調理人も慣れたものでして。
一応は、私の知っている料理のレシピと引き換えという事でね。ただでいただいてくるわけにはいきませんので。
おかげで、うちの王宮料理は珍しいものがあると、国賓などのお客様からも大変喜ばれております。




