1-19 またしても男の子の大好物が
それから私達一行は特に怪生物に出会う事もなく、順調な旅を続けていました。シナモン的には物足りないといったところでしょうか。
まあ、かくいう私も何かイベントなどがあるというのなら退屈凌ぎにはなろうというものなのですがね。というか、敵方と揉めるためだけに、この旅をしているはずなのですが。
「ねえ、真理姉。これからどうするの?」
「偵察に出したコブンから情報が来るか、次の獲物に出会うか、早い方でぶちかましましょう。それまでは根無し草よ。まあ、そのうちに何か手掛かりが見つかるんじゃないかしら」
「ふうん。また何か可愛い生き物が出てこないかなあ」
ふふ、男の子から見たら緑色の巨大な蛙さんは可愛い物に見えるのですね。
サイズがもう五十分の一くらい小さかったら私も愛でてもよいのですが。小さくても、水槽か何かに入れて部屋に置いておいたらきっと煩そう。
でも小さくても魔法ブーストのスキルを持った蛙もいるかもしれません。今度、冒険者さんに捜索を依頼してみましょうか。
そうこうするうちに、お昼時になりましたので、ちょっとした空き地でお昼御飯にしようと思います。
「そろそろ、御飯にするわよお」
「はあい」
こういう時だけ元気のいい返事をするシナモン。軽く手綱を絞って「ロシナンテ、御飯だよー」とか話しかけています。
動物は人間の言葉をよく理解しますし、彼は動物好きなので動物からも好かれます。休憩ならいつでも大歓迎ですよと言わんばかりに、いそいそと空き地に入り込むロシナンテ。
さっそく、水と御飯をもらってお食事に励んでいます。さて、私達もと思ったまさにその時、街道を勢いよく駆けていく馬車が通りました。
「あらあら、あんなに飛ばしちゃ馬が持たないわよね」
「あ、でもさ、あれ」
なんと、その後ろから大きな魔物が走って追いかけています。わきの空き地に入り込んでいたので一瞬しかその姿を見ませんでしたけれど、大きな鰐サイズだったような。
何か非常に派手な色合いだったそいつも前しか見ていませんので、私達には目もくれません。
「わあ、綺麗な虹色の蜥蜴だったよ。きっと珍しい種類なんだ。真理姉、後を追いかけよう。ロシナンテはここで待ってて」
言われなくても飯に夢中な、うちのロバ。そして、やっぱり男の子の大好物である蜥蜴類に目をきらきらさせている、うちの小坊主がいます。
少々お腹が減り加減の私は溜息を吐きましたが、ただいま絶賛大ピンチそうな王国領民を見捨てるのも忍びありませんので、一緒に行くしかないようです。
街道って、ああいうものも出没するのですね。非常に勉強になります。どう見ても肉食っぽかったですし。特に尖ったギザギザした歯並びの素晴らしさとか。
そして小坊主が出したのは『スカイボード』
これは魔法で空を飛ぶ、サーフィンボードみたいな奴です。
地球では、いろいろな創作物に使われるものなので、お話したり図解したりしてやったら、ドヴェルグの大将に頼んで作ってもらったらしいのです。ついでに私の分まで。
公爵令嬢がスカートを履いて乗り回すような物ではないのですが、まあ私の事ですので。さすがに、これで旅をする気にはなりません。
このスカイボードという代物もスピードは速いけど結構疲れるのですよ。所詮は御遊びの道具です。こういう時には非常に役に立つアイテムなのですがね。
旅はやっぱり荷車の荷台の藁の上に寝転んで行くのに限ります。空を飛びながら、伝声の風魔法でシナモンと会話をします。
「しかし、こんな怪物が出るにも拘わらず護衛もつけないなんて不用心ねえ」
「お金がないんじゃない?」
非常にシンプルなお答え。ああ、そうかもしれませんね。そう立派な馬車には見えませんでしたので。
さて、見えてきました。馬車の速度が落ちて怪物は前に回ってしまっています。まずは馬からいただいて人間はデザートといったところでしょうか。
馬が嘶いていますが、馬車に括り付けられていますので逃げられるはずもありません。
馬車の外に出て逃げようにも、ここはさっきの場所とは異なり周りが開けているので、人間の足ではとてもじゃないですけれども逃げられそうにありません。
「シナモン、あの可愛い子(シナモン目線で)への最初の挨拶はあなたがやってちょうだい」
「あれえ、珍しく気前がいね、真理姉。では遠慮なく」
そして小僧が放ったのはドラゴン花火の魔法。何のことはありません。本当に本物のドラゴン花火のように火花を拭いて威嚇するだけの魔法です。
ふふ、この子ったら、あんな肉食蜥蜴が凄くお気に入りだったようです。あの子を傷つけずに『捕獲』したいのですね。
それは構わないけど、その怪物は王宮では飼えませんよ?
旅の間は連れていても別によいのですがね。お別れの時に蜥蜴の首っ玉に抱き着いて泣き叫びそうなので、考えただけで今から大変に鬱です。
あと、ちゃんとティムしてくれないと他の人を襲ってしまったら困りますしね。だが、彼は捕獲する気満々です。シナモンはチラっとこちらを見て私の様子を伺っています。
「いいわよ、捕まえたいのなら」
「わあい、やったあ」
いつもは小生意気なこの坊主も、こういう時だけは年頃相応に子供らしいです。
捕まえようとしているのが全長八メートルにもならんとする大型肉食蜥蜴でさえなければの話なのですが。
私達は怪物から死角となる馬車の後ろに隠れ、空中待機しています。私はサポという事で、超強力な麻痺の待機魔法を手に待っています。
シナモンの目がキラリっと光り、彼の手から白い光が迸り、それは馬車を迂回してドラゴン花火の真ん中を突っ切って、空中で見事な立体カーブを描きながらそいつに命中しました。
「キュウーイ」
その獲物は、その図体からは考えられないような可愛らしい鳴き声で、思わず私も悶えてしまいました。
蜥蜴に命中した魔法はバブルプリズンと言って、何というか男の子の大好きな、接着剤のような容器に入った物をストローで空気を吹き込んでビニール膜の風船を作る玩具のような感じの魔物捕獲魔法です。
まんまと閉じ込められた蜥蜴はジタバタしていますが逃げられません。これは玩具ではありませんので、この程度の魔物が暴れても破れませんし、きちんと空気も通すようになっています。
「やったー、捕まえた!」
男の子が大好きな蜥蜴ちゃんを見事に捕獲してガッツポーズをしている小学生の歓声が荒野に響き渡る、異世界のお昼時でした。




