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1-16 蛙の歌

 そして公園のそれではない、天然の池の淵に溜まっていた『奴ら』


 幸いにして、あの独特の形状をした卵はそこには無いようだったけれど。


「見てー、真理姉。オタマジャクシがこんなにいっぱい!」

「うーん、さすがにあいつらの子供だけあって大きいわね」


 でかい。大きく育った奴なんか、もう尻尾を計算に入れなくても一メートルくらいありそうなサイズです。


 尻尾まで入れたらシナモンよりも大きいでしょう。これを両手の中で抱える破目になった時の感触や匂いを思い浮かべて、思わず顔が歪みます。


 眺めているだけで、ちょっと胸が悪くなってきそうだわ。こいつらが死んでバケツの中でひっくり返って浮かんでいると、それはもう生臭い匂いが凄くて。


 ザリガニはザリガニで、バケツの中にたくさん入れっぱなしだとすぐに死んでくさい臭いを放ち、あれもまた強烈なのですが。


 日本でも小学生だった弟がたくさん獲ってきては、いつも放りっぱなしだったのです。今生の弟君はそういうお遊びはしない公爵家の跡取りなのですが。


「言っておくけど、こんなものは王宮では飼えませんからね」

「わかってるよー。でも王宮の中庭の池とかに、この子達がいたら素敵じゃない?」


「それだと、多分御婦人方から苦情が殺到するんじゃないかな。そいつらがいて喜ぶのは王宮の男の子達だけだよね」


 まあ地球の外国の離宮などでは蛙をテーマにしたものなどもあるので一概には言えないのですが。


 確か『女帝』さんの住んでいらした素敵な宮殿です。何を思って蛙がテーマの宮殿なんかをこしらえたものなのか。


 当時は上流社会で蛙やトンボなんかの自然をモチーフにしたデザインが流行っていた気もしますがね。


 地球の高貴な女性の趣味はよくわかりません。さすがに、このサイズの蛙を愛でたがる女帝様も地球にはいらっしゃらなかったのではないでしょうか。


 蛙の味については、母の野外手料理という形で冒険者上がりの母親から習った事はあるのです。子供の頃に騙されてよく食べさせられていました。


 まあ結構美味しかったので、別にいいのですけれども。地球でも蛙を食材にしている国は少なくないのですから。


 地球では食する機会はありませんでした。確か中華料理では比較的高級食材だったような。


 しかし、今思えば公爵家の家族の肖像としては少し相応しくないネタだったのではないかと思っております。


 蛙やオタマジャクシも子供達の生物の課外授業にはいいかもね。まあ生物というよりも理科の観察といったところでしょうか。


 この蛙の解剖をやる破目にだけはなりたくありません。ちょっと地球の男子にも無理じゃないのかな。このシナモンなら上手に解体してしまいそうですが、私は遠慮させていただきます。


 すると、後ろからいきなりフルボリュームの大合唱が聞こえてきました。

『『『ゲゲゲっ、ゲゲゲゲゲっ、ゲゲゲゲっ』』』


 もちろん、その声の主など決まりきっているのですがね。

「うわ、蛙達ったらなんて鳴き声を出すのよ。びっくりしたあ」


「うわあ、凄いやあ」

 男女で反応が見事に分かれたようです。あれ、何か変です。


「ねえ真理姉、何かこうステータスが上がってない?」

「あー、そうね。なんかこう魔力が上がっているというか」


 別にこの世界に目で確認できるステータスプレートなんてものがある訳ではないのですが、そのようになっているのは感じます。


 魔法も器用なこの子なら、ステータスプレートとて教えてやれば作れてしまうかもしれませんが。


 まさか蛙がこのような集団ブーストスキルを持っていたとは。意外な蛙の才能を発見してしまいました。


 私は一体何をしているんでしょうかね。まあ大きな蛙さんが道を塞いでいたので、成り行きでこうなってしまっただけなのですが。


「さあ、もういいでしょ。出発するわよ。オタマジャクシや、蛙の珍しいスキルも見れた事だし。あんまり寄り道ばかりしていると、今夜は野宿になるわよ」


「うん。旅はいいなあ。きっと面白い物がいろいろ溢れているぞ」


 そうよ、世界は広いの。異世界なんてところまであるんだからね。若い子が見聞を広めるのはよい事よ。


 でも、今こいつにそのような事を言ったら、あちこちそれはもう寄り道だらけになってしまいそうなので黙っておきます。


 この子を日本のテーマパークに連れていったら、なんと言うのかしらね。どうせ一週間くらいテーマパークに引きこもって帰ってこないのに決まっていますが。


 蛙さん達は大合唱を終えると、何故かぞろぞろと移動を始め、各自散開していきました。


 どうも二匹ずつで番になって移動しているようなので、もしかしたら集団見合いだったのかもしれません。


 妙なものに立ち会ってしまいました。そのうちに、あの図体の蛙どもが、池の周辺のあちこちで、人間様がいようといまいとお構いなしに交尾を始めそうな嫌な予感がしましたので、もう出発する事にします。


 さすがに蛙のアオカン風景に拝謁したいとは思いませんので。それに、それが始まったらシナモンが見物を始めて当分動けなくなってしまいそうです。


 思わぬ休憩ができて水と餌を貰って御機嫌なロシナンテと、同じくオタマジャクシと蛙ですっかり御機嫌になったシナモンと一緒に旅を再開する事にしました。


 それにしても、王都からそう離れていないこの地に、このような怪生物がいたとは露ほどにも知りませんで。まあ公爵令嬢がそうそう王都から出る事はないのですが。



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