1-15 街道は続くよ、どこまでも
そんなこんなで、翌日にはナージャさんの村(結局村名を聞くのは忘れた)を出て、また流浪の旅に出ました。
流浪というか、目的は『狩り』なのですがね。しまったな、ハリトの奴から情報を搾り取っておくべきでした。
でもまあ、一定の成果は上げたわけですから、後は入手に成功した『オンナスキー・リスト』に名を連ねる連中を当たってみるのもいいでしょう。
でも、こうやって書くと、まるで女好きな連中の名前をリストにしたかのようで少し嫌ですね。まあ、内実はそう変わらないのかもしれませんか。
金で簡単に国を売るような連中なんぞは、そういう輩なのでしょう。本当に男っていうものは、どうしようもない。
あの巨乳に目のくらんだ馬鹿王太子の事を思い出して、また少し自分の機嫌を表すヘクトパスカルの数字が低下してきたのを感じます。
「ところで、真理姉。今度はどこに行くの?」
のんびりとマイペースな歩みを街道に刻に込むロバの手綱を握り、これまたのんびりと気の抜けたような感じでシナモンが訊いてきました。
そう見えるだけで、実際には物凄い索敵を行っているのでしょうけれど。生まれ育ちのせいか、そういうところが素直じゃない子なのよねえ。
あの手下にした男は、エロマンガ家の情報を求めて斥候に出してあります。当座の情報を奴からも聞き出しておくべきでしたか。
当てもなく国中を彷徨うというのもなんですので、さっそく手に入れたばかりの手下を使ってみたのですが。
「街道筋を道なりよ。どうせ、目立つようなところで悪さしてるんでしょう。アリエッタがあの調子だから、エロマンガの連中も図に乗っていそうな気がするわ」
「そうかもねー」
あたりは、どこまでも続くかのような街道が目を潤すばかりで、他に目立ったものはありません。
日本の祖母にもよく言われたものです。
「あたしらが子供の頃は田んぼだった場所も、もう皆住宅になってしまって。小学校の帰りには蛙が大合唱していたものよ。
もう山の手の方まで切り開かれていって、街中が家だらけに。でも少子化だから、それらも皆どんどんと空き家になっていくわねえ」
この世界は日本に比べれば、人口密度は完全に過疎っていると言ってもいいレベルです。風景的にはちょっと寂しいですね。
うっかり街道で夜になってしまえば、真っ暗で心細いという。うちは魔法の灯りがあるので防犯面では安心です。
その他にも警報魔法にトラップ魔法などをしかけておけば安心というか、夜行性の動物や魔物、盗賊などが寝ながらにして仕留められていて大変に有意義かもしれません。
朝起きて、朝御飯の材料が罠にかかっていたら素敵じゃありません?
ああいえ、念のために言っておきますが盗賊は食べませんよ。
動物の解体とかは、父母に連れられて親子キャンプで習いました。行先が魔の森だの物騒なダンジョンだのというのが、また玉に瑕だったりするのですが。
シナモンにやらせると、面倒くさがって風情の無い魔法で解体してしまいます。
しかも普通にやるのと違って、最初から人体模型のように綺麗に分かれていたのをネジでもはずして分解しただけなんじゃないかと思えるくらいに綺麗にさばきます。
脂身の欠片一つ皮には残さないですし。必要なら人間相手の拷問にもこの技術が適用できるのですが、さすがにそれは考えないようにしています。
やれと言ったらシナモンはやってしまいそうな気がしますしね。それに大体拷問というものは拷問する方が殴りまくってスッキリするからいいのであって、別に残虐さが必要なわけではないのですわ。
そもそも私が担当して口を割らなかったケースなど皆無ですもの。あの代官のように。
神経の張り巡らされた人体のどこをどう痛めつければ、決して人間が耐えられないような最大の苦痛を長く与えられるかなどは、日本でしっかりと勉強いたしましたので(独学)。
日本では実践する事ができなかった趣味に走った研究の成果を、異世界では比較的容易に試す事ができるのは割と有意義な事でした。
いや、ネット小説などの表現に使ってみようかなどという、割と不純な動機だったのですがね。いかなるジャンルといえども、勉強というものはしておくものです。
「ねえ、ロシナンテ。旅は楽しい?」
そうシナモンに訊かれて、少し嘶いたロバ君は少し楽し気です。
荷馬車を延々と引く重労働を実施中なのですが、やはり旅は楽しいものなのでしょうか。
ちなみにロシナンテと名付けたのは、もちろん私です。本人もシナモンも気に入ったようで、なによりなのですが。
「まあ、こういうのもいいわよね。何よりも堅苦しくないのがいいわ」
私はまたお行儀悪くゴロリっと寝転がっていたのですが、シナモンが少し興奮したような声で何か言ってきます。
「ねえ、ねえ、真理姉。あれ見て、あれ」
「何よ」
ごろ寝を邪魔されたので、少し不機嫌な声を出した私は、起き上がってそいつらを見て目をむきました。
「「「「グエっ、グエっ、グエっ」」」」
「うわっ、蛙! しかも、でかっ」
そう、それは大きな蛙の集団でした。見事に集団で道を塞いでおります。ぴょんぴょん跳ねて行くわけでもなく、またこちらを見ているわけでもありません。
むしろ、すべてに対して無関心といった方がいいような風情を漂わせておりまする。まさに蛙の面になんとか。
そのサイズときたらヒキガエルだのガマガエルだのの比ではありません。なんていうか、もう神社の狛犬サイズ?
それが数十匹、へたすると百匹くらいいて街道を埋め尽くしていました。これでは先に進めません。
奴らの佇んでいる雰囲気ときたらそれはもう独特で、何かこう無理やりどかせるのが悪い事のようにさえ思えてきます。
羊の群れが横断している時に待たされている観光客の車みたいな感じといったらいいでしょうか。
クラクションを鳴らそうものなら羊がパニックに陥り、地元の方々から睨まれまくる、非常に居心地の悪い事態に遭遇する羽目になるでしょう。
もちろん、シナモンの奴は目をキラキラさせて、そいつらに見入っていました。
どうして男の子という奴は、こういうものが好きなのでしょうか。私も可愛いアマガエルサイズくらいなら嫌いじゃないのですが、さすがにこのサイズの奴らはね。
しかも鮮やかな緑色ときてますし。こいつらの卵のサイズを想像しただけで眩暈がしますね。
女の子としては、あのトコロテンとタピオカを合わせたような形状がちょっと生理的に受け付けないのですが。
シナモンなら大喜びしそうですけど。そしておそらく、いやきっと奴らもいるのに違いないです。
「あの子達、そこの池に住んでいるんだね。オタマジャクシいないかなあ。ねえ、真理姉。少し寄っていかない?」
ほらきたよ。男の子の二大嗜好水生生物、ザリガニとオタマジャクシ。
こいつらは、どちらも凄い匂いがしますので、お母様方から大変嫌われております。
まあ急ぐ旅でもないですしね。せっかく王宮から出てきたのですから、この子も羽根を伸ばしたいでしょうし、のんびりしていきますか。
「しょうがないわねえ。ちょっとだけよ」
「やったー」
何故か、ロバのロシナンテまで喜んでいます。まあ、この子はお仕事が休みになる訳ですから休憩は大歓迎なのでしょうけどね。




