PVが少ない
次話投稿「実行」っと。
「何とか今日中に書けたな」
俺、多留幹太は「なろうぜ小説」を投稿している。
もちろん異世界転生ものだ。
最初は読む側だったが、次第に「自分も何かを書いて投稿してみたい」という欲求にかられたのが、大体GW頃。
それから色々と構想を考えつつ、途中で面白そうな「なろうぜ小説」を見つけて読み耽ってしまって中断を繰り返し、ようやく初投稿が出来たのが6月に入ってからだった。
ご存じだろうか?
小説情報のページを見ると、「あらすじ」「作者名」「キーワード」「ジャンル」と続いているのだが、その下の方に行くと「同一作者の小説」という項目があるのを。
そして、そこには「〇〇先生の作品一覧を見る」というリンクがあることを。
「タルタルたるお先生の作品一覧を見るだって。「先生」だってよ、なんか小説家って感じだな。うへへっ」
こういうちょっとした表現が嬉しかったりする。言わないでも分かると思うけど「タルタルたるお」ってのは、俺のユーザー名な。
そういう訳で俺は、「タルタルたるお先生」として小説家デビューをした。
毎日の投稿は無理だけど、余り日を開けないようにして投稿を続けたぜ。なんせ読者を待たせたらいけないからな、えへへ。
そんな訳で、今日も24話目の投稿を行った訳だ。
この「なろうぜ小説家」というサイトには、「アクセス解析」という便利な機能がある。その日と前日の時間単位でのアクセス数が表示されるという凄い機能なのだが、やっぱり投稿する側にとってはどの位あるのかが気になるものだ。
投稿してすぐ見てもしょうがないので、しばらく同じなろうぜサイトに投稿している「ヘ〇グロビンZ」先生の小説を読んでから、アクセス解析を表示させてみた。
「真っ白やんけ……」
ページが開かれた回数をPVといって、投稿した小説内の投稿ページが開かれた回数のことを言うのだが、アクセス解析ではこれが表示される。
この数字が表示されるとともに横向きの棒グラフが伸びるのだけど、俺の小説は今日の分も昨日の分も真っ白。PVが無い、つまりはアクセスが無いということ。
―― つまりはアクセスが無いということ
カ〇ジのナレーションのような声が聞こえる、気がしてしまった。
「最初のうちは、チラホラあったんだけど……」
好きで書いているんだし、別にいいんだけどね。
なんて強がっても、やっぱり誰も読んでいないってのも悲しいものがある。
「まるで、クラウド上にメモ書きを残しているだけのような……なんて、ははは」
100万アクセスってなんだよ。
人気の「なろうぜ小説」はこれくらいのアクセス数はよくある。
「確かに面白いからな~」
まあ、比べるものおこがましいのは分かってはいる。
けれどもなあ、ちょっとくらいは俺のにもあってもよくね?
「でも、他の人のは何でこんなに面白いんだろう?才能?」
才能ねえ。才能ってのは多くの場合は経験が作り出すものだと思うんだ。
「経験かぁ」
そういえば、プロの小説家には「経験」を基にして小説を書いていることが多いよな。
元銀行員の作家が銀行を舞台にした小説を書いてドラマ化したなんてあったし、他にも元数学者とか、元警察官とか、そういえば森鴎外は医者だっけ。
あるいは、自分が直接経験していなくとも、色々な関係者に綿密に取材してから作品を書いているなんて言うし。
「しばらくたったから、もう一度見てみるか」
再度、アクセス解析を開いてみる。
さぁっ、どうだ!
「真っ白やんけ……」
やっぱりと言えばやっぱりだけど。べっ別に、期待してなかったけどね!
―― つまりはアクセスが無いということ
凹むあまり、幻聴が聞こえてきた。
「でも、異世界ものって、どうしてるんだ?」
剣と魔法の世界って言っても別に体験した訳じゃないよなあ。かろうじて剣は剣道とかがあるけど、別に剣道を基に書いている訳じゃなさそうだし、魔法なんてそれこそファンタジーだよなあ。魔物とか普通に出てくるけど、見たのかね?動物園の動物とかじゃ参考にならないだろ?スライムとかゴブリンとか。
何なら生態まで詳しく書いてあるけど、あれ何故かみんな同じなのって、なんでだ?
「ひょっとして……経験、している……のか?」
俺にあるひらめきがひらめいた。頭痛が痛いみたいだけど、まさにそんな感覚。
あいつら、実際に「転生」してるんじゃね?
それなら納得がいく。そりゃあ、面白いはずだよ。実際に経験してるんだもん。
全てが実体験じゃなくっても、歴史上の偉人の逸話とか英雄譚みたいなものとかってあるだろうし、見聞きしたそれを物語っぽく書けば、そりゃあ面白いよ。
別に文句を言いたい訳じゃない、むしろドンドンやれって感じだね。
むしろ、これに気付いたからには、もっと楽しめるってもんだ。
でもなあ。
「それじゃあ、俺の「なろうぜ小説」のPVを増やす為にはどうすればいいんだろう?」
俺には、異世界に転生した前世の記憶も転移した記憶もない。
いっその事。現代を舞台にするか?
でもなあ、別に超能力が使える訳じゃないし、学生時代にハーレム築いた訳じゃなし。金持ちのお嬢様とかと交友を持ったことすらない。って言うかそんなのクラスや学年どころか全学年通してもいないし。
ちきしょー、せめて妹とか幼馴染がいればなあ。別に、普通に彼女でもいいのに。
ちきしょーめ!
―― つまりはアクセスが無いということ
うるせえ!
何なんだ、さっきから。
―― うるせえとはなんじゃ、我は神なるぞ。
「うわって、なんだこれ?幻聴じゃないのか?」
―― 我はナロウ神。魂の慟哭に応えるモノ。我を呼びしは、汝ぞ。