表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/19

8 隠しキャラと『ひろいん』のエンディング②

 13回目、決まった手順のように、入学式直後に日光対策の眼鏡と日焼け止めプラス白粉(おしろい)。日除フード代りの黒髪のかつらを手に、マリアンヌがやってきた。学生に成り済ますため、この数回は先に準備してもらっているのだ。ちなみに、マリアンヌの意識は入学式前日あたりからあるらしい。代金は入学式後に払う約束のため、明るいうちにリーフライトの持つお金をとりにきたのだ。


 そこでお金を盾に、やっとマリアンヌに今回のエンディングについて口を割らせた。すごく渋っていたので、今回は始まってからも説明無しでやらせるつもりだったらしい。


「攻略対象の魔法使いがやった実験で、リーフライトは異形の巨大魔獣になって学園を破壊するの。それを『ひろいん』の命懸けの愛と光の浄化の力で、人の形に戻しさらに完全に人間ににまでなるの。そして、人間になったリーフライトは限られた命とかけがえのない人生を再開し、二人はめでたく結ばれるストーリーです・・・。」

「ちょっと待て、今聞き捨てならないことを言わなかったか?誰が何になるって?」

「リーフライトが私の愛の力で人間に」

「その前だ。」


ゴニョゴニョ気味で、よく聞き取れない声でマリアンヌは言った。


「リーフライトは異形の巨大魔獣になるの。」

「却下」

「待ってそれがシナリオなのよ!それをしないとコンプリートにならないの」

「コンプリートになったからって、この状況が解決するとも言えないのだろう?魔獣になって戻る保証はあるのか?」

「それは私の愛と、シナリオの強制力で。」

「そんな事を説明無しでやらせようとした時点で、君への信用は消えた。あと、君は知らないと思うが、私の体は再起動でリセットされない。シナリオの一年を過ごしたそのままの体で戻るんだ。」

「えっ?」

「君は死んでも生き返るし、一年前に若返っている。他の人もそうだ。だが、私は違う。血を飲めば空腹が消えているし、直前に飲んだ血は口の中にそのまま残滓も残っていた。元々この体の時間が止まっているに等しいからか、時間の巻き戻りに場所や服装は戻るが、体そのものは干渉を受けないらしい。」


ちなみにちょいちょい殺さない程度に、生徒を眠らせて栄養補給はしている。


「そうなの?!魔獣変化をやりたがらないのは予想してたけど、リーフライトの体がそんな状況だったなんて・・・。」

「そして、何より」


リーフライトは覇王のように、かっこよく重々しく言った。


「醜い魔獣になるなんて、プライドが許さない。」

「待って、それじゃこの状況を抜けられないじゃない。終わらない世界から出る可能性に賭けて、エンディングコンプリート目指してたのよね?」

「前回言わなかったこのシナリオの分岐条件と、話の流れははどうなっている?」


リーフライトはマリアンヌを冷たく睥睨した。


「リーフライトエンディング以外を回収して、貴方を起こすと魔法使いの子とのやり取りで、今までにない選択肢が出るの。その選択肢を選ぶと、学園のとある場所に魔法陣が出るの。そこに貴方が入ると魔獣化するの。」


リーフライトの様子が余程怖かったのか、ちょっと泣きそうな感じでマリアンヌが続ける。


「リーフライトはその中に私の命を盾にされて、魔法陣に入る事になるの。」


言いにくかったのは魔獣化だけじゃなく、自分のせいでということもあるのだろう。


「このシナリオを書いた奴は、とことん悪趣味だな。よし、私は君が死にかけても、魔法陣に入らなければいいんだな。」

「私が死ねばリセットが起こるだけよ。」

「イレギュラーの集積を続ければ、ズレがひどくなって抜け出る可能性もある。」

「魔獣になるのがそんなに嫌なの?」

「嫌だね、気持ち悪くて生理的に受け付けない。勿論美意識も許さない。」


 リーフライトは意地になった訳ではないが、どうしても嫌だった。お芝居で台詞を言うのと、お芝居で肉体を変質までさせるのは訳が違うからだ。魔力が強く長く生きているだけにプライドもあるが、変化することを本気で生理的に受け付けなかった。


「不毛だわ、どうしたらいいんだろう。」


 マリアンヌは困り果ててしまった。リーフライトは悪い事をしている気分になって、ちょっと冗談半分で歩み寄ってみることにした。


「なら、ちょっと試してみよう。要は魔法陣に入り魔獣になった私を、君が愛の力で戻せばいいんだろう?」


リーフライトは部屋の隅でごそごそし始めた。とある獣感のある被り物を取り出した。それは黒山羊の頭だった。


「闇の魔力を秘めたマスクだ、被ると全身が異形になる。それを君が愛の力で脱がせればいい。」

「いきなり?魔法陣もフラグも立てずに?」

「魔法陣ならある。」


蓋のずれた石の棺を指差す、さっきまで自分が眠っていた場所だ。


「100年前寝る前にはなかったと思うんだが、石の棺の周りや蓋に薄く石を削って魔法陣があるんだ。趣旨は違う魔法陣だと思うが、その棺の上に立てば一応形は整う。」


こんなのあるんだ、あれ?とマリアンヌが呟いて考えこむ。だが、彼女は結論が出なかったのか、首を横に振りリーフライトに話しかけた。


「今ここで試すの?」

「嫌なら永遠に、同じ一年を彷徨うのもアリだ。」

「・・・・それは絶対嫌よ。なら試してみましょうか。」

「了解した。」


 リーフライトは棺の蓋を閉め、魔法陣の中心になる紋様の上に乗る。そして、黒山羊マスクを被った。すると、頭だけでなく人間サイズだが、全身が毛むくじゃらの野獣に変わった。


「ぎゃおー、めーめー、食っちゃうぞー」


ついでに、適当に野獣っぽい発言をしてみる。勿論棒読みだ。


「リーフライト、私のためにそんな姿に。どんな姿でも私は貴方を愛しています。私の光の力で貴方を救いたいのです。もう、私の命も要りません。光の神よ、どうかお力をお貸しください!」


 ちょっと投げ槍で自棄糞なマリアンヌが言葉と共に光る。どうやら魔法は発動したらしい。彼女は暗い部屋でホタルのように光りながら、棺から降りたリーフライトに抱きついた。愛、愛って何よとうわごとのように、マリアンヌは言う。何か思い付いてちょっとためらってから、山羊の口にキスをする。そして肩辺りを探り、手触りで境目を見つけたらしい。密着しないとわからないから、これも愛の力とも言えるだろう。そして、彼女はリーフライトのマスクをエイっと脱がせた。


 リーフライトはマスクを脱がされ、人間形に戻った。


「リーフライト、戻ってきてくれたのね。」


マリアンヌがさらにギチギチに抱きついてくるし、目も座っている。これはもう愛を越えた怒りのような強い気持ちを感じる。


「マリアンヌ、君の愛の力で戻れたよ。ありがとう。これから一緒に人生を歩いて行ってくれないか?」

「リーフライト嬉しいわ。私は貴方と一緒ならがんばれるわ。愛してるわ。」

「私もだよ、愛してるよマリアンヌ。」


適当に状況に合わせたリーフライトの台詞に、マリアンヌが返答する。リーフライトがさらに返して、しっかり彼女を抱き締め、エンディング風味にしてみた。世界がゆっくりと紗がかかるように遠くなっていく、前回の自分のエンディングで体験したリセットの前兆だ。


 13回目のエンディングは入学式の日の午後、リーフライトが四阿の地下から出る事無く迎えることになった。

読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ