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エルザの入学式(エルザ視点)

ごめんなさい、ちょっと今回は長めになります。

 私エルザ=フロレスは、王太子アルフレッド=ニーベリング殿下の婚約者です。今は15歳、今日は3年間通う王立学院の入学式です。従者のヨハネスが馬車の扉を開け、手を差し出します。私達は晴れ舞台なので髪をしっかり巻き、ピンクのバラの刺繍の入った、白いドレスを着て参りました。馬車から降りると、その裾がふわりと揺れ、気持ちが浮き立ちます。私の手をとる従者のヨハネスの服も、当人は渋りましたが、入学式用に新調しました。黒のモーニング的なスーツが、赤い髪のスレンダーな体に良く似合っています。


 幼少の頃に決まったアルフレッド様との婚約でしたが。いずれ王妃になるため、沢山の王妃教育を受けて参りました。この学園を卒業すれば、私は2つ年上のアルフレッド様と結婚する予定となっています。


「エルザもついに入学か、気づいたら大きくなったもんだな。入学おめでとう。ようこそ、後輩。」

「ジェラール、よろしくお願いいたしますわ、先輩。」


 幼なじみのジェラールが、私に話しかけてきました。ジェラールは宰相である公爵家の跡継ぎ、王城やあちこちのパーティーやお茶会で会う仲です。黄緑に見える金髪で昔は天使のように可愛い笑顔を振り撒く方でした。今も一つ上ながら少し幼く見えますが、16歳の今はその笑顔が強烈な方向性の武器になっています。パーティーにパートナー必須になってから、毎回違う方を連れてらっしゃい、今日は誰を連れて来るかが定番の話題となっているのです。私もジェラールへの恋の仲介を頼まれる事が多いのですが、先のように誠実に付き合うとも言えない対応のようで、かなり苦情をもらう羽目に。おかげで、数多くの令嬢と、私まで距離を置かれることになりました。

 あと、幼なじみの気安さで、今もこうやってジェラールに話しかけられるからかもしれません。


「エルザの婚約者殿も、祝いに来たようだ。」

「エルザ入学おめでとう。一年間になるが、一緒に通えることを嬉しく思う。」

「ありがとうございます、アルフレッド様。」


陽が透けるような金髪のアルフレッド様です。私はドレスを両手でつまみ、礼をとりました。アルフレッド様の後ろから、その肩を持ちながら、茶色の髪の背の高い方が現れました。


「アルフレッド殿下とエルザ様はいつも思うが、婚約者なのに随分固いよなぁ。まぁ、この殿下もずっとこんな調子で、真面目すぎて言い寄られても気づかないし、浮気もしてないからエルザは心配いらないぞ。」


アルフレッド様は年は二個上、その同級生のランドスターク様は騎士団長の息子です。そのランドスターク様が、今年の新入生に話題を移しました。



「今年はエルザも話題だが、留学生に隣国のいい家の令嬢が来るんだっけ。後は魔法がすごいのが入ってくるんだよな。」

「魔法師団長の息子だっけ、僕は一度見たことがあるけど、眼鏡かけて、もじゃもじゃ深紫の髪のリュカだよね?確か引きこもってるって聞いたけど、アルフレッド。」


ジェラールはアルフレッド殿下の事を、呼び捨てにする唯一の人です。それを咎められないのは、父君が長く宰相をしているせいなのでしょう。


「今回はもう一人目玉がいる。男爵家の養子で今回の入学試験で、勉強も魔法も主席だったらしい。入学式の挨拶はそのもう一人になる。」

「アルフレッド殿下が学校代表で挨拶して、主席に入学記念の花をつけるんだよな。エルザでも、引きこもりの魔法バカでもないんだ、そりゃどんなのか楽しみだな。」


 男性陣で盛り上がる中、私は少しがっかりしていました。


 私はアルフレッド様と同じ舞台に立ちたくて、入学記念の花をつけて欲しくて勉強を頑張っていたのです。魔法はうまくないため、魔法師団長の息子であるリュカ様には勝てないかと思っていました。ですが、全く別の人に主席が奪われていたということを先に知ってしまったのです。


「そういえば、ヨハネスも入学だったな、おめでとう。」


 ジェラールが私の少し後ろで空気のように控えていた、従者のヨハネスに話しかけました。


 そうです、しっかり者の従者ヨハネスも私についてくるため、年は一つ上ながらも今年の新入生になったのです。身分が王族から伯爵までが同じ薔薇(ロージア)のクラスで、大抵は約20人くらいになります。子爵以下騎士や才能のある平民はもう通うもう1つの雛菊(デイジー)クラスに入ります、こちらは50人を限度としているそうで、ヨハネスはそちらに入ります。身分のない方は余程優秀でないと入れない仕組みです。

 時に人数調整で、子爵でも財力や一定の役職がある方の子女は、薔薇に入ることがありました。ランドスターク様は父君が騎士団長になった時に子爵に叙されているので、アルフレッド様と同じ薔薇のクラス。リュカ様も父君が同様に子爵に叙爵されているので、どちらのクラスでもおかしくないそうです。


「ヨハネスは総合四位だったと聞く、魔法の適性検査も高かったらしいね。なかなか驚いたよおめでとう。」


アルフレッド様がヨハネスに称賛を送りました。誉める事は珍しいので、ちょっと驚きました。


「ちなみに、エルザは何位?」

「エルザは三位だった。」

「じゃ、二位はリュカって奴かい?殿下」

「いや、驚いたことに隣国の公爵令嬢の侍女らしい。リュカは魔法適性と魔法知識、魔法に絡む古語は凄かったらしいが、あとがからきし駄目だったらしい。」


そんな雑談をしている間に、入学式の開始時間がやって参りました。


 まずは、王立学園ですので、国王陛下のご挨拶、学園長先生の訓辞と続きます。在校生代表として、生徒会長のアルフレッド様の言葉が新入生に贈られます。

 続いて入学試験でトップだった人が毎年決まった誓いの文句を述べて、在校生代表から胸に花をつけてもらうのです。

 桃色の髪の令嬢が、アルフレッド様と向き合い花をつけてもらい、舞台で優雅に一礼しました。


 式次第が恙無く終わり、今年は70人近い新入生が、身内や友人と話したり、立場が上の人や先輩への挨拶回りに回ったりしています。私はアルフレッド様を待って一人、式典のあった広間の壁際に居ました。その間、同じ新入生のご令嬢や、先輩が私を見つけ挨拶にやって来られました。


 アルフレッド様が広間に出て来られ、ざわめきと一礼する波が起こります。そして、まっすぐ歩いていきます。私のところではなく、新入生代表だったご令嬢のところへ。


 私は目を疑いました、アルフレッド様が話しかけて、その令嬢が何か返しました。アルフレッド様はちょっと驚いて、優しく微笑まれたのです。その時横から、ジェラールの声がしました。


「アルフレッドが、女性に笑うなんて珍しいね。」

「ジェラールは逆に常に女性には笑顔よね。」


 私と同じ感想、いえ私にとってつらいのはあんな優しく微笑まれたことが、自分の記憶にないのです。ランドスターク様がアルフレッド様を置いて、私たちの場所に急いでやってきました。


「あの新入生代表、すごい心臓してるぞ。」


面白げに目を輝かせています。アルフレッド様は既に一人になり、別の令嬢たちに囲まれていました。


「アルフレッド殿下が、あのマリアンヌって男爵令嬢に気遣って『初めての事も多く、不慣れな事や困ったことがあれば、いつでも相談してくるといい』って気遣ったのもびっくりだったが」


 あの令嬢はマリアンヌ様と言う名なのね。アルフレッド様から相談してくるといいって、わざわざ言いに行くなんて、胸の奥が重くなりました。

 その間ランドスターク様ととジェラールが会話を続けています。


「男爵家の養女とはいえ、孤児らしいから気遣ったのはわかる。あの令嬢何て言ったと思う?」

「普通に考えたら『ありがとうございます』って言って、令嬢側は舞い上がりそうなものだね。」

「あの令嬢はね『間に合ってますから、結構です』って言いやがったんだ。殿下は笑ってたけど、周囲の令嬢から殺気が飛んでくるのが分かるくらい、怖い空気になってたぜ。」

 

 マリアンヌ様の物言いは何て失礼な、と私も思いました。そして同時にホッともしました、恋仲のような甘い雰囲気ではなかったと知って。

 ですが、アルフレッド様がマリアンヌ様に微笑まれた顔が引っ掛かって、胸の不安は消える事はありませんでした。その気持ちが無謀ながらも夜中にある場所へ、向かう決意を固める事になったのです。


 その後私のところへ来たアルフレッド様、「エルザならできると思う」と、1つお願いをされました。そのささやかなお願いが、その後の私たちの運命を大きく変えることになるとは誰も思いもしませんでした。


読んでくださり、ありがとうございました。

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