リタイア・チャレンジ
浜井まゆみ
ついに決勝戦進出者が出揃った。私と清野悠生だ。
「おめでとうございます。あなた達はいくつもの試練を乗り越え見事に決勝の舞台までたどり着きました。まずはそこまでをお褒め致しましょう」
画面に映るゲームマスターはまるで私たちを小馬鹿にするかのように拍手を送って来た。
「さて、ゲームを始める前にも申しましたが、当ゲームにおいては決勝に進出することの出来る二名が出揃ったところで、お二方の大切なものをお返しするという救済処置をご用意するというお話はしておりましたね」
確かに最初の方でそんなことも言っていた気がする。本来なら小堀純子と一緒に使おうと思っていたものだ。
「ですので、決勝戦に進む前にそちらの救済処置のゲームで遊んでいただこうかと思います。その名も――」
『リタイア・チャレンジ』
ゲーム名を述べた後でゲームマスターはそのまま説明に入る。
「このゲームではお二方にそれぞれ防音仕様となっている部屋に入っていただきます」
ゲームマスターの声に合わせてディーラーが指す方には、さっきまでは無かったはずの真っ黒なボックス型の部屋が二つあった。
「中ではお二方に『あなたはこのゲームからリタイアしますか?』という同一の質問をさせていただきます。あなた達はリタイアするかどうかをただ言ってもらえればそれでゲーム終了です」
「案外単純にゲームがやめられるんだな」
清野悠生はそう言ったが私はそうは思わなかった。絶対ここにも罠はある。いや、もしかしたら清野悠生もそれが分かってる上で鎌をかけているのかもしれない。
「ただし、次のルールには則っていただきます」
仮に二人ともが『いいえ』(ゲームを続行する)と宣言した場合。普通に決勝戦に進ませていただきます。
また二人ともが『はい』(ゲームからリタイアする)と宣言した場合はお二方から預かっている大切なものは返還させていただきますが、優勝者というのは存在いたしませんので優勝賞金の三百万円は無しとさせていただきます。
そして何よりも注意していただきたいのが、片方がゲームの続行を宣言し、もう片方がリタイアを宣言した場合です。
分かりやすく具体的にするために仮にも清野悠生様がゲーム続行を宣言し、浜井まゆみ様がリタイアを宣言されたとします。決勝戦は浜井まゆみ様の棄権という事になりその時点で当ゲームは終了いたします。その時、清野悠生様はこのゲームで優勝したのと同等の扱いになりますので優勝賞金及び大切なものを受け取っていただくという形にさせていただきます。
それに対して決勝戦を棄権したという形になる浜井まゆみ様の場合、大切なものは返還させていただきますが、優勝賞金である三百万円を請求させていただきます。つまり、優勝賞金を大会本部ではなく浜井まゆみ様に背負っていただくという事です。
だから大切なものは返って来たとしても多額の借金を背負っていただくという事になります。
な~に、恐れることは何もございません。お互いがお互いを信用して二人でリタイアしていただければあなた達お二人は何一つ失うことなくこのゲームからリタイアすることが出来るのですよ。
なおこれ以降お二人で相談をなされるのは禁止。もちろんモバイル上であっても同様です。
では、お二人が素晴らしい選択をなされること期待しております。
そこまで言い切ってゲームマスターを映した画面は消えた。
それと同時に私と清野悠生はそれぞれ別の部屋にぶち込まれる。
そして例の質問を聞かれるのだ。
『あなたはこのゲームからリタイアしますか?』
今までの第一ラウンド・第二ラウンドとは違ってすごくシンプルなゲームである。
だが、シンプルゆえに難しい。
もちろん一番いいのは二人ともがこのゲームからリタイアして大切なものを取り返しさっさとこんなところからおさらばすることだ。
だが、それで相手がゲーム続行を選んでいて三百万もの借金を背負ったんでは意味が無い。私の場合、ゲームのキャラ一人を救って現実の私が多額の借金を背負うことになる。そんなバカげた話は無い。そんなのあの魔法少女オタクやアイドルオタクがやっとけばいいことであって私の向かうべき道では無い。
逆に清野悠生ならどうするだろうか。アイツの場合は私と違って妹という一人の尊い命がかかっている。それならリタイアする可能性は十分にあり得る。でも、でもだ。もし清野悠生がリタイアを選び、私がゲーム続行を選んでいたなら私は何もせずとも大切なものを取り返し、さらには三百万円を手に入れることが出来る。これほど楽に稼げることは無いし、三百万あれば一生は無理にしても、しばらくは節約しつつで、遊んでいけるのは間違いないだろう。
「あれ? これってどう考えてもゲーム続行を選んだ方がお得なのでは無いか?」
上手くいけば何もせずに優勝賞金と沖田総司が返って来る。最悪でも決勝戦で戦う。もちろんそこで勝てば優勝賞金と沖田総司は返って来る。
まぁ間違いなく清野悠生もゲーム続行を選んで来るだろう。彼にとっても借金三百万は辛いはず。なぜなら妹がいても借金がそれだけあると大好きな妹を大切にすることはおろか妹を不幸にしてしまうかもしれないのだから。
だからどの計算ルートで行ったところで私がここでリタイアをすることは損をすることしかないのだ。二人がリタイアを選ぶ確率はあまりにも低すぎるし、危険すぎる。
「いいえ、ゲームを続行します」
私が選んだ答えはそれだった。
そこにいたディーラーは私の言葉を承諾し、私は部屋から出る。
ホールにはすでに清野悠生が立っており、彼の方が先に話が終わっていたらしい。
「それではお二人の結論が出揃いましたので発表させていただきます」
「お二人ともゲームを続行されると申されましたので、このまま決勝戦に入らせていただきます」
まぁ当然の結果だろう。
後ろの敗北者たちが「お前ら何考えてんだ」とか「お前らは大切なものが大切じゃねぇーのか」とか言っているが正直あの部屋の中に入ったら同じことを考えるくせに。
だから私はこいつらの言う事など聞かずに決勝戦に挑む。
そして全てを救ってやる。