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Wing Place   作者: 神木界人
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間章


重山北斗


 俺は17年前、埼玉なのか栃木なのか群馬なのかも分からないような小さな村で生まれた。

 学校に行くだけで何十分も歩いて行かなければならないし、自分の住む村の近くにいる同級生はたった一人の女の子しかいなかった。

 そのたった一人の女の子の命が今、理不尽に殺されかけている。石川キララ――金沢光(かなざわひかり)は俺が生まれたときからずっと一緒に暮らして来た幼馴染だ。


 二人が出会ったのは俺もそして恐らく彼女も記憶には無いような頃の伝え聞いた話だ。

 村にいる同世代が全くいなかったため、病院とかでも両親が何度か出会っていたらしく俺たちは生まれてすぐからお互いの家に行ったり来たりを繰り返していたらしい。

 その中でも一番大変だったらしいのは、二人で寝転がっていた時で、光ちゃんが寝返りを打ったら、その先にたまたま俺がいて、偶然にも光ちゃんが俺に対してチョップをするような形なった。結果、俺の顔面が死に、泣き出したことをきっかけに協応して光ちゃんも泣いちゃったとか……。

 まぁ記憶の無い頃の話はあんまりおもしろくないしこれくらいでいいや。


 俺たちも少し大きくなり四歳ころ。

 この頃にもなれば当り前のように光ちゃんと一緒に遊んでいた。

 当然同世代が全くいないのだからこの村に幼稚園や保育園といった概念そのものが全くなく、日中いつでも俺と光ちゃんは二人で遊んでいることが出来た。

「ほ~く~と! いるんでしょ! 出てきてよ」

 こんな感じで俺の家の窓に石をぶつけてくる。正直いつか窓が割れるのではないかといつでも危惧していたくらいだ。

「んだよ。いるよ! てか窓に石投げるのそろそろやめろよ」

「だって~、北斗こうでもしないと全然出てこないじゃん。インターフォン押したって返事しないじゃん」

 一度だけ、俺たちの家が出かけて家を空けていた時に三時間くらいインターフォンを押し続けたらしく、それに懲りて彼女はインターフォンを押さずに石を投げてくるようになった。

 だが、彼女の過去の行いから見ると無視を続ければ本当に三時間くらい窓に向かって石を投げてくるのではないかという恐怖から俺はちゃんと返事するしかなかったのだ。

「で、何の用?」

「今日もあそこに行こ」

 彼女の言うあそこはだいたい決まっている。俺たちの家からちょっと離れたところの空き地だ。

 そこで二人で鬼ごっこをしたり(これ、ただのかけっこ?)おままごとをしたりすることもあるのだが、だいたいは……。

「じゃあ今日も歌うからそこに座って聞いててね」

 光ちゃんが土管の上にのぼり、それを下から俺が聞いてる。

 最初の頃はジャイアンか! って突っ込んだこともあったけど「いや、あそこまでひどい歌は歌わないから安心して」と平然と返して来たし、その言葉通り毎回聞くのが鬱になるような歌というよりむしろ俺自身が聞いていたいような音楽だった。

 たまには、俺も土管の上にのぼり光ちゃんと一緒に歌って踊ったり、光ちゃんが疲れれば俺一人で歌うようなことも何度もあった。

「意外と北斗って歌の才能あるよね。私と一緒にアイドル目指さない?」

 なんて誘われることも多々あったが正直自分があのテレビの中の人たちと同じようにふるまえるとは思ってなかったし、四歳の俺にとっては将来どうなるとか全然考えていなかったのだ。

 

 小学校に入学しても暇があれば例の空き地で一緒に歌ったり相手の歌を聞いたりする日々は続いていた。

 そんな努力が報われてか(遊んでいただけだけど)小学校三年生の時に村にある『老人ホーム(てる)』さんでライブをやってほしいという話が舞い込んできた。

「聞いて聞いて! ついに私たちの初ライブが決まったんだよ‼」

 その情報をもらったのは光ちゃんの方であり、それを俺に報告しに来た時の顔は幸せに満ち溢れていた。

「これは、もっと頑張って練習して絶対ライブを成功させないとだよね」

 それから、今まで遊びだった日常が本格的な練習へと変わって行った。

 基本的に光ちゃんは完璧という設定で俺の方が毎度毎度指導されるという形式に少々疑問を感じたりもしたが、俺が光ちゃんの歌や踊りに対して一切ダメだしができないという事もありその制度に何も文句が言えなかったのだ。

 そして話をもらってから二週間くらいが経過し、いよいよ老人ホームでライブをやる前日がやって来た。

「そう言えばさ、私たちのグループ名とか決まってないよね」

「いるか? そんなの」

 たかだかその辺の近所で勝手に歌を歌っている子供たちにグループ名なんて必要なのだろうか。

「いるよ! そりゃ。だって何、老人ホームで紹介されるときに『近所の子どもです。どうぞ』なんて言われるの絶対やだよ」

「って言っても近所の子どもじゃん」

「いや、かっこ悪いでしょ。何よ近所の子どもって、無名アーティストみたいじゃん」

 まぁ実際に無名アーティストなのだが……。

「でも、老人ホームの人たちなんだからさ、知り合いも多いわけだし『北斗君と光ちゃんです。どうぞ』くらいは言ってくれるんじゃないの?」

 それに対しても光ちゃんは一切不満そうな表情を変えなかった。

「それもそれでどうなのよ。別に幼稚園の発表会じゃないんだからさそんなありきたりな名前で紹介されてもねって感じじゃん」

 俺たちって幼稚園の発表会経験したことないよね?

「だったらさ、カッコいい、可愛い名前で呼ばれたいじゃん」

「例えば?」

 正直、彼女の提案を聞くまでこの話は終わらないと判断し、一応彼女の流れに合わせてあげることにした。

「そうね~。例えばSTM48ってのはどう?」

「どっかのアイドルのパクリか? しかもどうやって48人も集めんだよ。あとSTMだかATMだか忘れたけどそのアルファベットは一体どっから来たの」

 怒涛の質問攻めに光ちゃんも一瞬たじろいだ。言い過ぎただろうかとも思ったが光ちゃんはすぐに立て直し怒涛の反撃に出る。

「別にパクリじゃないし、尊敬だし、リスペクトだし。今やアルファベット三文字+人数なんてトレンドだよ」

「アイドルのトレンドというよりもたった一人のプロデューサーによるブランドみたいなもんだけどな」

「それに48人いなくたって48って言っとけばいいんだよ。本家だって絶対48人以上いるわけだし。って言うかそもそもそのプロデューサーの人だって最初っから48人集めようとしてそういう名前にしたわけじゃ無いって聞いたことあるし、てか一期生の応募に関しては20人だったし。だから別に名前に48が入ってるからって48人いなきゃいけないってわけじゃないんだよ。別に48が嫌なら、別のアイドルからとって765とかでもいいんだけど」

 と言われましても俺がそこまでアイドルに詳しくないからそんなAKBの裏事情なんて知らないし『765』に関しては一体何のアイドルなのかすら分からない。

「そ~れ~に。誰が現金自動預け払い機(ATM)を私たちの名前にしようなんて言ったのよSTMは普通に『埼玉』の略でしょ。そこまでケチ付けるなら北斗の方こそいいグループ名あるわけ?」

 正直いきなり振られたんで不意打ち過ぎて何も出なかったがそれでも何も答えないわけには行かなかったから無理やり絞り出した。

「だ、だったら普通に北斗と光でよくないか」

「だ~か~ら! その普通に名前使う売れてない芸人みたいな名前は嫌なの。どうしても私たちの名前を使いたいなら頭文字だけとって『エッチ・エッチ』みたいな……」

 そこまで言いかけて光の勢いが止まった。

「いや『エッチ・エッチ』はやめよ。なんか小学生がつけるには卑猥すぎるし、大人がそんな名前つけてアイドルやってても応援したくないし……」

 最後はジト目になりながら自分の出した意見を否定するまでに至った。

「だったらさH2からとって『水素』とかそれを英語にした『ハイドロジェン』とかもしくは昔歌手でいたH2OがごとくそのまんまH2でいくのは?」

「いや、待って。途中で出てきたハイドロなんちゃらってのもう一回いって」

「ハイドロジェン?」

「そう、それならいいかも。可愛げゼロだけどかっこよさはある」

 というわけで何だかんだあったが俺と光ちゃんはハイドロジェンとして翌日の老人ホームライブを迎えた。

 歌う曲は基本的にJ―POPのカバーだったが最後に歌った曲だけは光ちゃんが自分で作詞作曲した曲であり、老人ホームの人たちにとってもいまどきの若い人の曲よりよっぽど響いたらしく、アンコールでもう一度歌うことになったりした。

「いや~やっぱあれだけの人前で歌うのって楽し~。北斗はどうだった?」

 正直俺もめちゃくちゃ楽しかった。アイドルの人たちって色々大変だとは言われていたけどみんなが一体になってくれるあの感覚を一度覚えちゃうと止められない気がする。

「でしょ。だからさ一緒にデビューしよって言ってるのに」

 でもまだ、自分がアイドルとして世間に出て行く自信は全くなかった。今回の件はまねかれて歌う事が出来たからよかったけど、いざアイドルになったら自分から仕事を探していかなければならない。テレビで地下アイドル特集とかやってるのを見るとやっぱ自分には出来ないなって拒絶してしまう。

「まぁ無理強いはしないんだけどさ。ちょっとは考えててよね。私北斗と一緒に歌ってる時って他の何をしてる時よりも楽しいんだから。にひひ」

 恐らくこの時だろうな。ただの歌って踊ってばっかりいる幼馴染が俺の好きな人に変わった瞬間は。最後の「にひひ」なんてズルすぎだろ。あんなに可愛く笑う姿見せられたら好きにならない男なんてどこにもいないんじゃないかって思うほどだった。


 それからしばらくハイドロジェンの活動は続いて行った。それ以降老人ホームでライブをするのは毎年の恒例行事になったし、小さな村の中だったから私たちの存在は感染病のごとくどんどん広がって行ったし(表現がよくないか)、挙句は村を越えて近隣の市区町村くらいにまでは私たちの存在が知られるようになっていった。

 小学校卒業するときには卒業式の後の余興として、体育館を貸し切ってライブをして欲しいと先生たちから頼まれ、もちろん引き受けた。

 その頃には光ちゃんが自分で作った曲が十数曲存在しており、別に売れている曲をカバーしなくても一時間くらいは歌えるようになっていた(とは言っても知らない曲ばかり聞かせても盛り上がりに欠けるためカバー曲だって何曲も歌ったわけだが)。

 中学校に入ってからも特に部活動には入らず、二人で音楽活動だけをしていた。


 だけどそんな光ちゃんが中学二年の夏に急にいなくなった。

 いや、いなくなっただと語弊があるか、いなくなることを勝手に決定した。

「いや、いなくなるってただ東京のオーディションに行くってだけだよ。軽い気持ちで出しただけだし、二次選考に行ったのだって驚きなんだから。どうせ今回は顔だけ売ってすぐ帰って来るって」

 光ちゃんはそう言っていたが正直俺には光ちゃんが二次や三次で落とされてこの村に帰って来るとは思えなかった。別にそれを裏付ける確たる証拠があるわけでは無いが十年近く隣で歌い続けていれば光ちゃんの才能だってそれなり理解してるし、物凄いものだという事も分かっている。

「じゃあ、じゃあもし、光ちゃんがオーディションに合格したらどうするの? こっちには帰ってこないんでしょ」

「まぁ~合格したら帰ってこないかもね。ていうか帰ってこれないと思う。今回のオーディションで合格した人たちでグループ作ってアイドル活動をしていくっていう企画だから」

「じゃあやっぱりこの村にはもう帰ってこないじゃん」

「だ~か~ら! それは私が合格したらの話でしょ。私だって合格したいとは思ってるけどそんな簡単に合格できる世界じゃないって言うのは子供の頃散々北斗が言ってた事でしょ。私の方が子供の頃は簡単にアイドルになれるなんて嘗めてたくらいだし」

「じゃあ、ハイドロジェンはどうなっちゃうのさ! 光ちゃんがいなくなったら俺一人でやっていくなんて不可能なんだけど」

「誰がハイドロジェンを止めるなんて言った? 私ハイドロジェンを止める気なんて全くないけれど」

 その言葉には「え?」と間抜けな声しか出せなかった。

「だってそもそも合格しなければ帰って来て今まで通り北斗とハイドロジェンを続けていくつもりだし、仮に合格したって一時はそのアイドルに属すかもしれないけど、いつかはそこを抜けて公式的に『ハイドロジェン』として活動していきたいと思ってるよ。まぁ~そのためには北斗にもアイドルなりなんなりで芸能界に出てもらわないと困るんだけどね」

 正直、光ちゃんがそこまで先の事を考えているなんて思いもしなかった。

「ったくしょうがねぇ~な。じゃあ俺も少しはアイドルってのは無理かも知んないけど歌手になれるくらいの努力はしてやろうかな。正直いつになったらデビューできるか分からないけどいつかは紅白や歌番組なんかで共演して、自然な流れでハイドロジェンを続けてやれるくらいの事はしてやるよ。その方が光ちゃんだってアイドル抜けやすいでしょ」

「ふふ、大きく出たね。昔アイドルなんて俺には無理だよとか言ってた北斗が嘘みたい」

「でも! でも俺がそこまでするには一つだけ条件がある」

 実際ここからが大事なところであり、ここで言わなければ一生伝えられずに終わるだろう。

「もし、俺が歌手として芸能界に出て、ハイドロジェンを復活させるって時が来たら、その時は、その時は……俺と、俺と付き合ってください‼」

 正直一世一代の大勝負でもあった。恐らくここで振らられば俺はハイドロジェンを復活させようなんて思わないだろうし、芸能界に行こうとも考えないだろう。

 ただ、こっちはど緊張で言っているにも関わらず、光ちゃんの方はすごく微笑んでいた。

「な~んだ。条件とか言うから何を言われるかと思ったけどそんな事か。別にいいよ。なんなら付き合うを通り越して結婚でもいいけど。どうせ二回もプロポーズするなんて大変でしょ。まぁそこは二回してくれた方が私としては嬉しいけど」

 そこまでは冗談交じりに、そしていきなりトーンを下げて本気モードに入る。

「分かった。私、北斗の事ずっと待ってるから。北斗が芸能界に入って私の事を連れ出してくれるのをいつまでもずっと待ってるね。にひひ」

 やっぱり『にひひ』はズルい。もう、芸能界を目指さないわけには行かないじゃないか。


 そして、本当に光ちゃんは帰ってこなかった。

 そのオーディションを見事一位通過したらしく、即アイドルデビュー決定が決まった。それが『Fine,Peace』というアイドルであり一位通過だった彼女はその中でもセンターになることが出来たのだ。

 『Fine,Peace』はそのオーディションをした会社にとっても大切な存在だったらしく全力でバックアップしてくれたおかげでその人気は一気に広がって行った。

 対して俺も、光ちゃんとの約束を果たすために高校進学と同じタイミングで上京してきた。こんなことをする若者がたくさん増えるから故郷みたいな田舎は超高齢化が進んで限界集落とか言われるんだろうなとは思ったが光ちゃんのためなら何のためらいも無かった。

 東京に来てからは、今の歌手やアイドルなどが歌ってる曲を歌ったり、たまに光ちゃんが作ってくれた(別に俺のためでは無いけど)曲を歌ったりもしていた。

 当然ストリートじゃ聞いてくれる人も少なく、町ゆく人たちが入れてくれたお金を見ても全部合計して札束になるかならないかのレベルだった。

 そんな中でも俺は『Fine,Peace』の一ファンとして光ちゃん、いや、石川キララの事を応援し続けていた。

 勉強もろくにせずに自分の歌手活動とアイドルの追っかけばっかりしてたからこんな意味の分からない争いに巻き込まれてしまったのだろうなと、今となっては若干の反省点でもある。


 でも、ここに来て聞かされた衝撃の事実。


『石川キララがあるファンと毎週金曜日にホテルに行ってる』という事実。


 正直、これはあのゲームマスターが勝手に作ったでっち上げ話だと今でも信じている。でもそこに絶対の自信は無かった。

 それでも、俺は光ちゃんの『いつまでもずっと待ってるね』って言葉を信じたい。それを問いただすためにも、俺の崇高な願いを成就されるためにも、キララちゃんにはずっとアイドルでいてもらわなくてはならないのだ。

 だから俺はこのゲームで負けるわけには行かない。何としてでも勝利して、昔からのたった一つの夢を叶えている彼女を守ってあげなければならないのだ。


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