序章
こちらは、とある新人賞に応募した作品をまんま投稿しているやつです。
修正しながら書いているのは随時更新している「Wing Place」という作品をご覧ください。
待てないよ、全部一気に読みたいよという人はこちらを読み進めていただき審査員になった気持ちでコメントを頂ければありがたいです。
???
「ついに、ついに完成した‼」
一人の男は両手を挙げて歓喜した。
「二年半だぞ、二年半。これで、舞台も、シナリオもそろった」
「あとは役者が来るかどうかってことですか」
そこに現れるのは一人の女。
「あぁ、だが、彼らなら必ず来てくれる。そう信じてる。あ、そうだ。例のデータに関してはもう送ってあるか?」
「いえ。すべて完成するのを見届けてからと思いまして。これから送信するところです」
「まぁそれで構わない。いよいよ、俺が長年夢見たゲームが始まるんだな」
「えぇ最高の舞台にしましょう」
二人はそのまま笑いあった。深夜のテンションということもあったのだろう。だが、それ以上にこれを作るために、海外に飛んだり、いろいろなプログラムを研究したり、大学のサーバーに十数年ぶりにハッキングをかけて資料を持ち出したり。いろいろな業界に金をまいたり。
まぁいろいろなことがあった。
だが、そのすべては……
「あいつを救うため」
そのためだけにこの二年を費やしてきた。
「想いが届くといいですね」
「あぁ、少しでも周りには同じような境遇の人がいて自分だけが一人ぼっちじゃないってことを気づいてくれればそれで十分だ。二年以上もあいつのもとを離れてしばらく努力してきたことが報われるよ」
ゲームの予定日はこれから五日後。それが彼――羽場正仁の夢がかなう日だ。
闇の中で青い光だけが照らす部屋。その光を見つめながら羽場誠也は淡々とキーボードをたたき続けていた。
『今期の一押しアニメ。さすがは前々から豊作と言われていただけあって絞り切れない。だけど、その中で一つ選ぶならやっぱり『黄昏のビキニ』だな。アニメもそうだがそもそも原作が最高! タイトルはタイトルだがそれにはそぐわないフィールとソフィーの別れのシーンは涙なしでは』
「ってコレ書いたらアニメしか見てない人にはネタバレか」
そうして指を『back space』までもっていき今までの文字を消していく。
彼のブログ『誠也に任かせいや』はネーミングセンスこそ『2ちゃんねる』等で物議をかもしているものの、おススメした本やアニメ、ドラマまではずれが一切ないと大評判になり一日の閲覧数は軽く500pvを超えているのだ。
彼がこのブログを始めたのは今からおよそ2年前の事だった。
彼は中学校に入学してあまり経たないうちに引きこもりになり、日がな一日することが無く過ごしていた。
そんな中で彼が見つけたのがネットだったのだ。
彼の父親は高校生や大学生の頃、天才プログラマーかつ天才ハッカーとして周りの人たちからも人気があったらしく、恐らく俺もその血を引いていたのだろう。ネットにはすぐに馴染み、使いこなせるようになっていた。
今や、食事以外部屋からほとんど出ることは無くなったせいで夜遅くまで「(自称)世界を救うために何かをしている」プログラマーの父親とはほとんど顔を合わせることは無くなったがいろんな意味であの人の子どもでよかったと思う(引きこもりでもやることがあったからあなたの息子でよかったと言われる親の気持ちなんて知らないけど)。
そして今日も学校に行くことは無く、彼はブログ更新のために言葉を紡ぐ。
その時、右下にメール受信のポップが出る。
「ん?」
普段、誠也にメールをくれる友達なんてほとんどいない。ネット友達は何人かいるが健全な彼らはこんな真っ昼間にメールを送ってはこない。
どうせ迷惑メールの一種かなんかだろうと思ったが一応開いてみる。誠也はいつも迷惑メールであったとしても本文を開くのだ。
そこには次のように書かれていた。
あなたは厳正なる抽選の結果、見事当選いたしました。
よってあなたを当局主催のゲームパーティーにご招待いたします。
参加費等の現金請求は一切なく、優勝者には三百万円プレゼントいたします。集合場所・時間等は添付ファイルに示す通り、もしも詐欺と疑うのならば無視するなり警察に告げるなりどうぞお好きになさって下さい。
あなたが聡明なご判断をなされることを期待しております。
そして添付ファイルには地図と集合時間が記されていた。
誠也は初め、詐欺か何かだろうと思ったが別にお金を振り込むようなことは書かれておらずその上送り主が『文部科学省』だったことからむげに疑う事が出来なくなっていた。
「どういう事だよ」
日時は明後日。考えている時間はそんなにない。
誠也は何度もこの文章を読み返し熟考した。そして、明後日集合場所まで足を運ぶことを決めたのだ。
集合場所は池袋のロータリー。そこで会場までの送迎バスが迎えに来てくれるという事だった。
*
池袋の西武口を抜けたロータリーに一台の黒いバスが止まっている。恐らくあれが送迎バスなのだろう。
誠也は恐る恐るそのバスへと近づいていく。
中にはすでに数名の男女が乗り込んでいた。誠也にとって全く面識のない人たちだ。
「まぁ抽選で選ばれてるのなら当然か」
そう思いながらバスに乗り込む。
集合時間になると男女合わせて(自分も含め)八人が乗車していた。そしてバスは扉を閉め動き始める。
カーテンは全て閉め切っており周りの景色は一切見えない。しばらく進んだところでバスの速度は一気に上がったため高速道路に入ったことは分かったがバスが目的地に着いた頃には自分たちがどこに連れてこられたなんてことは一切分からなかった。
ドアが開き、八人全員が戸惑いの表情を浮かべながらも一人の男が降りたことをきっかけにして、ぞろぞろとバスを降り始める。
そこには――森の中に潜む立派な洋館があったのだ。
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