NAO『小説のことばっかりの小説』
ダメだ。明日は部誌の締め切りだっていうのに、何にも思いつかないや。ああ、もう。追い詰められないと書けないんだよなぁ。
他の人は、とっくに出来上がってるんだろうなぁ。僕みたいな人、他にいないかなぁ。
そういや、こういう時に小説を書こうとすると絶対に『小説が書けないことを書いた小説』になるんだよな。でも……。どうするんだろう。
あ、いや。まさか、僕みたいに全員が書けなくなって、『小説が書けないことを書いた小説』ばっかりになるなんて、そんなことは心配しなくても起きないか。
もう。小説を書いたって何もいいことないよ。小説家なんか、別になりたかないってば……。
ふぅ。……他の人の小説でも読もうかな。何か浮かんでくるかもしれないし。でも、時間がないからな。読んだ後に書くと、もろに影響されるんだよなぁ。
パクられたって思われても厄介だもの……。怖いからなぁ、そういうの。
あぁあ。でも、読むしかないかぁ。考えたって何も浮かばないんだもの。何でこうなんだろう。寝て起きたら素晴らしい小説の原稿がひとりでに出来上がってればいいのに! ねぇ、小人さん!
そして結局。
他の人の小説を読み始めた。
途中から目的を忘れて、全部読んでしまった。
面白かった。
そして、ふと、時計を見る。
僕は頭を抱えた。夜中の3時半だ。
残り少ない時間で再び、提出しなければならない小説について考え始める。
でもなんか……小説の表現って気障なんだよなぁ。「目に見える」みたいに書けるのって、実は内心、チョー憧れる。飾らない表現が書けるってすごいことだよ。
「瞳に映る」「双眸に映る」みたいな言い回しとか? 全然かっこよくないんだよなぁ。「マスカラが滲んだ充血した眼で、現実と夢の境目が混じっていくのを思春期の心持ちの膨らみかけた小さな胸にしまい込んだまま、ぼんやりと眺めた」とか。詩的表現っていうの? そういうのも、よくわかんなくなってくるもんなぁ。
そもそも僕、いままで詩的表現ばっかり書いてきたからなぁ。なかなか話が進まないんだよなぁ。「詩的すぎて小説じゃなくなってる」ってよく言われて来たっけ——。
しかも、さっきの「マスカラが滲んだ充血した眼で、現実と夢の境目が混じっていくのを思春期の心持ちの膨らみかけた小さな胸にしまい込んだまま、ぼんやりと眺めた」なんて。ただの思いつきで、特に意味ないし……。
ああ、ああ……。だめだ。思春期の女の子、って。想像があらぬ方向に……。もう寝よう。もう、寝ようっと……。
そして小説締め切り間際。
ええい、もう、どうにでもなれ。
やっつけ原稿を僕は堂々と、提出してやった。