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野田 莉南『交差点のナウシカの300字小説』
勢いよく雨が降り始めた。夕立ちだ。大きな雨粒がフロントガラスを叩きつける。轟音の中、無色透明な雫が何度も何度も飛び散った。
独特な作動音のするワイパーが、白く曇るフロントガラスの上を滑っていく。視界の悪い向こう側で、赤いルビー色の光が灯った。
ブレーキランプだ。前方の車から順々に点いていく。まるで、王蟲の怒りを表しているみたいに。
列の長い渋滞ができていた。私はハンドルを右の人差し指で弾きながら、込み上げてきた不快感を紛らわせる。
渋滞の先の人たちは、いったい何をやってるんだ! と言いたくなってやめた。答えは、きっと信号待ちだ。
交差点の青信号の色が、なぜか私の中でナウシカの衣の色にぴたりと重なった。