ぽよぽよ『俺の小説の地の文が異世界転生しちまった件について』
「その理由はね、需要がないからさ」
「ああン?」
「地の文が自分で望んだのさ。俺に文句をつける筋合いはなかったね」
「はぁ? 異世界転生したいって言ってできるっていうンなら、オレだってしますけど」
「そりゃそうさ。みんな異世界転生しちまうよ。でもね、実際に俺の小説の地の文は自ら望んで異世界転生しちまったんだ。……さっきから存在してないだろ?」
「オレらが喋り続けてるからじゃないんすか?」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……もう十分だろ。そういうことさ」
「くだらねぇ。ンなもん、書こうって気になればいくらでも書けるんじゃねぇかって思うけど」
「異世界ハーレムでキャッキャウフフしてる奴を連れ戻せると思うかい? 俺には無理だね」
「意味解ンねぇ。そもそも——地の文のハーレムって何すか」
「どうかな? そんな風に考えたことはないね。異世界では、俺の小説の地の文は地の文じゃないしね」
「じゃ、じゃあ——オレら、どうすればいいんすか」
「……多分ね、話し続けるしかないと思うよ。ラジオの生放送みたいなもんさ」
「でも——ト書きくらいだったら書けるっしょ。ンなもん地の文のうちに入らないんじゃね?」
「うん。……入らないから書かないのさ」
「何で」
「そんなのは小説じゃないからさ。ト書きを地の文の代わりになんかしたら、あっという間にシナリオになっちまうんだ」
「ふウん。オレ頭悪いから解ンねぇわ。じゃあ、地の文の無い小説って小説な訳?」
「辛うじて小説、かな。最近のネット社会は画面とにらめっこだからか近視が進んでしまっていてね。情景描写の需要がない。弱視の人に絵画の需要がないのと同じさ。大半が書かれなくたっていいんだよ。見られないしね」
「そういうもんすか」
「するとね、会話文が重要視されるようになるのさ。つまり、音だね。特徴的な話し方をするキャラは需要がある気がするんだな」
「この話、ついていけねぇ……」
「そんな君にいいニュースがあるよ。音重視だとね、大抵の奴がイケメンになれるのさ」
「!?」
「見れない分、脳内補完されるからね。地の文があった頃より俺も君もイケメンさ」
「いや——それ、最早オレじゃねぇっす。つぅか、さっきから聞いてると、オレらが地の文の無い世界に転生したって感じがプンプン……」
「うん。よく気がついたね。そうとも言えるし、そうでないとも言えるってい——「ザけんじゃねぇよ!! 元に戻せゴルァ」