原田『紙屑、ゴミ屑、粗大ゴミ』
なめやがって、くそ野郎が。この部誌は一体なんだ。文体もそうであるが、内容も男が書いたんだか女が書いたんだか、分からねぇような小説書きやがって。俺なら投稿しねぇレベルだな、くそババア。
罵倒したかったが、俺はまだこの小説の事情も知らんし、華のトップバッター。誰かに明け渡すのも癪に触る。
「ただ耐え忍ぶのみ」と部誌に対する悪感情を抑え、書き始めようとした。俺はわりと勢いだけで何でも書ける天才であるが、今回はとりあえず何を書いたらいいのか分からない。
考えること数秒。せっかくだ。他の奴がこの部誌で何を書くのか見てやろうとしたら、くそババアに部室から追い出された。次会ったら必ず殺す、と夕陽を背に決意を固める。途端、馬鹿馬鹿しくなった。
やってられん。帰ろう。って、しかし、俺のトップバッターのページはどうなるのであろうか。空白ということはあるまい。誰かに書いてもらうのか。
部室の中からはカチャカチャと、キーボードを叩く音が聞こえてくる。やるしかないと判断した俺はPCを借りるべく、野田の家に帰ってった。
安楽椅子に鎮座し、PCを起動する。せっかくだ。野田の小説でも読んでやろう。即、後悔した。フォルダはゴミ集積場のようなものである。「馬鹿にしてやがら、紙ゴミが粗大ゴミになるくらい書きやがって。こんなもの読めるかよ、べらぼうめ」
ましな小説を書け。ましな小説って何ぞ。考えあぐねた挙句、俺はついに書き始めた。タイトルは『紙屑、ゴミ屑、粗大ゴミ』。
こいつぁ、いい。ってんで。嫌いな小説の特徴をつらつら書き連ねてった。
〇〇○
1、コロコロ人が死ぬ小説を書くな。
別に小説の中で誰が死のうと、関係ねぇと言えば関係ねぇが胸糞悪い。虫のようにコロコロ。意味なくコロコロ。この根性の腐ったババアのことである。近い将来、殺されるどころか世界を破滅させるのを俺のせいにしかねない。そら困る。即やめろ。
2、コロコロ視点が変わる小説を書くな。
別に小説の中で誰が語ろうと、関係ねぇと言えば関係ねぇが胸糞悪い。こっちにコロコロ。あっちにコロコロ。この根性の腐ったババアのことである。近い将来、俺の考えと世界の考えをごちゃ混ぜにして、最期に俺を捨ててこます。ババアが死ね。
3、俺が出ない小説を書くな。
俺は、たいへんな美男である。性格もたいへんよろしい。出さない意味がわからん。もう腹が立つこと、腹が立つこと。俺を出せ。そして、ギャラよこせ。
○〇〇
全力でキーボードを叩き、書き終えた。やりきった。やってやった。野田なんか、くそ食らえ。俺のがよっぽど良い小説を書く。
自分への褒美に冷蔵庫からビールを取る。酒を搔っ食らう。そのうち酔っ払って寝た。どういう訳か俺は、酒を飲むと記憶が飛ぶらしい。翌朝、目が覚めた時には、何を書いたのか忘れていた。
だが、これだけは分かる。利用するだけ利用しやがって。野田のくそババア。次会ったら必ず殺す。