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3.どきどきのクリスマスイブ 2


「ええっ! ルッカ先生のご自宅でパーティーなんて何でもっと早く言わないの!」


「急に決まったのよ。ごめんなさい。行かないと単位が貰えなくなっちゃうんだもの」


「まぁ、ルッカ先生の破茶滅茶なのはパパもママも良く知っているが……今回みたいなのは初めてだなあ」


「そうなんだ……今日は本当にごめんなさい。明日はみんなで食べよう? ケーキも焼きたいし」


「そうね。今日は大人だけで静かなパーティーにするわ。ほら、チキンとサラダで良いかしら? 持って行きなさい」


「えっ!? メインのチキンを持って行って良いの?」


「沢山食べるレオン君がいないなら食べきれないさ。明日もママがきっと焼いてくれるから今日はみんなで食べて来なさい」


「そうよ。気にせず持って行きなさい」


「ありがとう。ママ、パパ……行ってきます!」


玄関を出ると、私服に着替えたレオンが玄関の前で待ってくれてた。


「レオ、そんな所で待ってないで家に来てくれれば良かったのに」


「いや、これのせいで両手が塞がってたんだよ。すぐに出てくると思ったしな」


「大きいお鍋ね。何を持ってきたの?」


「シチューだってさ。とくかく重てえ」


「あっ! おばさんのシチュー大好きっ!!」


「メイのはチキンか。くそ、せっかく全部食おうと思ってたのになー」


「明日も焼いてくれるって。あっ明日はケーキもあるのよ?」


「おおそうか! じゃ早く行こうぜ」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 ルッカ先生のお家は別名魔女の森と言われている。

 黒くて大きなカラスが何匹もとまっている大きな門に近づくと門が『名をなのれー!』とルッカ先生の元気な声。

 名前を言うと音も立てずに門が開いた。

 まるで森のように暗くうっそうと茂った小道を歩いていくと、つたで覆われた不気味なお屋敷が現れる。

 すごいな。かつて有名な魔導士だったって聞いているけど、こんな豪邸に住めちゃうくらいなんだ。

 ちょっと怖いけど。


 屋敷のドアは大きく開きっぱなしになっていて、クラスメイトの皆も少し集まって来ているみたい。

 わいわいと楽しそうな声が暗い廊下の奥から聞こえてきた。

 勝手に入っても良いのよね……「お邪魔します」と一応声をかけて中に入ることにした。


「うおっ! なんでこんな所に蛇の死骸が落ちてるんだよ!?」


「きゃああっ!! ルッカ先生、散らかっているとは言ってたけど……」


 ここまでとは。


 床に細心の注意を払いながら奥の方の灯りを目指して気持ち速足で進み、部屋に入ると大きな広間になっていた。


「あっ! メイちゃんとレオン君!」


「またお前ら二人で来たのかよ」


「あはは。あっ先生は?」


「「「あそこ」」」


 すでに来ていた皆が、一斉に指さしたソファーの上にぐっすりと眠っているルッカ先生がいた。


「メシの用意が出来たら起こせってさ」


「まじか。最低だな」


「レオン、男子生徒は薪割りだってよ。こっちだこっち」


「まじか。こき使う気満々だな」


「私たちはこの辺のお掃除と料理のセッティングだって。台所キッチンはこっちよ」


「う、うん。じゃあレオン、頑張ってね」


「おう」


 広い居間の端にある扉の向こうが台所キッチンだった。

 想像してたよりも綺麗で安心。


「良かった。もっと蜘蛛の巣とか、変な虫がいるのかと思ってた」


「ね、先生ってばきっと料理した事ないんじゃないかな」


「ルッカ先生なら、そんな気がするわ」


 ふふふっと小声でお喋りをしながら、皆が持ってきた料理を盛り付けていく。


「あっメイちゃんサラダ持ってきたんだ。家もなの」


「お野菜と果物フルーツは傷まないように冷やしておきたいわね」


「そうね。先生~! 冷蔵庫お借りしまーす!」


 多分聞こえてないと思うけど、一応広間の方に声をかけて冷蔵庫を開けると……


「なにこれ……」


「先生……」


 冷蔵庫の中にはビールやらお酒でパンパンだった。


「先生、どんな生活してるのよ……いいわ。これ全部出しちゃいましょ」


「そうね……この辺に置いておけばいいかな」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 クリスマス会が始まった。

 みんなでご馳走を食べて、ゲームをして盛り上がっている。

 ルッカ先生も途中から合流したディアーナ先生も上機嫌でお酒を飲んで、ソファーに寝そべっているわ。

 ディアーナ先生のこんなに隙だらけの姿を見るのって初めてかも。

 そう思った生徒は私だけじゃないみたい。

 ヨハン君を筆頭に男子生徒がじりじりとディアーナ先生との距離を縮めて……あっ先生危ないっ!!


「「「いってえーーーーーー!!!」」」


 嘘……全然見えなかったけど、襲い掛かった男子みんなが床に叩きのめされていた。

 ディアーナ先生は全く動いていないのに……?


「あんたたち、今日は料理もお酒も美味しいし無礼講と言いたいところだけど、明日校庭50周ね」


 頬が薄赤くほろ酔いのちょっぴりセクシーな笑顔で残酷な通告を果たしたディアーナ先生に、打ちのめされて床に倒れている男子みんなは聞こえてるのか分からないけどガクっと頭を落とした。


「男子って、本当に馬鹿よねー……」


 料理に夢中でその中にレオンがいなくて良かった……。


 皆が持ち寄った料理はどれも美味しくて、男子生徒おとこのこ達はどんどん平らげていってご馳走はみるみるうちに無くなっていく。

 料理が少なくなるとキッチンに向かって、残りの料理を温めながら持っていく。

 ああ、レオンのおばさんのシチューがもうすぐ無くなっちゃう。


「メイちゃん! もういいから。あとは男子達にもやらせないと! ほとんど何も食べてないでしょう?」


「う、うん。じゃあ、あとはこれだけ運んだら……」


「いいのいいのっ! 早く戻って!! 皆メイちゃんを待ってるんだから!」


「ありがとう。じゃあ、ちょっと喉が渇いちゃったからジュースだけ飲ませて?」


「あっ! メイちゃんそれだめ!! それはお酒ーーーーー!!!!」


「えっ?」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「……あれ?」


「おう。起きたか、まったくなんで酒なんか飲んでるんだよ。メイは馬鹿だなー」


「え……お酒?」


 ……そうだった。私、台所に置いておいたビールをジュースを間違えて飲んじゃったんだ。

 でもそれで、私どうなったんだっけ?

 あれっ? 私……もしかしてレオンにおんぶしてもらっているの!?


「きゃああああっ1! やだっ! ごめんなさい! 降りるっ! 降りるからっ!!!」


「いてっ! いってー! おい暴れんな! 安全に返せって先生からもみんなからも厳重に言われてんだよ! 酔っぱらってるんだから大人しくしてろって!!」


「だっ大丈夫! もう酔ってないから! おっ重いし!! やだ、降ろして!!」


「だから痛いって! お前を歩かせて怪我させたら俺が殺されるんだっての! それにメイ一人くらい重くねーよ。お前いつも大食いなのに全然肉ついてないんじゃねー?」


 えっ? 肉がついてない……?

 確かにまだそんなに胸も大きくないけど……いつかママみたいに大きくなるもん。


「……ひどいっ! いいからもう降ろしてよ!!」


「いたたたたたたたっ! 髪引っ張るなって。どんだけ飲んだんだよ……」


「あ、ごめんなさい」


「そうそう。そうやって大人しくしてろって。帰ったらまだメシ残ってるかなー」


「レオ、まだ食べたりないの?」


「当然だろ。酒飲んでぶっ倒れた誰かさんのせいで食いたりねーっての。メイもほとんど何も食ってないんだろ? 家に着いたら食い直そうぜ」


 パーティーの途中だったんだ。

 どうしよう。私、悪いことしちゃった。


「まーでも、ラッキーだったぜ。酔っぱらった先生達に絡まれた奴らは……たぶん今日は帰れねーだろうし」


「そ、そうなんだ……」


 それなら良かったの、かな。

 

 静かな夜道を歩くのなんて初めてで、静かな帰り道をレオンの歩く足音だけが聞こえてくる。

 やっぱり恥ずかしいな。

 子供の時はじゃれて良くくっついていたけど、学園に入学してからは手も繋がなくなっちゃったし……。

 どうしよう。なんかドキドキしてきちゃった。

 気づかれないようにしなきゃっ!!


「おい、何をもぞもぞやってんだよ。落ちるからしっかり捕まっとけって」


「そっそれはそうなんだけど……あっ!!」


「今度は何だよ!?」


「レオン、見て!! 雪!!!!」


「おおっ!!! どおりで寒いと思ったぜ」


 空から何か冷たいものが頬に当たるなと思って見上げると、小さな白い雪の塊が夜の星闇に輝いてパラパラと静かに降りてきていた。

 すごい。クリスマスイブに雪なんて……昔絵本で読んだテレーズ様の初デートの時の神話みたい。


「きゃあああああああああああっ!!!」


「おいっ! どうしたんだよメイ!? 変なやつだなー」


「なんでもないの!」


「おう、さみーから早く帰るぞ!!」


「うん」


 それとなくレオンの肩に顔をうずめてみる。

 えへへ。レオンの背中……暖かい。


 もう少しゆっくり帰って欲しいな……。

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