剛をモデルに3
1518年。いまから丁度500年前、15才のノストラダムスは、人生の初めの試練を経験するわ。
15才。今でも子供は高校入試と言う形で、進路について悩むことになる。
奈美も近くの高校に通うために、一年すったもんだをしたことを思い出す。
日本は春から新学期だけど、欧米は秋から。
きっと、今頃の季節はノストラダムスも悩んだり、新しい生活のための準備をしていたかもしれないわ。(物語の時期は2017年12月。書くのが遅くてすいませんm(__)m)
「ねえ、剛はどこの高校に行ったの?」
ふと、15才の剛に興味を持って奈美は聞いた。
奈美と剛の年齢は違う。テーブルをはさんで見ていた「金八先生」の違いでもわかる。
奈美の時代には、すでに金八先生はいじめがメインだった気がするが(再放送かもしれない。)
剛の時代は、不良がメインだった気がする。
剛もリーゼントをしていたのかしら?
変な興味が奈美の心にわいてくる。
「工業高校だよ。オレ、バカだから。」
剛は謙遜しながら恥ずかしそうに笑う。
「隣町の?」
遥香が少しだけ興味をみせた。
「うん。近いし…オレ、普通校に合格するほど頭よくなかったから…。これでも大変だったんだ。塾に通わされて。必死で勉強したんだ。」
「剛、あんた、塾に通ったの?!」
奈美はそこで驚いて剛を見た。
か、金持ち…だ。
奈美は思わずため息をついた。
奈美の場合、近いと言う理由で商業高校一本の選択しかなかったし、
不合格なら、花嫁修行が待っていた。
いや、読んでいる人が考えてるような、ぼんやりしたものではない。
当時、奈美のまわりは嫁不足で、独身の職人がたくさんいたし、婦人会の高齢化に歯止めをかけたかった母親たちは、本気で奈美を仕込もうと画策していた。(と、中3の奈美にはみえた。)
中卒でも、親からしたら将来の設計はしっかりと組上がっていたから、奈美に塾に通わせる必要など、親たちにはなく、未来を本気で変えるには、奈美は必死で勉強するしかなかったのだった。
一時期は、塾に強引に通わされる友人を羨ましく感じたこともあったけれど、ふたを開けたら、奈美は結構上位の成績で合格を果たすことが出来ていた。
「うん。塾にいったよ…。沢山怒られたし。で、なんとか合格したけど、次はバイクを買ってもらうのに苦労したんだ。」
剛は苦労話に付きもののため息を一つついたが、奈美には金持ち自慢にしか聞こえなかった。
「バイク?良い身分ね。」
奈美は嫌みったらしく呟いて、食べもしないのにケーキをフォークでつついて気分を落ち着けようとした。が、その様子に、ケーキのあまりを狙っていた剛の気持ちを逆撫でする。
「通学するのに必要だったんだよ。うちには野菜を運ぶカブしかなかったんだ。」
少しイライラしながら、剛は反論する。
スーパーカブ。一時代前のバイクの名称で、省略してカブと呼ばれることもある。
安定性があり、丈夫で長持ちではあるが、農業人工も高いこの地域では、農家が野菜を売るためのリヤカーの牽引に使われるイメージが強く、農家の長男の剛には、絶対に乗りたくないバイクであった。
「オレだって、高校に行くなら、格好いいバイクに乗りたいじゃない?家から学校まで40キロはあるんだよ。」
剛は口を尖らせて、必死に弁護をした。
「あれ?そんなに距離があったかしら?」
その必死な様子が、遥香の追求心に火をつけて、遥香はスマホで距離を検索し始めた。
「格好いいバイクかぁ…」
奈美は、少し上の兄のバイクを思い出した。
田舎に住んでいるので、奈美の兄弟は、ほとんどアウトドアが趣味だ。
上の兄は、バイクが好きで、家の仕事を手伝いながら中型のバイクを買っていた。
建築業とツーリングで作り上げた背中のラインは、妹の目から見ても素敵に感じたものだ。
その兄を思えば、剛の気持ちも分からなくはない。
「あら?28キロよ。30キロも離れてないわ。」
調べ終わった遥香が、満足そうに結果を発表すると、窮地に陥った剛が、叱られた大型犬のように上目使いに遥香をみながら、
「でも、大変なんだよ…雨の時だってあるし…」
と、負け惜しみを言った。
28キロね…
ふいにアヴィニョンとノストラダムスの家の距離が奈美の頭に浮かんできた。
たしか、20キロだったわね…
そこで、奈美の頭のなかで、新しいノストラダスムが、クリスマス前の屋敷のなかで、馬が欲しいと駄々をこねる様子が浮かんできた。
お金持ちらしいし、栄養が行き届いた丸々とした少年で、わがままをいうなら、きっと、お母さんにするんだろう。
「だって、必要なんだよ…新しい馬が!この家にだって帰ってきたいし…。」
「買わなくても、家にだっているじゃないの。」
もとは倹約家のユダヤ人の家(ノストラダスムの家はキリスト教に改宗しています。)じゃなくたって、わがままな息子には、どこのお母さんも文句を言うものだわ。で、古今東西、どら息子はいつの時代も口を尖らせて屁理屈をこねるわ。
「嫌だよ…。あんな荷物を運ぶ馬。もう、よぼよぼのおじいちゃんじゃないか!足だって、こーんなに(と、大袈裟にてを広げる)太いしカッコ悪いよ。あんなのじゃなくて、スペイン産の黒い馬がほしいんだよ。風のように早く走るやつ。」
ミシェル(ノストラダスムの名前)は、お母さんの袖を引っ張ってワガママをいうわ。
この時代、馬はスペイン産が高級だったみたいね。
兄貴がホンダのバイクに憧れたように、きっと、思春期のミシェルも、すてきな馬でツーリングをしたかったはずだわ。
奈美は、自分の胸のなかで新しく息ずいてきた、小さなノストラダスムが好きになってきた。
案外、星占いは当たるのかもしれない。