剛をモデルに6
「私、話していたらなんか、冒険活劇がまたみたくなったわ。」
奈美は色々空想してため息をついた。
「冒険活劇?」
古い言い回しに反応して遥香が聞き返す。
「うん。なんか、テレビで再放送のロードショー番組をやってたでしょ?そんなやつ。」
奈美は、休日の昼に家族皆で見たテレビを思い出した。
「マッチョなヒーローが登場して、お姉さんはセクシーで、ピストルで撃ちまくる宝探し物。」
奈美は素敵な思い出を甦らせて微笑んだ。
「オレもピストル撃つ女の人の話は好きだ。」
突然、沈黙していた剛が会話にはまる。
「でも、16世紀の話なら、ピストルは使えないでしょ?」
遥香がそれをサラリと流した。
「うん、私は、ピストルは別に良いのよ。さっきケンちゃんを思い出したら、なんか、お伽噺のような…綺麗な冒険話が見たくなってきたのよ。」
「ケンちゃん?」
突然の健二の登場に戸惑った遥香が聞いた。奈美は夢見るように、うっとりとした声で、
「うん。ケンちゃんて騎士みたいだと思わない?」
と、奈美に聞かれて遥香はますます混乱した。
もう、50代だろうか、現在の健二は、ふくよかな恵比須顔の小男で、丸い腹を前につき出しながらよく動く気さくな奴だ。時代劇で例えるなら、騎士というより、戦終わりの野武士の方が似合いそうだった。
「どちらかと言うと…武士かしら?」
遥香が遠慮がちに言うと、
「それもいいね。戦が終わって傷だらけの…」
奈美は、戦いでボロボロになりながらも、勝ちどきの怒号をあげる健二を想像して胸をあつくする。
仕事が終わり汗だくになりながら、帰ってくる父たちの姿を見るのが奈美は好きだった。
「…そうね、でも、西洋の騎士は、ちょっと合わないかも。」
遥香は、古戦場に現れる野武士の霊のような、チョンマゲがとけて、鎧に矢がささる健二を思い浮かべて眉を寄せた。
「あら?ケンちゃんは、若い頃は、(男の)後輩に慕われて、(親方衆に)良い男だって惚れられてたんだから。武士も騎士もいけるわよ。」
奈美は、三国志のような友情あふれる男のロマンを思い浮かべてときめいた。
「若い頃、ねぇ…」
遥香は、バブル時代のブランドものの派手なジャケットを着て、体の線がしっかり見えるボディーコンシャスなドレスを着た女性を侍らせる若く色男の健二を想像してため息をついた。
「私はダメだわ。想像できない。騎士と言うよりも…ホストみたいだわ。」
遥香は苦笑し、奈美はその台詞に混乱する。
「ええ?ケンちゃんは硬派だよ…ホストなんてありえない。」
「いい加減、俺を無視して思わせ振りに気を引くのやめてよ。」
突然、剛が声を荒げて会話に参加したので奈美は驚いた。剛は目力のある視線を奈美に真っ直ぐに向けると、やるせなさそうに目を細めた。
「それ、わざとやっているんだよね?」
剛に強く責められて、奈美は驚いて目を見開いた。
さすがに、変な物語の話ばかりで、いい加減飽きたのだろう。考えれば剛の話は無視していた気がするし…、剛をモデルにバカにしたような話をしていた気もする。
「ごめんなさい。」
奈美が素直に謝ると、剛は責めるような、諭すような、そんな口調で
「そう思うんなら、早く食べてよ。そうやって、思わせ振りにフォークでつつかれると、さっきから気になるんだよ。」
と、奈美のロールケーキを見つめた。
やはり、そっちでしたか…
奈美は、苦笑してロールケーキを剛の前に差し出した。
「良かったら食べる?」
「いいの?」
嬉しいのを押さえようとしても、口角が上がってしまう不器用な剛を見つめながら、奈美はしみじみと剛と言う人間の不思議さを噛み締める。
この人、気づいてないけど、食べ物がからむと、色気のある少女漫画の台詞をサラッと言うんだよね…
表情の作り方とか、声だけは、イケメン使用なんだよね…
「ふふっ。」
つい、声に出して笑ってしまい、剛は決まり悪そうに奈美をみた。
「べ、別にケーキが欲しいから言ったんんじゃないからね。」
ツンデレも良くできました。
奈美は朗らかに笑って、遥香と目をあわせた。
「わかってる。ありがとう。食べてくれて。で、もう少し、この話をしていてもいいかな?」
奈美は剛を見ると、その頃には、皿は空になり、満足げに剛は愛想よく笑う。
「いいよ。」
ああ、この底抜けな無垢なバカさ加減、絶対にいけると思うんだよなぁ…
奈美は、剛を見ながらちゃんとした話に仕上げようと決意を固めた。
この話は、剛と共作にするつもりだ。
そして、もし、本が出版されたら…
剛の残念な人生にも、一筋の光が差すかもしれない。
まあ、それは無理でも、二万円稼げたら、遊びで県外を出たことがない剛をあの夢の名古屋に連れていってあげられる。
ズボラでいい加減な剛の為に、自分の働いたお金を使いたくはないが、
剛の面白さを伝えて、夢を叶える手伝いはしても良いと思った。
桃源郷を語るように、名古屋のモーニングを語る剛。
名古屋で一番行きたい場所。それは、
名古屋ビルジング…
本当に名古屋に興味があるのか、無いのか…、それともツウなのか…
良く分からないからこそ、たどり着いた時の剛の姿をみてみたいとも思う。




