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権能

白夜が月夜を連れて飛んだのは、草原と森の境目辺りで草原側の遠くに整備された通り道がある。


「この森の中に、今回のクエストの討伐対象がいる。

討伐対象の魔物以外にも襲ってくる危険な猛獣もいるからな。」

「わかりました。」


白夜の言葉に月夜が返事をした後、白夜は月夜の前を歩きながら森の中に入っていった。

しばらく、白夜と月夜が森の中を歩いたが、討伐対象の魔物どころか生き物と出会うことがなかった。


「おかしいな。

討伐対象の魔物が見つからないならともかく、生き物が一匹も見つからないとなると、考えられる可能性は…。」


白夜は、前を見ないで考えながら歩いているが、木にぶつかったりつまずいてこけることがなく普通に歩いていた。

また、しばらく進むと、ようやく生き物に出会った。

その生き物はとても大きく禍々しい姿をしていた。胴体は人に似た形をしているが、両手両足の指は人より長く、爪もとても鋭く長い、そして背中の腰あたりから太くて長い尻尾が生えている。胴体から5つの長い首が伸びていて、その先には赤く怪しく光る眼がそれぞれの頭に3つずつついている。首は、普通についているところもあるが、4つは背中や肩など様々な場所から生えている。

その生き物は、原型をとどめていないため何の生き物かわからないが何かを5つの頭で食べているところだった。


「あれはなんですか。」


月夜は、恐怖や嫌悪感をあまり顔に出さずに白夜に聞いた。

顔には出ていないものの声から怯えていることが伝わった。


「怖いなら無理せずに言えよ。隠さなくても怒鳴ったりしないし。」

「わかりました。」

「あれが何かって話だったな。

あれは、魔物の上位種だろうな。」

「あれが、魔物ですか?」

「上位種を見るのは初めてか?」

「はい。」


白夜は、魔物の上位種を警戒しながら月夜に説明を始めた。


「魔物は、下位と中位種は本能的に他の生き物を殺そうとするのが基本だが、上位種は違う。

上位種は、一部を除いて本能も理性も持たずに他の生き物を殺すだけの兵器だ。」

「他の生き物を殺すことは同じなんでしょ、なら何が違うの?」

「本能的に行動している下位や中位種は、死への恐怖から殺すより逃げることを選ぶ。でも上位種は、死に対する恐怖のような感情を抱くことはない。ただ、他の生き物を殺すためだけに行動するため、例え致命傷を負っても死ぬ瞬間まで相手を殺そうとする。」

「つまり、どういうことですか?」

「生き物は、死への恐怖を抱き死から全力で逃げる。ようするに、上位種は生物というよりは殺戮兵器ということだ。

まあ、魔物の中には普通に会話が出来る自我を持ったものもいる。そういう上位種は、知能が高いから人とほとんど変わらないぞ。」


月夜は、白夜の説明を聞き改めて目の前で何かを食べている魔物を見た。


「あれは、自我を持たない上位種ってことですか。

それで上位種はどれくらい強いんですか?」

「知らん。」


白夜は力強く断言した。

その言葉に月夜は、目を見開いて驚いた。


「どうして、知らないんですか?」

「いや、俺からしたら上位種は雑魚だし、月夜のステータスを見た感じだと勝てないことはないぞ。だから、ちょうどいいから一人で戦ってみろ。」

「え!?」


月夜は、白夜の言葉に驚き目を見開いて白夜の方を向いた。

それに対して白夜は、魔物から目を離さずに月夜に話しかけた。


「討伐対象よりは強いが、どのみち月夜がどれくらい強いのか見ておく必要があるからな。

まあ、安心しろ、いざとなったら俺が助けに入るから、死にかけるようなことはない。」

「わ、わかりました。」


月夜は、物音を立てないように足元や周りに注意を払いながら魔物に近づいた。

魔物にある程度近づくと、月夜の体から黄色い魔力が沸き上がり左手に集まっていき、魔力は風に変わり始めた。しかし、月夜は風を放とうとはせずにため続けた。


(なるほど、一撃で倒すことで戦闘することを避けるか。

まあ、昨日まで奴隷だった月夜に戦闘での立ち回りはわからないから仕方ないか。)


月夜の左手を覆いつくすほどに風が増え、月夜は左手を魔物に向けて突き出した。その突き出された左手から荒れ狂う竜巻が発生して地面を抉りながら魔物を飲み込んだ。

魔物は、竜巻の中で体をズタズタに引き裂かれ、竜巻が晴れた時には体中に切り刻まれた傷だらけで血まみれだった。

月夜は、その姿を見て安堵のため息ついた後、白夜の方を向いて近づこうとした。


「月夜、後だ。

そいつは、まだ死んでいないぞ。」

「!?」


白夜の言葉に月夜が後ろを向くと、先ほど倒したはずの魔物が血だらけで傷だらけの姿で月夜を殺すために体を引きずりながら5つの長い首を必死に伸ばして殺そうとしていた。その魔物の異常さに、殺されかけている恐怖に怯えて何も出来ずにただ佇んでいた。

その光景を見ていた白夜は、助けに入ろうとしたその時。














月夜の体から膨大な光が溢れてだし、辺りのすべてを光が塗りつぶした。

白夜は、月夜の体から光が溢れ始め出した時に近づくのをやめてもう少しの間様子を見ることにした。

光が収まり、視界が晴れると先ほどまでとはまるで違う風景が広がっていた。

月夜を殺そうとしていた魔物は塵1つ残さずに消え去った。そして、月夜から魔物がいた方に向かって地面が円柱状に切り取られたかのように消滅していた。それは、先ほど月夜が放った竜巻による被害など、比ではないほどの破壊の跡だった。

月夜は、倒れそうになっていたため、傍まで行き受け止めた。


「まさか、ここまで強力な権能を持っているとわな。」


自分の腕の中で気絶している月夜の顔を見ながら微笑んだ。そこで、白夜は自分が微笑んだことに気づいて驚いた。


「まさか、俺が自然と笑うようなことがあるとわな。

やっぱり俺の勘が正しかったってことか。

まあ、今は月夜が目覚めるまでここでのんびりしてようか。」


白夜は近くの木に背中を預けて座り、胡坐をかいてその上に月夜を座らせて、自分の方にすがるようにして月夜が起きるのを待った。その間に、月夜が放った権能の力をについて考え始めた。


(月夜の放ったあの光が月夜の権能で間違いないだろう。しかし、あの光はなんだ?)


白夜は、月夜の放った光による傷跡を観察して、どういった権能なのかを考え始めた。

光による傷跡は、円柱状に抉られた地面は押しのけられた跡ではなくそこにあったものが消え去ったように消えていた。そして地面以外に光が放たれた直線状にあった木も円柱状に消え去った。


(この状況からわかることなんて、光が木や地面を跡形もなく破壊したことくらいか。

光が持つ性質については、これから月夜が権能を使えるようになっていく過程で少しずつ調べていくか。)


白夜は、月夜に権能の使い方などをどうやって教えていくかを考えながら月夜の頭をやさしく撫でた。

そんなこんなで時間を潰していると、夕方になりようやく月夜が目を覚ました。

月夜は、目が覚めてすぐは自分の置かれた状況を理解できていなかったが、魔物に殺されかけていたことを思い出して体を一瞬震わせ怯えていたが、白夜の膝の上に座って気絶していたことに驚いたり、どういう反応をしていいのか分からないようで困っていた。


「ようやく気が付いたようだな。」

「あ・・・、す、すいません。助けてくださりありがとうございます。」

「いや、助けてないから礼はいらない。」

「え!?じゃあ、どうして私生きて?」

「やっぱり、気づいてなかったんだな。

まあ、それについては帰って説明する。」

「わかりました。

これからまた討伐対象を探すんですか?」

「いや、今日は疲れただろうから、討伐は明日にする。

今日は、王城に戻って新しい家の場所を教えてもらって新しい家で休むか。」

「わかりました。」

「じゃあ、行くぞ。」

「はい。」


白夜は、月夜に手を差し出して言った。その手を月夜が掴むと王城の前に移動した。

朝と同じように、兵士の人が門を開けてくれ、城の中を進み王様がいた部屋まで移動した。

王様は朝と同じように玉座に座っていて、その後ろに従者のアランが立っていた。


「帰ってきたぞ。

で、家の準備は出来ているか?」

「はい、出来ています。

家の場所は、こちらの地図に書いてあるので見てください。」


そういってアランは、白夜に新しい家の場所が書かれた地図を渡してきた。

白夜は地図を確認すると、すぐにしまった。


「ありがとう。

で、なんでお前はニヤニヤしてるんだ?」


白夜は、先ほどからずっとニヤニヤと笑った顔の王様を睨んだ。

それに対して王様は、笑った顔のまま白夜に応対し始めた。


「いや、お前がその子と一緒に過ごすことでこれからどう変わるか楽しみでな。」

「お前は何を期待してるんだ?

月夜とこれから一緒に過ごすようになって俺が変わったとしてもお前が面白がることは何一つないと思うが。」

「お前がこの国に来てから、誰一人として変えることが出来なかったお前が変わる可能性があるんだ、楽しみに決まっているだろ。」


白夜は、呆れた顔で王様を睨み続けた。


「俺を変えたやつは一人だけいただろ。」

「あ・・・、確かにいたが、むしろあいつの変化が大きすぎてお前が変わったことをよく忘れる。」


白夜の一言に王様は両手で頭を抱えて俯いた。そして、王様だけではなくアランまでもが俯いて頭を抱えてため息をついた。

月夜はその状況についていけずになぜそんな反応をするのか分からずに戸惑っていた。


「まあ、俺は変わったって言っても少しだけだからな。」

「あれだけのことがあったのに少ししか変わらないあなたが異常なのですがね。」

「かもな。じゃあ、俺たちはもう帰るわ。」

「ああ、また来いよ。」

「気が向いたらな。」


王様は、背中を向けて帰ろうとする白夜に手を振りながら少し声を張っていった。

それに対して、白夜は首から上だけ王様の方を向いて返事をした。

白夜は月夜を連れて王城から空間跳躍で新しい家の近くに移動した。

空間跳躍で移動した後、白夜は周りを見回して地図を取り出して家の位置を確かめた。


「あそこにある建物が新しい家みたいだな。」


白夜が指をさした先にあった建物は、塀に囲まれていたが2,3階建てなのかかなりの部分が見えている。

白夜と月夜は、塀をくぐるとそれなりに広い庭が広がっていた。その庭には、特に何もなくちょっとした運動ができるぐらいに広いスペースがあった。

家の方は、和風の建物で、二人で暮らすにしては明らかに大きすぎる


「あいつら、二人で暮らすって言ったはず、なんだが?

まあいいか、月夜にも少しは贅沢させた方がいいだろうし。」

「私は、別に普通に暮らせればそれで充分贅沢ですけど。」

「月夜は、もう奴隷じゃないんだから、その価値観は変えた方がいいぞ。」

「わかりました。」

「じゃあ、家の中を見てみますか。」


白夜が家のドアを開け中に入ると、家の中は外見と同じで和風の作りだった。玄関から伸びている廊下はすぐに突き当たりになりT字路のようになっていた。

白夜と月夜の二人が玄関に入ると、片方の廊下から不知火と小百合が出てきた。


「なんでお前らがここにいるんだ。」

「王様に、新しい家の相談を受けたから相談に乗るついでにいろいろ作業を手伝っていたのよ。」

「そういうことだ。

まあ、二人で暮らすには大きいとか思っただろう。」

「ああ、思ったが何か理由があるのか?」

「私たちが遊びに来た時に泊まれるように大きめにしたの。」


白夜は、先ほど家の外観を見て気になったことを質問すると、小百合は笑顔で自分勝手なことを言い放った。


「そんな理由で人の家の構造を決めないでくれ。」

「いいじゃない、どうせあんたは食べて寝る以外ですることは本を読むくらいでしょ。」

「・・・、そうだけど。」

「月夜のためにも私たちが出来る限り近くにいた方がいいでしょ。

あんたは、女の子のこととかわからないし、一般的な常識もわからないじゃない。」

「小百合、その辺にしといてやれよ。

こいつだって、常識がないなりに何か考えがあるんだろうからさ。」


小百合が、白夜に対していろいろ小言を言っているのを不知火が止めたが、かなり失礼なことを言いながら笑うのを必死にこらえるように口元を手で押さえていた。


「はあ・・・、分かった。

なら、月夜の教育をちゃんと手伝ってもらうぞ。」

「もともとそのつもりよ。

月夜、これからわからないことがあったら私に聞くのよ。これから魔法や魔法を使った戦い方なら白夜より私の方が教えるのにむいている。」


小百合は、月夜に近づいて頭を撫でながらやさしく微笑んで言った。

その行動に月夜は恥ずかしそうに顔を少し赤くして俯いた状態で、ぎこちない硬い口調で疑問に思ったことを聞いた。


「小百合さんは、魔法使いとして白夜より優れているんですか?」

「いいえ、白夜の方が優れているわよ。

けど、白夜は魔法の真理を理解して魔法を使っているけど、普通の人は魔法式を組み合わせて魔方陣を組んで魔法を使うのよ。だから、白夜の魔法を使う方法は普通の人には理解できないのよ。」


小百合は簡単に説明しているのだが、昨日まで奴隷として生きてきた月夜には小百合の説明が理解できなくて、どう反応していいかわからなかった。


「はあ、お前人のこと言えないだろ。

月夜に、魔法式だの魔法の真理だの言っても分かるわけがないだろ。」

「そ、そうかな。」

「白夜に、それを言われたら終わりだな。」

「でも、他に説明のしようがないし。」

「どうでもいいが、いつまでも立って話す気なんだ。いい加減中に入って座りたいんだが。」

「どうでもいいって、・・・そうね。続きは中でゆっくり話しましょう。」


白夜と不知火に言われたことに必死に、弁明しようとする小百合を白夜が一蹴して中に入って座りたいと言ったことで、玄関で話し続けるのをやめて四人で家の中に入っていった。

家の中は、和風の部屋が多いが洋風の部屋も少しあった。特にリビングとキッチンは洋風で作られていた。

白夜たちは、リビングのソファーに座り先ほどの続きを話し始めた。


「じゃあ、魔法の真理について説明するか。魔法の真理っていうのは、魔法を使う時の魔力の動きの詳細のことだ。」

「魔力の動きの詳細とは、どのようなことですか?」

「簡単に説明するなら、さっき月夜が使った風の魔法は魔力を風の性質に変化させて自然界に存在する風とほぼ同じものにする。その時に魔力は、自らを風の性質に変えるために出力や密度を変化させながら複雑に動くんだが、まあその動きは理解しなくていいそういうものだと覚えておく程度で十分だ。」

「わかりました。」

「次は魔法式についてだ。魔法式っていうのはさっき説明した魔力を風に変える動きを文字のようにわかりやすく表したもので、それを魔力をとしてその文字を書けば魔法式が持つ機能を出せる。」

「つまり、魔法の真理を見て分かるようにしたものが、魔法式ということですか?」

「そういうことよ。」

「なんで、お前が教えたみたいな態度をとってるんだ?」

「まあいいじゃない。」


白夜の説明で月夜は理解できたが、ひとつ疑問もできた。


「あの、魔法式を作ったのは誰なんですか?」

「魔法式が作られたのは今から数万年前だから、誰が作ったか分からない。

でも、一説には神様が作ったとされている。」

「神様なんて本当にいるんですか?」

「ああ、正確には神霊っていう族だな。」

「そんな種族もいるんですね。」

「まあ、神霊は人前にあまり出てこないからな。」

「そうなんですか。」

「さて、魔法についての説明はこれで終わりにするか。」

「じゃあ、これから何するんだ?」


魔法の説明を終えソファーの背もたれに縋った白夜に不知火が訪ねた。


「ああ、次は権能について説明するんだが、その前に月夜にこれからどういう修行をするか話す。」

「もう権能について話すのか?」

「お前らも気づいているんだろ、月夜の目の色を見た時から。」

「ああ、赤い目の子供なんて限られてるからな。」


白夜の言葉に不知火と小百合が暗い顔をした。

月夜も不知火が赤い目といったことで暗い顔をして俯いた。

そんな中で白夜一人がソファーに縋って普通にくつろいでいた。


「まあ、月夜がそんな顔をするのは分かるが安心しろ、俺たちは赤い目の子供に関してはそれなりに理解している。」

「それってどういうことですか?」


白夜の言葉に月夜は顔を上げぎこちない口調で聞き返した。

その月夜の目はとても弱弱しく白夜に縋ろうとしているように見えた。


「赤い目の子供たちが呪われているって話ね」

「けど、それは間違っているぞ、赤い目の子供たちは生まれつき強力な魔力を持って生まれるだけだ。」

「え!?確かに生まれつき魔力は強かったですけど。」

「納得がいかないか、まあそうだろうな。赤い目の子供たちが、呪われた子供と呼ばれる理由は権能が原因だ。」

「権能?」

「そうだ。赤い目の子供は、理由は分からないが生まれつき権能を扱える。

月夜は今日みたいに死にかけたり、心の底から拒絶した時に何かに守られたり周りのものが壊れていたりしたことがあったんじゃないか?」

「はい、ありますけど。」

「それが原因で呪われた子供って言われてきたんだろ。でも、それは権能がお前を守るために行ったことだ。」

「でも、その時の一回は魔力を封じる枷をつけられていたのですが。」

「魔封じの枷は魔法を使えなくするためのものだからな、権能は魔封じの枷じゃあ封じられないだから安心しろお前は呪われた子供じゃない。まあ、権能についてはあとでちゃんと説明する。」

「わかりました。」


白夜の言葉に月夜は俯いて答えたが、その横顔は嬉しそうに見えた。

その横顔を見た小百合と不知火も嬉しそうな顔で月夜のことを見ていた。


「じゃあ、月夜にこれからしてもらう訓練の内容を簡単に説明する。まず、武器と魔法を使った戦闘を出来るようになってもらう。」

「わかりました。武器は何を使えるようになればいいんでしょうか?」

「まあ、最初は使えるようになるが目標だが、最終的には自分の体の一部のように扱えるようになってもらう。武器は槍と刀の二つだ。そして、魔法は槍と刀で戦いながらでも使えるようになってもらう。」

「そこまで戦闘を極める必要があるのでしょうか?」

「まあ、戦いの技術を極めておけば生きていくのに困ることはないからな。

武器の使い方は不知火に習ってくれ、魔法は小百合が教えてくれる。

魔法と武器を駆使した戦闘の仕方と権能の使い方は俺が教える。」

「わかりました。

これから、お願いします。不知火さん、小百合さん。」

「ああ、よろしく。」

「こちらこそよろしく。」


白夜の説明を聞くと、月夜は不知火と小百合に頭を下げた。その月夜を不知火と小百合の二人は微笑ましいものを見るような顔で見ながら月夜に返事した。


「じゃあ、権能について説明するか。」

「よろしくお願いします。」

「権能っていうのは人の本性みたいなものだ。人の深層心理が魔力の性質変化させたものを言う。だから、権能は人によって全く違う能力になる。」

「深層心理で魔力の性質を変えるだけですか?」

「ああ、権能はそれだけのものだ。だが、言葉で言うほど簡単じゃないぞ。

深層心理が魔力に干渉することは、普通はありえない。」

「では、どうして権能があるのですか?」

「人が深層心理に近づけば近づくほど、権能の力を意識的に引き出せるようになる。

だから、権能には人の本性が強く出る。例えば、熱血で努力すればなんでも出来るって考えてるバカみたいなやつは、努力すればするほど火力が上がる炎を出す力だったり、剣術を突き詰めれば切れないものがないと思っているやつは、強力な斬撃を出す力だったりする。」

「つまり、その人が心から信じるものや望んでいるものが形になったものが権能ということですか?」

「まあ、その解釈で間違ってない。付け加えるなら、権能はあくまで魔力が変化したもの魔力を操るのと同じ感覚で操れるし、権能に変化させる魔力の質によって威力が上がる。」

「魔力の質とはなんですか?」

「魔力の密度だ。大量の魔力を圧縮すればするほど質は上がる。

人が魔力の生成量を上げる時瞑想するが、瞑想で上がるのは体内にある魔力を生成する器官を大きくすることと生成する魔力の質だ。」

「権能に変化させた後に圧縮することは出来ないのですか?」

「出来るぞ。まあ、権能の本来の力はそれだけじゃないが、今はそれだけ知っていればいい。」

「あの結局、権能は魔力なのですよね。では、なぜ魔封じの枷で封じられないのですか?」

「ああ、魔封じの枷は魔力の動きを少し乱す鉱石で出来てるから、魔法を起こすための動きを魔力が取れなくなるから魔法が使えなくなるだけで別に魔力は普通に使える。」

「そうなんですか。」


月夜は、片手を口元に当て白夜の説明を頭の中でまとめて権能や魔法について理解するように努力した。そんな月夜を見ている白夜は少し笑っていた。

そして、月夜が頭の中を整理するのが終わったころ、白夜は立ち上がり月夜に近づいた。


「じゃあ、月夜の権能を少し見せてもらおうか。」

「でも、私まだ権能を扱えませんが?」

「ああ、知ってるだからこうする。」


白夜は、月夜の頭に向かって手を伸ばした。

白夜の手は、ゆっくりと月夜の頭に近づいた。その途中で白夜は月夜に対して強力な殺気を向けた。その殺気は、殺気や気配など感じ取れない普通の人である月夜ですら殺されそうであること感じ取った。月夜には白夜の伸ばす手に触れられれば死ぬと感じた。しかし、逃げようにも体は動かず声もでない体から血の気が引き全身が凍ったように感じた。


「おい、白夜なにしてるんだ。」

「黙って見ていろ、俺に近づくとお前らでもどうなるかわからんぞ。」


月夜に殺気を向けたことで不知火と小百合が白夜を止めに入ろうとしたが、白夜に魔法で拘束されて動けなくなり止めることが出来なかった。

そして白夜の手が月夜まで残り十数センチのところまで来た時、魔物の時と同じように光を放ち始め、白夜の方に光の球体を飛ばしてきた。光の球体は直径三十センチくらいで光速で白夜を貫こうとしていた。しかし、その球体を白夜は片手で受け止めた。球体は白夜の手ごと貫こうと手を少し押したが、すぐに白夜の圧倒的な力で握り潰された。

月夜は、魔物の時と同じように気絶した。


「やっぱり、魔物の時に力のほとんどを使い切ってまだ回復しきってなかったみたいだな。

しかし、魔物相手に放った量に比べると微々たるものだが、これほどの威力があるとは予想外だ。」


白夜は自分の手の平を見ながら言った。白夜の手は傷一つなかったが、一瞬とは言え自分の手を押した力に驚いた。


「今の力が月夜の持つ権能なのか?」

「なんて速度なの。

それに、なんて常識外れの威力なの。」

「お前、あれの直撃を受けてよく無傷でいられるな。」

「はあ、お前らと違って魔力量の次元が違う。

俺が、日常的に身に纏っている魔力の質が高いせいで身体能力や防御力の桁が違うって前にも言っただろ。」


白夜は、ため息をついて無傷でいることの理由を話した。

その理由に、不知火と小百合は何とも言えない顔をしてどう反応したらいいのか分からなかった。


「ん、不完全な状態の一撃でお前が少し押されたってことは、完全な状態ならお前もやばいんじゃないのか?」

「ああ、だから月夜が育てるのが楽しみなんだ。

これからこいつがどれだけ強くなるのか楽しみだ。」


白夜は、気絶した月夜に対してソファーに寝かせてやり、自分もソファーに座って月夜の頭を自分の膝の上に置きながら言った。その月夜を見る顔は笑っているが、その笑い顔は善人のものには見えない。口の端を吊り上げ目を細めたその顔は悪人の顔にしか見えない。


「お前なんて悪人面して笑ってるんだよ。」

「そんな顔してるつもりはないんだが?」

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