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人喰い遊園地〈開園〉

 


 ーー十九時四十分。

 


 もののけから送られてきたチケットに書かれていた時間の約二十分前に、勇也たち四人は、裏野ドリームランド跡地に到着した。巽は路肩に愛車を停める。



 満月の明かりが周囲を照らしだす。田舎だからか、周りに街灯がほぼない。だが、満月の明かりだけで十分だった。



 勇也たちは車から降りる。



 車を路肩に停車させているのは、勇也たちのグループだけではなかった。よく見れば、既に三十人ほどの人が集まって来ている。彼らの目的は、勇也たちと同じだ。



 多くは十代か二十代か。中には、中年や老人の姿も見えた。ほぼ、SNSを見て集まった人たちだろう。後は、行方不明者の関係者か。ふと、勇也は思う。



 この中に、プラチナチケットを受け取った人間はいるのか、と。



 勇也が涼から、真実の一旦を聞いたあの日の深夜、SNS上に、裏野ドリームランドの新たな噂が一つアップされた。



 ーー八月八日、火曜日。二十時。〈裏野ドリームランド〉開園。



 アップされた日付と時間は、まさに、プラチナチケットに記載されていた時間だった。



 つまり、このSNSはもののけがアップしたものになる。



 例え、仕組まれたものだったとしても、もののけと強い〈縁〉を結んでしまった以上、勇也はこの跡地に来なければならない。

 対処の仕方を知らない勇也一人だと危険だからと、涼や華、そして巽までもが同行してくれた。もっとも、そのために四人分のプラチナチケットが送られて来たのだと、考える方が自然だが。



 しかし、自分たちの周りで談笑しているこの人たちは?

 彼らの誰一人、自分が置かれている状況が分かっている人はいるのだろうか?



「多くの人間が、SNSでいいねとリツイートをしていたのに、実際、この場に来ているのはこの人数だけ。……皆、危険だって分かっているのよ。だから、勇也様や巽様が気にすることはないの。冷たいようだけど、自己責任なの」



 顔を歪める勇也と巽に、中学生ぐらいしか見えない華が、きっぱりと吐き捨てる。

 確かに、華の言う通りだ。だけど……そこまで割り切れない。

 何も言い返せず、苦渋に満ちた顔をしている勇也と巽をよそに、まだ人が集まって来る。まるで、お祭り騒ぎだ。勇也がそう思った時だった。



『お祭りだからね』

 耳元で声がした。記憶にない声だ。



 ーー誰だ!?



 はっきりと聞こえた声。男性の声だ。その声だけでは、年は分かりにくい。いっけん若そうな声だが、やけに落ち着いている印象を受けた。勇也は周囲を見渡す。



「勇也様、巽様。今あなた方が考えるべきことは、無事で帰ってくるかという一点のみです。聞いてますか? 勇也様」

 


 落ち着きのない勇也を、華が厳しい目をしながら下から見上げる。



「……今、声が聞こえたんだけど」



 勇也の言葉に、三人が一斉に勇也を見詰めた。一斉に見られ、その迫力に思わず勇也は半歩後ずさる。



「声!? 何て聞こえました!?」

 華が代表して尋ねる。



「お祭りだからねって」



 訊かれるまま、勇也は素直に答える。華と涼が厳しい表情のまま、「お祭り……」と呟いた。



(何かあるのか?)



 勇也がそう思った、その時だった。



 何処からか、陽気な音楽が聞こえてきた。



 打楽器とアコーディオンの陽気な演奏。



 それまで騒がしかった周囲の声が、嘘のようにシーンと静まる。静まったと同時に、演奏は唐突に終わった。ザワザワと周囲が騒ぎだす。



 騒がしさがピークになったその瞬間、裏野ドリームランドの跡地で、野外のはずなのに、一角がスポットライトに照らしだされる。



 スポットライトを浴びているのは、ピンクのウサギの着ぐるみだった。風船の束を持って立っている。



 ウサギの着ぐるみは優雅に一礼すると、『今宵も、裏野ドリームランドに来てくれてありがとう!! 僕はウサギのレン太。もうすぐ、開園だよ!! 皆、準備出来てるーー!?』と、明るく尋ねてきた。



 その声に反応して、「出来てるーー!!」と答える声が、あちこちから聞こえてきた。異様な雰囲気に、勇也と巽はのみ込まれる。涼と華は平然としていた。

 中には、「おかしくないか!?」と声を上げ、慌てて逃げだす者もいた。しかし大半は、その場に残っている。



「最低限の危機管理能力はあったようね」

 逃げだす者を見送りながら、華は毒づく。



「さぁ、準備はいいかい? いよいよ開園だよ、二人とも」



 ウサギのレン太を鋭い目を向けながら、涼は勇也と巽に声を掛けた。





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